テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第11回は主婦業の傍らラジオドラマを書き続けてきた、入山さと子さん。

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自称「主婦兼パート脚本家」

入山さと子さんの写真入山さと子
脚本家、日本放送作家協会監事

ラジオドラマを書き続けてもう30年以上になるが、その間、筆一本で食べていたことは、全くない。20代の頃、脚本スクールに通いコンクールに入賞してデビューするまでは、月~金まで朝9時~夕方5時の非常勤職員の堅い仕事で食べていた。結婚後は、ほぼ専業主婦で、年に1、2回、脚本の依頼があった時だけ書くことを繰り返しつつ今に至るので「放送作家」と名乗るのも憚られ、自称「主婦兼パート脚本家」というスタンスでこの業界の片隅に身を置いてきた。30過ぎて娘二人が立て続けに生まれてからの4年間は、完璧に専業主婦だった。子どもにご飯を作って食べさせて遊ばせて昼寝をさせてお風呂に入れて寝かしつけての、忙しいけど単調な日々の繰り返し。「この暮らしを続けていたら再び書くことができなくなる」と不安になって知り合いのディレクターに連絡。後日いきなり15分×10回の今まで書いたことのない連続ドラマの仕事をふられた。

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この時、娘たちは4歳と3歳。上の娘は幼稚園に通っていたが下の娘は未就園。コンスタントに仕事が来るわけでもないし、家でできる仕事だし、保育料を支払ったら稼ぎは丸々飛んでいくか赤字になるし、ということで保育園に預けて働くという選択肢は端からない。

その当時、幼稚園は午後2時前にお迎えだったが、その後、娘はお友だちの家や公園で午後5時まで遊ぶのが恒例になっていた。なので、執筆の仕事のある時は上の娘に「今日は○○ちゃんの家で遊ぶ~」と言われたら、○○ちゃんママに「妹も一緒に遊びたがっているからお願い」と二人同時に預け、「公園で遊ぶ~」と言われたら「5時に迎えに来るからそれまで見てて」とママ友たちにお願いし、ダッシュで帰宅して、誰もいない家で集中して執筆。5時に迎えに行って夕飯、お風呂、寝かしつけの後、夜中にまた書いてを繰り返し、締め切りまでに仕事を終わらせた。

5時のイメージ画像
5時に迎えに行って夕飯、お風呂、寝かしつけの後、夜中にまた書いてを繰り返し、締め切りまでに仕事を終わらせた

その頃住んでいたのが夫の職場関係者が住む集合住宅で、同じ年頃の子育て世代が多く遊びに行く先に不自由しなかったことも幸いした。ラジオドラマの仕事と言ってもピンとこないママ達も多かったが、皆さん心やすく引き受けてくれた。

「保育料払えるほどの稼ぎにもないのに子どもたちや周囲の人たちを巻き込んでまでする仕事なのかな~」と後ろめたく思いつつも、執筆している瞬間は単調な子育て生活から解放される気がして、下の娘が幼稚園に入ってからも、年に1度か2度、依頼された仕事を受けていた。

トラリピインタビュー

ママ友がくれた、ありがた~い物

ある時、脚本直しの打ち合わせで出掛ける際に、うちの娘たちと同じ学年の兄妹のいる近所のお宅に幼稚園のお迎えも含めて娘二人の預かりをお願いしたことがあった。その日に限って打ち合わせが伸びてしまい、焦って連絡を入れると「ウチは大丈夫だし、お嬢ちゃんたちもウチの子たちと楽しく遊んでいるから、急がないで大丈夫だよ」と優しい言葉が返ってきた。

翌日の午後までに直した原稿を送らなければならないという宿題付きだったので、一刻も早く帰って夕飯作って、徹夜で直しをしなければ……と、悲愴な覚悟で迎えに行くと、ママ友は「ちょっとお茶でも飲んで行けば」と私を家に上げ、「忙しそうだから、夕飯にこれ持っていく?」と、手作りのおかずを2、3品包んでくれたのだ。

「いやいや、ありがたいけどそこまで甘えるわけには……」固辞する私にママ友は微笑んで言ってくれた。「子どもたちが赤ちゃんだった頃、夜中に何度も授乳で起こされたんだけど、授乳している間、私、イヤホンでラジオを聞いていたんだよね。テレビをつけると明るくなって家族が目を覚ますけど、ラジオだと暗いまま聞けるでしょ。夜中の授乳はひとりぼっちで辛かったけど、ラジオで楽しませてもらったから、その時のお礼だと思って」。

そのママ友が聴いていたのは私が書いたドラマではないはずだ。それでもおかずを受け取った。おかず以上にその言葉がありがたかった。それまで自分の仕事は自己満足でしかないと思っていたけれど、ひとりぼっちで頑張っている誰かの力になれる仕事なのだと思えるようになったのだ。

今どきは子どもを預かってもらった際に事故が起きた場合の責任を巡ってのご近所トラブルなどが問題になってきて、ママ友同士で預け合うことも少なくなっているようだ。その代わり1回数百円の廉価で放課後の幼稚園や児童館で子どもを預かってくれるシステムがあるらしい。システムが整った今と大らかな昔、どちらが私のような主婦兼パート脚本家にとって仕事がしやすいのか、簡単に比べることはできないが、便利なシステムに頼っていたら私は自分の仕事の意義に気付くことができなかったと思うのだ。

次回は放送作家の寺坂直毅さんへ、バトンタッチ!

是非聞いてください!

昨年8月に「ラジオフチューズ」で放送後、「ラジオ石巻」「FMいわき」「ならどっとFM」「ラジオきしわだ」など全国のコミュニティFMで放送を展開しているラジオドラマ『イサ・パッパと2匹の小悪魔』がCDになっています。

世界放浪の末、フィンランドで所帯を持った写真家・小野寺誠さんと子どもたちとの楽しいやりとりを15分×4回のラジオドラマにしました。大人も子どもも楽しめるドラマです。

定価1500円 絶賛発売中!
お問い合わせ、申し込みはクリエイト・エムへ
mail : create.m@email.plala.or.jp
phone : 0425930048

5月16日から脚色したドラマが放送されます!
NHKラジオ第1放送 毎週日曜日 19:20~19:50
「新日曜名作座 ひこばえ(連続9回)」原作・重松清 脚色・入山さと子
ひこばえ | NHK オーディオドラマ

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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