「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も前回に引き続いて株式の配当金をテーマに、「配当性向」という指標について考察します。

  • 企業が挙げた利益のうち「何パーセントを配当金に充てたか」を測るのが配当性向
  • 配当性向が100%を超える=利益以上の配当金に株主に還元した企業も多い
  • 配当性向が高い企業は、株主資本を活かしきれていないのかもしれない

7月の4連休中に、夏のオリンピックが無事に始まったようですね。世間は連休ですが、筆者はお仕事があります。昨年、コロナ禍でお仕事が軒並みキャンセルになってしまったことがいまだ記憶に新しい筆者にとっては、有り難い限りです。

それよりも、この連休中に、ニューヨークダウが35,000ドルを付けたとか。筆者の関心事はオリンピックよりも、やはり株式の動向にあります。

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さて、本稿は株式の「配当性向」についてのお話です。

「配当利回り」のおさらいから

前稿では「配当利回り」について述べました。

日本株を配当利回りの高さだけで選んでいいのか?

配当利回りとは、1株当たりの配当金の額が、株価に対して何パーセントなのかを表したものです。
配当金は預金の金利と同じく、株式の保有中に受け取れる「インカムゲイン」です。ですので、株式の配当利回りは預金の金利に近いイメージがありますが、そもそも配当金は預金の利息とは異なる性質がありますので、預金の金利と配当利回りとでは、単純な比較は難しいものがあります。

配当性向とは、配当金を企業の利益で割り算したもの

では、配当性向とは何でしょうか?
前稿でも申し上げましたが、そもそも株式の配当金とは「企業が事業活動を通じて得た利益」です。

そして、企業が挙げた利益のうち「何パーセントを配当金に充てたか」を測るのが配当性向です。
「(1株当たり配当金÷1株当たり当期純利益)×100」という式で計算します。

もし、配当性向が100%ということですと、当期純利益の全てを配当金に充てた、つまり企業が挙げた利益の全てを株主に還元した、という理解が成り立つのではないでしょうか?

「株主に対して、そんな気前の良い企業があるのか?」というご指摘をいただきそうです。
企業ではありませんが、例えば、同じく東京証券取引所に上場しているJ-REITは、いかがでしょうか?

J-REITは「配当可能利益の90%超を投資主(=株主)に分配(=配当金)すること」などを前提に、分配金に充てる額の損金算入を認めています。ですので、配当性向が100%というJ-REITがあっても不思議ではないのです。

株主総会
株主にとっては、会社の利益を少しでも多く配当金として還元してほしいと望むものですが……。

投資家の多くは、配当性向は気にしない?

さて、ヤフーファイナンスの企業ごとのページを見ると、配当金の額や配当利回りは載っていても、配当性向までは載っていません。

なるほど、配当金は株式の保有期間中に直接受け取るインカムゲインですから、株主の皆さん、やっぱり気になさいますよね。
しかし、配当性向というと、計算のもとになる数字のひとつに企業の利益があります。利益をもとに計算した配当性向は、株価と配当金だけで計算する配当利回りと比べると、縁遠く感じてしまうのでしょうかね……。

ということで、配当性向を詳しく調べようとするなら、手計算するしかなさそうです。

100%超えの配当性向

みんかぶ」というサイトに「配当性向ランキング」が載っています。2021年7月23日時点のランキングを見ると、配当性向が100%を超える株式が、なんと161社もあります。

配当性向が100%を超える企業のうち、2社だけ、その推移を載せてみました。
端数処理の違いはあるにしても、実在する企業の数値ですので、調べればわかることですが、企業名は伏せておきますね。もし、仮に調べることができ、企業名が分かったとしても、投資を推奨しているわけではありませんので、ご留意を。

【図表1】A社の配当性向の推移
決算時期 2021年2月 2020年2月 2019年2月 2018年2月
1株当たり純利益 86.8円 201.0円 255.7円 286.2円
1株当たり配当金額 150円 150円 150円 255円
配当性向 172.8% 74.6% 58.7% 89.1%
自己資本比率 19.6% 20.0% 20.6%

