テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第86回は、幅広いジャンルで活躍し、「キモチとホンネの配達人」を標榜する新田哲嗣(にったあきつぐ)さん。

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貧乏暇無し時代の懐かしい飲み会

新田哲嗣さんの写真
新田哲嗣(にったあきつぐ)
放送作家、演出家
日本放送作家協会会員

飲みニケーションという言葉が死んで久しい。
若いころに、酒の席で「どう? コレやってみない?」と仕事をいただくことが多かった時代を思い返せば、寂しい限りだ。

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御多分に漏れず、駆け出しのころは貧乏暇なし。
ただし暇がないのは、仕事で多忙だったわけではなく、酒を飲む時間が多かったからなのであるが。

私が入り浸っていたのは、東京・渋谷の桜ヶ丘の奥、ちょっとした坂を上がって息切れしかけたころにたどりつく、小さなカフェだった。

そこに、駆け出しの俳優や作家、映画やドラマの助監督、音楽を志す人、フォトグラファーの卵、デザイナー志望者といった、「作る人」が夜な夜な集まっては飲んでいたのである。私は当時、役者でありつつ、駆け出しの演出家、脚本家だった。

夕方あたりから、たらたらと集まりだし、ぐだぐだと朝までしゃべる。
芸事についても話すし、他愛もない話もする。そして、酔うと男衆がだいたい脱ぐ。
当時コンプライアンスという言葉があったら、ほぼ全員、違反者だ。

とはいえ、それぞれが熱量をもって集まり、未来に向けてまっしぐらに駆けようとしていたことだけは間違いなかった。

飲み会で乾杯のイメージ
駆け出しのころ、若手で夜な夜な集まっては飲んでいた

「でもさ。お金がなかったのに、どうして毎日のように飲みに行けていたんだろうね?」

若手時代を脱し、中堅に差し掛かろうとするころあいに、旧知の仲間とともに首をかしげることがしばしばあった。
そうだよな、どこからお金を工面していたんだっけな?

皆の名誉のために言うが、借金をしたり、悪さをしてお金をかき集めていたわけではない。ちゃんとそれぞれ払っているのである。
1000円だの、500円だの、少額ではあるが。

もちろん店がそんな割引をしていて成り立つわけがない。
とどのつまり、皆の分を支払ってくれた人が、どこかにいたのである。どこにだ?

篤志家の正体は?

今はそのカフェはもう存在しないが、しばらくして、偶然、当時のオーナーにお会いする機会があった。

あとから聞いた話、当時若手たちに交じっていた中堅キャリアの諸先輩方が、たまに店に寄っては、まとまったお金を置いていっていたそうだ。つまり、若手たちは何も知らず、ちゃっかりおごられていたのである。

「何人かで、それぞれ差額ぶんを出し合っていたんですよ。でも、自分たちが払っていることを、若い子には言わないでおこうと示し合わせていたそうです」

お店での支払いイメージ
中堅キャリアの先輩方が、内緒でお金を置いていってくれていた

カフェでいたずらに気炎を吐くばかりの小僧どもを育てるべく、仕事もくださり、お叱りもくださり、そして飲み代もこっそりと支援する……これを粋と言わずしてなんと言う。

――自分たちもそうやって育ててもらってきたから。別に大したことをしたつもりはない。

いわゆるひとつの、恩送りというやつだ。

かくいう私も、もういい年齢でもあるわけなので、こうしたことを思い返すにつけ、恩送りをしてやりたいなと思うようになっている。

だが、冒頭の話。いま、若者たちが宴席に行くことが昔より少なくなった。飲みに行ったとしても、泥酔して本音がぼろぼろこぼれだすほどの飲み方はあまりしないようである。スマートなのだ。

なので、若手の皆が酔っぱらっているスキに、こっそりと支払いをすますという技が使えない。支払う姿を見つかって、何とも気恥ずかしいバレ方をすることもある。困ったものだ。

であれば、どうやって、かっこよく「後から知った」系の恩送りをぶちかましていけるか。悩みどころである。

本稿をお読みの諸兄姉の中で、よいテクニックをお持ちの方はぜひご教授いただきたいと切に願う。なお、最後になるが、私が20代前半のころ、高級寿司に連れて行ってくださった、作家のAさん。「好きなものなんでも食べろ」と言ってくださったお言葉に甘え、お品書きを指さして、「端から端まで3周ください」と言って、かなりの額をお支払いいただいた御恩は、今も忘れておりません。ただし、まだ私にはそこまでの恩送りをする器量がありませんので、さらに精進いたします(笑)

若手諸君は、そういう甘え方をしちゃいけないよ(笑)

次回は脚本家の吉村ゆうさんへ、バトンタッチ!

是非いらしてください!

【朗読LIVEのお知らせ】

絵本『小学生のボクは、鬼のようなお母さんにナスビを売らされました。』(原田剛著/ワイヤーオレンジ刊)など、「家族の中の子供」を考える作品を朗読会で。
オネェジャズシンガー・Sasammyとのコラボレーションライブです。

【日時】 10月16日(日)17:30~22:30
【会場】 おむすびシアターBARシモキタ(東京都世田谷区北沢2-6-6 澤田ビルB1)
【チャージ】 3500円

※朗読、シンガーのライブを含めた15分程度のステージが3回あります
※各ステージの演目はすべて違う作品となります(朗読はうち2回)
※飲食代が別途かかります。1ステージにつき、ドリンク1杯のオーダーをお願いいたします

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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