スマホの進化と普及がVRの進化を後押し

VRはついに実用化されたということでいいのでしょうか?

岩田 「実用化というより、消費者に届いたと表現したほうがいいでしょう。VRの歴史上、初めて一般の消費者に届いたのが16年頃ということです。きっかけはプレステでしたが、段ボール紙とスマホを組み合わせるVRゴーグルが雑誌の付録になるぐらいVRが普及し始めました。それまで、VRゴーグルは何十万円と高額だったので、大きな変化です。」

スマホの進化や普及の影響も大きそうですね。

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岩田 「その通りです。今では、スマホのゲームアプリを使えば、簡単にVRを表現できるようになりました。90年代でもリアルタイムでCGを描けるコンピュータはそれこそ億単位のお金が必要でした。スマホの進化と普及でVRは全く新しい局面を迎えたといっていいでしょう。」

一気に身近になってきたVRですが、具体的にどのようなシーンで使われているかというと、一番進んでいるのはエンタメ業界のようです。家庭用ゲーム機はもちろん、VRのゲーム機を設置しているゲームセンターもあります。

例えば、バンダイ・ナムコの『高所恐怖SHOW』。ビルに迷い込んだ猫を助けるゲームですが、猫の居場所が地上200メートルに位置する細い板の上。もちろん、実際は地上数センチの台の上を歩くだけですが、VRだと本当に高所の板の上を歩いているような体験ができるとあって、非常に人気です。

新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、普及が進んでいるのが不動産業界です。感染防止のため、3密を避けてモデルルームなどの内覧を体感できるよう、VR内覧会やVRショールームなどが実用化されています。さらに医療分野や防災、人材のトレーニングなどさまざまな産業や分野での活用も期待されています。

トラリピインタビュー

見るだけでなく、歩いたり、触ったりしたい

「ゴーグルの普及により大きく前進したように見えるVRですが、いざ世の中に解き放つとなるとなかなか思うようにいかないものです。」と岩田先生。研究室の中では多くのことができても、実際に産業にVRを取り入れるには、クリアしなければならない課題があるそうです。その意味では、ゲームやエンタメ業界はVRを取り入れやすかったのでしょう。そういえば、16年に大ブームになった『ポケモンGO』も、現実の世界にバーチャルなキャラクターを組み合わせたりして、歩いて探すことの面白さを再認識させてくれました。

岩田 「VRを広く産業利用するために欠かせないテクノロジーは大きく4つあります。まずは「歩く」と「触る」。やはりゴーグルをかけているだけでなく、実際に歩いたり、触ったりしないと本当の意味で体験にはなりません。特に歩く技術は非常に高度な技術が必要です。限られた空間ならまだしも、広い空間を歩くとなると物理的な限界もあります。」

なるほど。スポーツジムにある、ルームランナーみたいな装置を使うというのは?

岩田 「私の研究室では、どんなに歩いても走ってもずっと同じ場所にいる装置を開発していますが、なかなか実用化には至っていません。VRが本格的に普及するためには、「人をどう歩かせるか」が非常に重要なテーマです。」

<「触る」技術の研究の一例>

触る技術1デスクトップ・フォースディスプレイ(1989年)。
世界初のハプティック・インタフェース
触る技術2Volflex (2005~) 空気圧バルーンの集合体で立体を表現。手術シミュレータに応用

写真提供:岩田洋夫教授

<「歩く」技術の研究の一例>

歩く技術1バーチャル・ペランビュレータ(1989年)。
ローラースケート+ハーネスによる世界初のロコモーション・インタフェース
歩く技術2トーラス・トレッドミル(1997年)。
全方向に動く床

写真提供:岩田洋夫教授

mattoco Lifeより転載)

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