700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第209回は、テーマパークのショーシナリオも執筆するアニメ脚本家の宮川文吾さん。
ディズニーランドで学んだ脚本の極意(言い過ぎ)

アニメ脚本家
日本放送作家協会会員
皆さま、はじめまして。宮川文吾と申します。神戸市出身。脂が乗りまくって、もはや脂しか乗っていないテカテカの50才です。
私は主にアニメの脚本を書いたり、テーマパークショーのシナリオを書いたり演出したりというお仕事をさせて頂いています。
つまり子ども達の笑顔が原動力のお仕事とキレイに言うことも出来るかもしれません。
人の笑顔ってなんだかエネルギーをもらえるじゃないですか?(全力で良い人アピール)
思い返せば、10代の頃にアルバイトをしていた、東京ディズニーランド時代に遡るかもしれません。
東京ディズニーランドは、今年4月で開園43周年を迎えますが、私は7周年~9周年位の頃、ジャングル・クルーズというアトラクションで船長として働いていました。
当時はすべてのアトラクションがA~Eまでのランクに分かれていて、体験するのに、100円~400円のチケットを購入して並ぶ、というスタンスでした。
ビック10と呼ばれるお得な10枚綴りのチケットもあって、もちろんパスポートもありましたが、パーク内にチケット販売所がいくつもあって……懐かしいですね。
あの頃、今では考えられないですがジャングル・クルーズは大変人気のアトラクションで、120分待ちなんてザラでした。
当時の私は、今では面影もないスマートな体型で、関西人のDNAを遺憾なく発揮し、一日中しゃべり、盛り上げてそれはもう大変な人気者でした(自画自賛)。
なにせ、先頭まで来た女の子が私の操縦する船に乗るために『あ、お先へどうぞ』と後ろのお客さんを前に誘導して乗船調整するくらいのもので、1日に3回も4回も乗船してくるゲストがいた程です。
関西人としては、同じセリフ回しで楽しませる訳にはいきませんから、次第にトークの7割8割がアドリブとなっていき、『その船に積まれている骨は、先日お越しになった世田谷区にお住まいの鈴木さんご一家の……』とか『見てください! あのゴリラに占領されたテント! あれが先日、発表された新しいテーマパークに併設される高級ホテル、“ホテル・ミナゴリラ(ミラコスタ)”です!』とか言いたい放題。
関西から来た修学旅行生ばかりなら『それでは本日はジャングル・クルーズ関西弁バージョンでおおくりします』やら、暗い神殿に入り泣く小さな子がいれば、灯りをコウコウと点けて『英語の勉強をしましょう!ほら、ヘビがいるね。ご一緒に、スネーク!』などなど。
それでもめちゃくちゃウケるので、調子に乗る10代のワタシ。その度に、会社のエラい人に居残りをさせられて、ディズニーの理念を強く強くたたき込まれたのでした。

正直、お客さんは喜んでるし、リピーターも生まれていたし、何より爆笑の嵐だし、何を怒られているのかさっぱり分からなかった当時ではあったのですが、大人になり、今の演出のお仕事をさせて頂けるようになって、やっと理解することが出来ました。
あの頃の私は、『私のファン』を作ることを頑張っていたんですよね。本当は、『東京ディズニーランドのファン』を作らなければいけないのに。
東京ディズニーランドのジャングル・クルーズで働く、キャストの宮川でなければならなかったのに、あの時の私は単なる、船長宮川だったのです。
これは本当に大きな違いです。
現在、脚本を執筆させて頂く立場になって、「ほれ、俺の脚本オモロイやろ?」で書くのではなく、その作品の世界観をちゃんと理解した上で書く、という基本的な部分は、ジャングル・クルーズで学んだのでありました。
子ども達の笑顔を守りたい(誰目線なのか)
放作協の会員さまの中にも、小さなお子様がいらっしゃるお父さん、お母さんがいるかもしれませんが、特にNHK Eテレで現在も放映されている「はなかっぱ」という朝の5分アニメは、私が脚本家としてデビュー間もない頃から書いている愛すべき作品の1つで、子ども達の日常の何気ない行動をネタにして、面白くも可愛らしいエピソード満載の作品となっています。
毎日の子育てって大変なことも多いですが、楽しく面白いこともたくさんですよね。
以前、脚本のネタ探しに、子連れのお母さんが集まる公園によく通っていました。
ベンチに座って子ども達の会話に聞き耳を立てるという、相当に不審者のようなことをしていたときがあるのですが、ある時、幼稚園くらいの2人の男の子が、
「ぼくのママ、お絵描きがすっごく上手なんだよ! アンパンマンとか!」「ぼくのママだってすっごいんだよ。毎日お顔にお絵描きして、キレイなお姫さまに変身するんだぜ!」
なんて会話をしていたことがありまして。
それが元で「ぼく、どんな顔だっけ?」というはなかっぱの1話を書かせて頂いたことがあります。
引きつった笑顔のお姫様以外は、そのかわいいやり取りに、公園中が笑顔いっぱいになりました。
ご存知ですか?
子どもって1日に笑う回数が平均して350回程あるのに対して、大人は平均15回程しかないんですって。
子どもの頃はあんなに毎日笑顔だったのに、知らず知らず、年を重ねる毎に笑顔が減り、逆に人に対して怒ったり不満を持ったりする回数が増えてしまうのはなんでしょう。
子どもに対しても、叱りたくないのに叱っちゃう。

息子がまだ幼かったある時、
「大人になると怒られなくなるの?」
と質問してきたことがありました。
大丈夫。
大人になっても、ちゃんと怒られるよ。
それも全力で。
ものすごく……。
次回はサービスカード高柳さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。