運用者の血が通った投資信託
セゾン投信は『セゾン資産形成の達人ファンド』と『セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド』の2本の投資信託を運用しており、ともにつみたてNISAの対象商品に選ばれています。
最近、投資信託の運用コストを重視する風潮が強まっています。コストを検討することも確かに大切なことですが、投資信託の本質はまったく別のところにあると中野さんは語ります。
セゾン投信
代表取締役社長
中野 晴啓さん
中野 以前に雑誌の企画で、ある運用会社の方と対談をする機会がありました。その方は「投資信託って無機質ですよね」という話をしていましたが、僕はその言葉に違和感を持ちました。
僕は投資信託を「無機質」だと思って扱ったことはありません。投資信託は人間の血が通った金融商品だというのが、僕たちの一貫した考え方です。そこにはセゾン投信の、あるいは代表者である僕自身の、世の中に対する考え方や理想が内包されています。運用者が抱く社会への理想や、世の中の人が幸せになってほしいという願いを体現したのが投資信託のポートフォリオ(資産の組み合わせ)です。
最もわかりやすいのが、運用者が銘柄を選ぶアクティブ型の投資信託です。選ばれた銘柄、組まれたポートフォリオには、まさに運用者の思いが凝縮されています。
一方で、投資信託はコストがすべてだと考える個人投資家の方もいます。投資信託を無機質なものとして見ているから、コストが安ければ合理的だとみなすわけです。でも僕は投資信託のコストを、運用者の思いをビジネスとして一生懸命体現し、実際に経済的な成果にしていく努力のために必要な費用だと考えています。
今の日本の投資信託は、機能ばかりを追い求めて、血のあたたかみを感じない、運用者の姿を垣間見ることすらできないような商品ばかりに見えます。でも、本来の投資信託の運用とは、怒ったり泣いたり、喜んだりほほえんだり、そういった感情の動きまで表現できると思うし、それを投資家と共有するものだと僕は思っています。
長期目線で投資する海外のマネージャーと運用方針を共有
『セゾン資産形成の達人ファンド』(以下『達人ファンド』)には、セゾン投信の運用哲学が凝縮していると話す中野さん。目的や理想を実現するための「規律」が、運用者としての「プロ仕事」だと語ります。
中野 『達人ファンド』の基本的な考え方は銘柄選別です。わかりやすく表現すれば、これから世の中にたくさん笑顔や豊かさを生み出していく力があると我々が判断する企業に対して、それを実現するための資金を提供する。それに尽きます。
大きな特徴は、長期の視点で企業を見ていることです。基本的には5年~10年目線。今の潜在的な成長性から5年後の財務諸表をイメージして、成長が実現すると思われる企業の株式を持つという考え方です。実際には『達人ファンド』はファンド・オブ・ファンズ形式で、大部分を海外の資産に投資するので、今言った基本的な考え方を100%共有できるマネージャー(運用会社)を世界中から探して、実際の運用を任せるという仕組みです。
ただ、5年以上の長期目線で運用しているマネージャーは、日本にも海外にも少ないのが現実です。「うちは長期運用です」といっても3年目線がせいぜいで、5年後の本質的な企業価値を見ているファンドは非常に少ない。それでも僕たちは長期目線にこだわります。
海外でも運用は短期化しています。特に年金運用は1年ごとの報告を求められるため、どうしても運用成果を求める時間軸が1年目線になってしまいます。でも本来、個人のお金は1年ごとに成果を出すべきものではありません。長い目線で運用するという価値観を持てば、それを個人の投資家とも共有できるはずだという観点で『達人ファンド』を運用しています。
規律を厳格に守るのがプロの運用者
中野 ただ、いくらマネージャーと運用方針を共有したとしても、運用チームが変わったり、会社が買収されたりという理由で、同じ方針で運用を続けられなくなることがあります。その場合は、残念ですがそのマネージャーとはお別れすることになります。そのようにして、ファンドを運用するにあたって明確な規律を守り続けることが、運用者の「プロ仕事」だと考えています。
この「プロ仕事」は、率直に言うと、ほとんどの個人投資家には到底できないことです。一般の個人の場合、最初にルールを決めて投資を始めたとしても、ちょっと相場が動いたら株式を手放したくなるし、上がっている銘柄はいつまでも持ち続けたくなります。そういう気持ちを制御しながら、決められた規律の中できちんと運用すること。いくら信頼しているマネージャーでも、正しい仕事ができなければお別れすること。それを厳格にやるのがいちばん難しくて、そこにプロとしての価値があると考えています。その姿勢に共感していただき、僕たちが目指すゴールを信じてついてきてください、というのが投資信託だと思っています。
そういう価値観を理解したうえで、それでもコストが合わないというのなら、それは仕方のないことです。必要なコストだと思っていただける方に、ぜひ参加してほしいと思います。
金融庁の報告書を読み、まずは少額で積立投資を始める
中野さんは資産運用会社の社長という枠を超え、さまざまな場所で投資の意義や資産運用の大切さを日々伝えています。先日、「老後に2000万円不足する」という報道とともに、金融庁の報告書が話題になりました。中野さんはワーキング・グループのメンバーとして、報告書の作成に携わりました。老後が不安だから資産運用を始めたい、でも何から始めればいいんだろうと悩む方に向けて、アドバイスをいただきました。
報告書は金融庁ホームページ「金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書の公表について」の「別紙1」で公開されている
中野 この記事を読んでいる方の多くは、将来に対して不安を持ち、その不安を解消したいと望んでいると思います。あの金融庁の報告書は、結果として非常に多くの関心が持たれました。僕が皆さんにお伝えしたいのは、金融庁の報告書をプリントアウトして、じっくり読んでほしいということです。そうすればきっと、将来のお金の不安を解消し、自分の人生を納得いくものにするためのヒントを得られると思います。
資産形成において大切なのは、自分ができる範囲でいいので、まず一歩を踏み出すことです。そのやり方としていつも勧めているのが「長期・積立・国際分散投資」です。投資が怖いと思っている方は、怖くない金額で積み立て投資を始めてみればいいと思います。毎月1万円、あるいは5000円でもいいので、始めることが大切です。いくら投資を本などで学んでも、体験に勝るものはありません。
「長期」の基準は投資家ではなくお金
中野 長期投資の「長期」とは、決して投資家自身の都合ではありません。投資家のお金が新しい価値を作るために必要な時間を「長期」と呼びます。投資はあくまでお金が主役です。お金がしっかりと働けるように、じゅうぶんな時間を与えてあげるのが投資家の役割です。本来なら、運用期間を投資家の都合で3年とか5年とか区切るべきではないのです。
だからこそ長期投資には「胆力」が問われます。目先の相場に一喜一憂せず、胆力をもって投資を続けるために必要なのは、自分が経済活動の担い手であるという意識を自覚することだと思います。
資産運用は「三方よし」の金融商品です。投資家ひとりひとりが経済の担い手として企業を支えて、企業は世の中に価値を与えてみんなを幸せにして、その結果が投資家のもとにリターンとして返ってくる。この循環を何度も回していくことが、僕たちの仕事だと思っています。