ベンチャー企業といってもその中身は千差万別。本連載では、さまざまな業界で活躍するベンチャー起業家たちの仕事や生き方に迫ります。第1回は、IT営業と介護レクリエーションのサポートを営むBCC株式会社の伊藤一彦さんにお話を聞きました。

BCC株式会社 伊藤一彦さん

伊藤 一彦さん
BCC株式会社 代表取締役社長

1998年大阪市立大学理学部卒業後、日本電気(NEC)入社、IT営業を経てベンチャー企業に転職、マネジメント経験を経て2002年に営業創造株式会社(現BCC株式会社)を起業。2005年に大阪市ビジネスプランコンテストに優勝。
「大阪のベンチャー経営者の結節点的な存在感」を持つベンチャー経営者。

BCC株式会社ホームページ
2002年創業。大阪に本拠を置き、近い将来の株式公開を視野に、営業マンの派遣や代理店としてIT営業をサポートする「マーケティング事業」とレクリエーション介護で介護の現場を支える「ヘルスケア事業」を展開するベンチャー企業。

大学時代にベンチャー経営者から刺激を受ける

起業の動機、きっかけについて教えてください。

伊藤 もともとは先生になりたかったんです。中学生の頃、最初の中間テストで理科で100点を取った。それがうれしくて、理科が好きになり、いい成績を取りたいというのもあって勉強するので、理科は100点とか90点とかずっと良い成績でした。大学も理学部に入って、理科の先生になるつもりでした。

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理科系の大学生ですから、研究も忙しかったのですが、たまたま家庭教師の派遣を行うベンチャー企業でアルバイトをして、そこで若く理想に燃えたベンチャー経営者やその周りの人々に何か強い刺激を受けたのです。先生やサラリーマンと違う、こんな生き方もあると思いました。

刺激を受けられたのですね。

伊藤 そうですね。彼らに強い刺激を受けました。憧れたと言ってもいいかもしれません。
そこでは講師のアルバイトもしていたのですが、人を育てるにはやはり社会人としても一人前でなければいけない、社会人になるなら、ベンチャー経営者になろうと思いました。ベンチャーから始めて大きな企業を育ててみたいと思いました。

大企業のNECからベンチャー企業へ転職

しかし社会人としての振り出しはNECでした。

トラリピインタビュー

伊藤 大学の卒業を迎え、そのままそこにお世話になる道と、就職活動をしてどこかに就職する道と二つの道がありました。ただ、その時、いずれ起業して大きな企業を育てていくには、一度、大きな企業に入って、大きな企業がどう動いているのかを知らないといけない、そう感じたのです。
結局、縁あってNECに入社したのですが、入社の際にもいずれ独立するつもりだと宣言していました。それでも採用してくれたNECには感謝しかありません。懐の深い組織だと現在も思っています。その頃お世話になった上司とは現在も時々飲みにいってますし、毎年使っている手帳もわざわざNECの購買部に行って、NECの手帳を買って使っているほどです。
NECには結局3年いたのですが、そこでは営業をはじめ、いろいろな経験をしました。

会社を辞める際には、本当に後ろ髪を引かれたのですが、初心を貫きたいという思いも、起業したベンチャーを大きな企業に育てるつもりであれば、やはり起業は気力も体力も充実した20代にしたい、という思いがあり、踏み出しました。
また、大学の時に働いていた会社の人たちがそれぞれ会社を興していて、強く誘ってくれたこともあって、そのうちの1社に転職しマネジメントを経験しようと考えました。テレマーケティングの会社です。もちろん、自分自身でいずれ起業するつもりでした。

起業後の苦難で人生観が変わる

そして起業された。

伊藤 結局、全てがつながっていくのですが、次の会社の取引先の1社はやはりNECでした。
NECでは営業をしていたのですが、次のテレマーケティングの会社でも、ITサービスの新規開拓のためのアポイント取りを行っていました。しかし、アポを取っても、肝心の営業マンが既存先のフォローに追われていて新規開拓にまで回る余裕がなく、せっかくのアポが生かされていないと感じました。また、NEC時代からITサービスの普及において、実は営業にこそ課題があると感じていました。大企業では、どうしてもエンジニアが優先され、営業を育てる余裕がない、ともすれば営業が軽視されていると感じていたのです。
ですから、そこを埋める企業があれば、そこには必ずニーズがあると感じました。

