「ありがとう」と「応援」の連鎖が「投資」につながる
渋澤 健
コモンズ投信 取締役会長
今回のミニ・シリーズでは「消費」と「貯金」という「ME」のためのお金の使い方から、「寄付」という「WE」のお金の使い方について展開してきました。最終回の4つ目のお金の使い方は「投資」です。
コモンズ投信の「こどもトラスト」セミナーでWEのお金の使い方への理解が高まった子どもたちには、世の中には大勢のお客さんが求める商品やサービスを提供する、色々なすてきな会社があることを説明します。
お客さんの「ありがとう」という気持ちで代金が支払われ、「ありがとうございます」とそのお金を受け取った会社は、自分のお父さんやお母さんのように一生懸命に仕事をしている大人達に「ありがとう」とお給料を払う。
そのお給料を大人達が「ありがとうございます」と受け取るから、自分のような子ども達は夕食を食べたり、お小遣いをもらったりもできる。
また、その会社を「投資」という形で応援すれば、会社は「ありがとうございます」と配当というお金を配る。皆からの「応援」やお客さんの「ありがとう」が増えれば増えるほど、会社の価値が高まって自分にも「ありがとう」が増える。
このような「ありがとう」と「応援」の連鎖が「投資」なんだよと、コモンズ投信は子ども達に説明しています。これも、WEのお金の使い方です。
でも、ほとんどの日本人は「投資」の漢字を見ると「投」げる「資」金と連想するでしょう。
自分が暮らしているところから遠くへ、自分の大切なお金を投げてしまって見えなくなる。そんなのギャンブルだ。このような視点でしか「投資」が見えないのであれば魅力は感じられません。
しかし、「投資」を英語で表現するとINVESTと言います。”IN”は入れること。何を、どこに入れるのでしょう。
それは、”VEST”に入れています。つまり、身に付けているチョッキのポケットに、自分の生活圏の外から色々な視点や成長を呼び込む引換券のチケットを入れることがINVESTの本質なのです。
「投資」とは自分を少しずつ大きく成長させること。教育も、自分の現在の枠の外から色々な視点や学びを呼び込んで成長する。同じことなのです。このようなWEのお金の使い方を理解する子ども達(と、大人達)が増えれば、今日よりもよい明日が実現すると思います。
自分自身の人生100年を見据え、行動していく
ところが2019年の6月初旬、「老後2000万円問題」が一部マスコミの煽りで「老後2000万円不足の年金制度」として炎上し、世の中に不安が広まりました。
これは、とても残念なことです。金融審議会の市場ワーキング・グループである民間有識者会議が作成した報告書「高齢社会における資産形成・管理」は、政府への重要な提言です。
全く報道されませんでしたが、同じタイミングで高齢化社会における金融包摂を強化するためにG20首脳会議のワーキング・グループが「高齢化と金融包摂のためのG20福岡ポリシー・プライオリティ」を提言し、G20財務大臣会議で承認されました。6月末のG20首脳会議の本会議でも、討議・承認されています。
金融審議会ワーキング・グループが提言した内容は世界共通の極めて重要な課題です。それなのに、「政府に年金が破綻すると言われちゃうと戸惑う」というような誤解を社会に招いた罪は重いです。
この騒動で「年金を返せ!」と声を荒げながらも何もしない人と、今回、改めて自分自身の人生100年を見据えて今日から少しずつ行動する人の将来の生活の格差は大きく広まってしまうでしょう。
自分自身の人生のことは、自分で考えて行動していく必要があります
まず、国民の老後資金の「柱」である日本の公的年金は「破綻」しないように設計されている点をしっかりと押さえておくべきです。年金支給に必要な財源は、その時の保険料収入から得る「賦課方式」だからです。自分が支払った「保険料」を自身の未来へ積み立てるわけではなく、「税金」のように現役世代から納められ、年金受給世代へ支払われるイメージです。
したがって、年金支給の財源が無くなって破綻することはありえなく、また「返す」お金が個別の口座で積み立ててあるわけでもありません。
国民年金制度が施行された1961年代以降、保険料を納める人口が年金を受給する人口より多い時代が続いたので、支給に使われなかった分は積み立てられています。年金積立金管理運用独立法人(GPIF)によって管理され、2018年度第3四半期末現在では150兆6630億円の積立金が、2001年から年率2.73%という長期的に安定した実績で運用されています。
毎年の年金給付の財源は、その年の保険料収入と国庫負担で9 割程度が賄われ、積立金から得られる財源は1割程度です。なので、このようなバッファーも制度設計されている公的年金の「破綻」を心配する必要は一切ありません。
しかし、これからの少子高齢化が進む日本社会における「賦課方式」の公的年金制度における課題とは、現役世代の保険料の負担増と、年金受給世代への支給減です。
2004年の制度改正では現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み「マクロ経済スライド」が導入されました。将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないよう考慮した制度です。
公的年金とは雨に濡れないように屋根を支える「柱」です。ただ、もうちょっと快適に暮らしたいのであれば、外壁や部屋などもほしいところ。どの程度の「家」にするかを全て政府任せにするのではなく、自主努力で実現させるのは当然ではないでしょうか。
「見えない未来を信じる力」
去年から施行された長期投資の税優遇制度である「つみたてNISA」をきっかけに、一般個人投資家向けセミナーへの若い人や女性の参加が増えています。人生100年を見据えて、動き始める人たちが確実に増加しているのです。
自分がつみたて投資を始めたきっかけは、子どもの誕生です。この小さな赤ちゃんが、いずれ親元から離れて大人となり、何か新しいことにチャレンジしていくはずだ。子どもの成長を通じて、見えてなかった未来が、ぼんやりと見えてきたように感じたのです。
ならば、そのチャレンジを応援する資金を積み立てたいと思い立ち、子ども名義で口座を開設しました。当時、自分は40歳。子どもが成人する頃には還暦になると気が付きました。将来のための資産形成を意識していなかったと反省するとともに、自分自身もつみたて投資を開始。もうそろそろ20年になりますが、あの時に始めていて本当に良かったと実感しています。
子どもの誕生など家族構成の変化は、資産計画を見直すきっかけにもなる
それでも、「投資は怖い」イメージが一般的でしょう。日本のバブルのピークである1989年12月に日経225に連動するファンドを購入していたら、その後の29年7カ月間、一回も黒字にならないばかりか、約マイナス44%に半減している。最悪ですね。これだけが「投資」だと思うから多くの日本人が遠ざかるのです。
もし、全く同じ時期から29年7カ月間、毎月末に定額を購入し続けていたら、現在は+50%ぐらいになっています。一括で購入した場合と90%ぐらいの開きがあります。
全く同じ商品に同じ期間投資するので、全く同じリスクでした。でも、そのリスクの取り方(一括か毎月分散)によって、これほどの収益の格差が生じるのです。
毎月、同じ金額を投入していたので、下がった時の方がより多くの口数(個数)を購入できた結果です。「見えない未来を信じる力」を毎月、ちょっぴり活用するだけで、これほどの効果が長期的に期待できるのです。
「投資」というWEのためのお金の使い方が、MEのためにつながり、MEというお金の使い方が、社会というWEのためにもつながる。お金の使い方とは、このような連鎖をつくっているのです。