テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 連載第122回は、日本放送作家協会が運営する作家スクール「東京作家大学」で優秀な成績を修めた新人、高橋紫野香さんの登場です。

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小説とか、を書くきっかけ

高橋紫野香さんの写真高橋紫野香

「時間に余裕もできたし、小説とか、書いてみようと思ってるんだ」
「プロを目指すってこと?」
「まあ、そこまでは無理だと思うけど。いけたらいいね」
読書とはおよそ無縁、定年を迎えた友人が何気なく言った将来の計画に、ちょっとイラっときた。そもそも小説とか、の、とか、って言い方が気に食わない。だから言ってやった。
「本気でやるつもりなら、お金、かかるよ」と。

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別に、意地悪で言ったわけじゃない。8年前の自分を思い出したからだ。人生で一番最悪な時期(まだ人生残っていますが、今の時点で)を、どう乗り越えるか、の方法として、文字にすることを選んだ。悩み相談の回答で、多くのカウンセラーが、自分の気持ちをノートに書き出してみましょう、と勧めていたからだ。ノート1冊買ってきて、体にたまった苦しさを書き出し、読んでみる。確かに気の毒な内容だったが、世の中で自分が一番不幸という感じもしない。数日しか続かなかった。内容より、泣きながら書いた涙のシミが乾いてノートの表面に波打つほどの凸凹が出来ていることに気づいた。この先、こんなに派手な号泣はできないかもしれない、と思ったら、数ページが貴重なものに見えた。

この体験をもとに、小説を書こうと思った。小中学校で作文しか書いたことがないので、小説教室に通うことにした。有名な先生が教えてくれるところがいいな。芥川賞作家を多数輩出している創作文芸の入門コースに申し込んだ。2万円ぐらいだったと思う。初日の授業に参加して、受講者のレベルが高すぎることに愕然とした。3カ月の間に1人、デビューした。誰も驚く様子がない。ここは書ける人が来る場所だと、1枚も書けずに辞めた。

ノートに書きこむ人のイメージ8年前の人生で最悪な時期、ノートにたまった苦しさを書き出した

小説、脚本、どっちにする?

小説には起承転結という構成の技術が必要だと痛感した。構成を学ぶには脚本がいいらしい。シナリオセンター作家養成講座、期間6カ月に申し込んだ。2015年当時で8万円ぐらい。課題は毎週だったが、研修クラスに進級しても20枚しか書かせてもらえないと知った。長いものを書きたかった。研修クラスの代わりに、と考えて通い出した脚本家連盟スクールは半年で8万円ぐらい。有名なテレビドラマを書いた脚本の先生が毎週登壇する授業内容には大満足だった。が、感情をのせて描写するセリフより、心情描写の地の文が好きだとわかった。自分は、自由に書く小説の方が合っている、と確信した。脚本は書き上げて自由になる、という文章だったからだ。

東京作家大学が開校してメディアに取り上げられていたのは知っていた。初年度の受講料は30万円弱。最初は、高い、と思った。大学といっても学位が取れるわけでもない。講師の方たちが、小説家より放送作家、脚本家の方が多いことも気になった。が、現在も通い続けている。原稿用紙1枚の小説から、枚数を増やしていく勉強法は、遠回りのようで確実に実力がついた。課題の難易度が上がっても、習得した技術がそれを乗り越える意欲に変換してくれた。時間を掛けて練り上げた美文が、自己満足!と徹底的に排除される厳しい指導に落ち込むこともあった。でも、作品を丸裸にするからこそ、骨格が見えてくる。短文で構成した文章の隙間から、読み手の顔が見えるような感覚を覚えた頃から、評価していただけるようになった。

トラリピインタビュー

友人が通勤リュックから取り出したカルチャーセンターのパンフレット。耳を折ってあるページの講座名を見て、おおっと思う。あの芥川賞作家を多数輩出した先生の講座。自分が3カ月だけ通った教室だ。「書きたい小説のイメージはできてる」と、自信ありげの表情に、わが来た道を重ね合わせる。実は、文章を書いていることは誰にも言っていない。行く道はいつまで続くかわからないと思ったからだ。友人とは講座修了の3カ月後に会う約束をして別れた。次回は、自分が小説を書くために費やした8年という歳月とかかった費用の総額を白状しよう。今も継続中だと言ったら、どんな顔をするだろうか。

次回は内村宏幸さんへ、バトンタッチ!

高橋紫野香さんが通っている
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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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