上記のA社と、このあとご紹介するB社とも、公表されている資料などを引用し筆者が作成しました。

A社の場合ですと、配当性向が100%を超えたのは2021年2月期のみですから、コロナ禍などによって純利益が落ち込んだと判断することができそうです。しかし、その推移を見る限り、配当金を安定的に支払うことを優先して、配当金の額を変えることなく株主に払ったために、2021年2月期は配当性向が100%を超えたみたいですね。
純利益の落ち込みは一時的と、A社の経営陣は判断したのでしょうか?

とはいえ、我が国の上場企業の配当性向は30%程度といわれており、A社のそれが100%を超えたのは一時的とはいっても、もともと配当性向が高い傾向にあったのは間違いなさそうです。

ところで、A社の自己資本比率は、決して高くはありません(自己資本比率については前々回に書きました)。
まさか、A社は配当金を払うのに借金を? さにあらず、A社はグループ内に金融業を抱えているので、自己資本比率が低くなる傾向にあるようです。むしろ、グループに金融業を営む企業があるのであれば、現金、つまり配当金の原資を潤沢に保有していると見ることができるのではないでしょうか?

会社の自己資本比率って、気にしたことありますか?

今度はB社を見ていきましょう。

【図表2】B社の配当性向の推移(※は記念配当)
決算時期 2020年12月 2019年12月 2018年12月
1株当たり純利益 20.9円 89.0円 37.9円
1株当たり配当金額 50円 116円 80円
配当性向 239.2% 130.3% 221.0%
自己資本比率 83.2% 83.9% 77.0%

B社の方は、配当金の額が上下していますが、これは記念配当の年を含んでいるためです。とはいえ、B社の資料を見ると、通常においても配当金の額は安定していないようです。が、それにしても高い配当性向が続くのは恐るべしですね。

またB社は自己資本比率も高く、事業を展開するうえで他人資本(社債や融資などの借入金)に依存しておらず、まさに株主資本をメインに据えた企業と評価することができるでしょう。その資本を提供してくれた株主への感謝を込めて、高い配当性向を誇っていると言えそうです。

しかし、B社に対し、別の言い方もできます。
「株主資本を活かしきれているのだろうか」という疑問も沸いてきます。辛口に言えば、企業経営にうまく活かすことができなかった株主資本を、配当金というカタチで返しているだけなのかも知れません。

そもそも企業とは、株主が出資(投資)してくれた資本金をもとに事業を展開し、事業活動を通じて得た利益を配当金として株主に還元するのが、あるべき姿です。が、同時に利益を活かして事業を拡大させていくのもまた、企業のあるべき姿なのでないでしょうか?

まとめに代えて

本稿の中盤にも申し上げましたが、A社およびB社とも、どこの企業なのか、ハッキリしたとしても、決して投資を推奨しているわけではありません。お決まりのフレーズですが、「投資は自己責任」です。

「投資は自己責任」とは、言ってみれば、投資に対する考え方、企業に対する見方や評価も、人それぞれということです。

これまで、株主優待や自己資本比率、配当利回り、そして本稿では配当性向について述べてきました。株主優待を除けば、どの数値も「高ければ良い」と判断する方もいらっしゃれば、「比べる項目によって、良し悪しの判断は異なる」という方もいらっしゃるでしょう。

実際、これまでの稿においても、「高ければ良い」という述べ方をしておりません。「では、どうしたら良いのか悩んでしまう」という方もまた、少なくはないでしょう。

ですので、本稿の配当性向においても、A社は「コロナ禍による一時的なことで配当性向が高かった」、B社は「株主資本を活かしきれていないのでは?」と、筆者なりの分析(?)を試みています。

読者の皆さまお一人おひとりの分析もあろうかと思います。その分析の結果に納得した時が、投資のタイミング、もしくは売却の時期なのかもしれません。

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