2002年の3月6日に起業するのですが、「営業創造株式会社」と命名しました。27歳でした。IT営業をNECなどITサービス企業に成り代わって提供する会社というコンセプトです。そこでは、IT営業を請け負うだけではなく、IT営業ができる人材も代わりに採用し、教育・訓練し、場合によっては人材派遣も行う、そんなコンセプトでした。また、いずれ時代はオンプレミスからクラウドに代わる、そうすると本当に必要なのは、むしろ顧客ニーズを正確に聞き取り、そのニーズに最適なシステムを提供できる営業になると読んでいました。

読みはあたったのでしょうか。

伊藤 ええ、読みはあたり業績が伸びていき、2005年には大阪市のビジネスプランコンテストでも優勝し、ベンチャーキャピタルなどからも出資をいただいて、リーマン・ショックまでは順調な成長を遂げられました。
ただ、起業して最初の1年、事業が軌道に乗るまでが、本当の苦労でした。

多くの起業家が経験されると思いますが、資金繰りが本当に厳しく、年末にとうとうかき集めてもあと10万円しか現金がない、という時がありました。やはりその時には少し疲れていたのだと思いますが、地下鉄に乗るとホームのなるべく線路際でないところを歩こうとしている自分がいました。線路際を歩いているとついつい身を線路に投げ出してしまう自分がいると分かっていたからです。
その苦しい時期を、ついてきてくれた仲間の支え、家族の支え、取引先の支えなどで、なんとか乗り越えたのですが、その経験の中で人生観が変わっていったのを覚えています。

いささか気恥ずかしいですが、それは「生きている」という以上の、「生かされている」という感覚です。その感覚は強く残り、現在でも、素直であること、誠実であること、感謝すること、などその時に身に染みて感じたものを現在も大切にしています。

祖父との別れが「天命」を導く

貴社のもう一つの事業、介護レクリエーション事業との出会いについて教えてください。

伊藤 リーマン・ショックはやはり影響が大きく、右肩上がりで急成長していたIT営業事業も壁にあたりました。リーマンショックがなければそのまま単独の事業での株式公開を考えていたのですが、少し事業の見直しが必要になった感じでした。

それでもなんとか苦境を乗り越えた頃の、忘れもしない2012年3月5日のことでした。個人的な話になりますが、とても可愛がってもらっていた父方の祖父が99歳で亡くなりました。小さな頃、将棋を教えてくれた祖父でした。最後は介護施設でデイサービスのスタッフやヘルパーさんに身の周りのことをお世話になっていたのですが、祖父の見舞いに行くたびにその仕事、介護の仕事が本当に大変だと感じていました。何か介護の現場で役に立てないかと考えていました。その祖父の死の翌日、2012年3月6日に持ち込まれた話が、「介護レクリエーション事業を買わないか」という話だったのです。
卒直にこれは天命ではないかと感じました。

介護レクリエーションとは、介護現場における高齢者向けのレクリエーションのことを言います。例えば、絵葉書の創作であったり、集団でのゲームであったり、ただそれが単なる遊びではなく高齢者の生活そのものを豊かにする、そんな目的を兼ねた活動、それが介護レクリエーションです。

高齢者もお笑い芸人もそれぞれが「生かされている」

貴社の果たされている役割は何でしょうか。

伊藤 当社の役割は、その活動を支援するためにレクリエーションの中身や材料を雑誌で紹介したり、その材料を使って実際に高齢者の方をリードして、レクリエーション活動を行う力のある「レクリエーション介護士」の資格保有者を教育する講座を運営したりしています。やはり社会的にもニーズの高い資格なのか、講座を開設してわずか3年半で2万人を超える有資格者が誕生しています。

また、実際に大阪市などと組んで施設の運営なども行っています。
ほかにも「あるある探検隊」で有名なレギュラーさんなど、吉本興業さんと連携して漫才師や芸人の方に資格を取ってもらって、我々が提携している施設や縁が深い施設に廻ってもらったりという活動もしています。芸人さんにとっては自分たちの芸を見てもらう機会、芸を磨く機会の提供にもなっていますし、それはお笑い芸人だけではなくマジシャンであったり、音楽家であったり、といった広がりも見せています。

誰かに生かされている、大きな他者に生かされているということを創業の苦しさの中で実感した、と言いましたが、例えば介護レクリエーション事業でも、この事業によって高齢者の方だったり、芸人や音楽家などの方が、それぞれがそれぞれを必要として生かされているという、それぞれの人生が輝いているという、生きているという時間が満たされているのだと思います。
当社の企業理念は「創造・誠実・躍進」です。重要なのは事業の創造や事業の成長を通じて、共により良く生きていく、そんな社会を作っていくことだと考えています。
また、ITサービスの可能性を介護の領域で生かしていく、そんなことも私の構想のなかにはあり、近い将来実現していきたいと考えています。

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