「早く返した方が得」という先入観
住宅ローンには利息がかかります。ローンの期間が長いほど、支払う利息は多くなります。繰り上げ返済を行えば、利息を減らせるのは事実です。しかし、ローンの利息が減っても、長い目で見て家計の支出が減らせるとは限りません。
繰り上げ返済には、2つの大きなメリットがあります。
ひとつは先に述べた、利息の支払いを減らす効果。もうひとつは、いつ発生するかわからない解雇や事業の失敗、病気などの事情で収入が途絶えてしまうリスクを考えて、借金を減らす余力があるうちに減らしておいて、将来の安心を得るという効果です。
メリットだけを見ると、もし手元にじゅうぶんな資金があるのなら、繰り上げ返済をした方が絶対に得だと思われるかもしれません。でも実際は、必ずしも「得」にならないケースもあります。
たとえば、35年の住宅ローンを年利2%で借りた人がいて、手元に500万円の余裕資金があったとします。このお金をすべて住宅ローンの繰り上げ返済に充てて、ローンの残高を減らせば、500万円分に相当する利息の支払いはなくなります。
では、この500万円を投資に回して、年平均2.5%の利益を得られたらどうでしょうか。繰り上げ返済を行わないのでローンの利息2%分は払い続けることになりますが、500万円の投資で得た2.5%分の運用益との、差し引き0.5%分の利益が得られることになります。
500万円を繰り上げ返済に充てたケースでは、確かにローンの返済額は減りますが、返済によって「投資で利益を得る機会」を失ってしまったために、合計の収支は「繰り上げ返済しない方が得」となります。
また、繰り上げ返済は税制面でもデメリットがあります。残高や期間が変わることによって住宅ローン控除を受けられなくなる可能性があるので、注意が必要です。
「今使えるお金」も大切
繰り上げ返済で最も困るのは、返済したあとで急な出費が発生する場合です。自分や家族の病気やけが、失業などの事情でお金が必要になっても、繰り上げ返済をしたために手元の資金がなかったらたいへんです。
繰り上げ返済のためのお金は本当に「余裕資金」なのか、今一度確認する必要があるかもしれません。不慮の事態が起きても使わずにすみそうなお金であれば返済に回す手もありますが、備えておいた方がよさそうなら、無理に返済せずに預貯金のまま置いておくか、いざとなったらすぐに換金できる株式や投資信託のような金融商品で運用することも検討すべきでしょう。