テレビ、ラジオ、動画配信も含めてあらゆる番組の脚本・台本を書いている放送作家が700人以上集結する日本放送作家協会がお送りするリレーエッセイ。ヒット番組を書きまくっている売れっ子作家、放送業界の歩く生き字引のような重鎮作家、今後の活躍が期待される新人作家と顔ぶれも多彩、得意ジャンルもドラマ、ドキュメンタリー、情報、バラエティ、お笑いなどなど多様性に富んで、放送媒体に留まらず、映画、演劇、小説、作詞……と活躍のフィールドも果てしなく!
それだけに、同じ職業とは思えないマネーライフも十人十色! ただ、崖っぷちから這い上がる力は、共通してタダもんじゃないぞと。この生きにくい受難の時代にひょうひょうと生き抜く放送作家たちの処世術は、きっとみなさんのお役に立つかも~!
連載第2回は、“慎吾ママ”の生みの親として知られるたむらようこさん。
お金持ちは好きを極める
「お金がありすぎちゃって、どういう風に使ったらいいか難しいんだよね~」————。これは去年、タレントのみのもんたさんが新番組の初回でこぼした、豪快な愚痴です。放送作家リレーエッセイ、私はテレビの現場で見た「お金持ちのお金の使い方」について書いてみたいと思います。
年齢の若い読者のみなさんは、みのもんたさんの全盛期をリアルタイムでは、ご存知ないかもしれません。「女は65歳から」の名台詞でマダムのハートを鷲掴み。一世を風靡した名司会者で、今で言うと、坂上忍さんと中居正広さんを足して2で割らないくらいの大スターです。
我が国には2004年まで、年に一度「長者番付(高額納税者名簿)」が国税庁から発表されていましたが、ラスト2年連続で芸能人トップを飾ったのが、みのさん。ちなみ2位が中居正広さん、5位と7位はダウンタウンの浜田さんと松本さんでした。
私は、みのもんたさん司会の「クイズ$ミリオネア」という番組を担当していたことから、毎週のように打ち上げに同席させてもらいました。みのさんと、5人ほどのスタッフ有志で収録終わりの21時頃から朝まで飲み歩きます。
みのさんは当時、飲みに行くと必ず「ラトゥール82」(ラトゥールというワインの1982年もの)を注文しました。東京・六本木価格で、1本20万円でした。6人いますから、1本で足りるはずもなく、一晩に何本か空きます。えらい金額です。ワインを飲む時、私がいつも気になっていたのは「テイスティング」という儀式。いい店でワインを注文すると、グループの代表者がお店の人から勧められるアレ。「頼んだワインの味に異常はないか」をチェックするターンです。
もちろん私たちのグループでは、みのさんがテイスティングしてくれます。「いかがでしょうか」(ワイングラスを回して一口飲んで)「うむっ(OK)」。これが繰り返される度に、私は心の中でこう思っていました。「またまた~」。みのさんに限らず多くの大人は、わかったフリをしているだけだと思っていたのです。
ところがある日、いつものように「いかがでしょうか?」と店の人が、みのさんに聞いた時のこと。(グラスをくるくる回して一口飲んで)みのさんは少し怖い顔をして言いました。「違う」。えーっ!!違うとかあるんだー!初めて聞いた! 「失礼しました」。店の人も店の人です。すんなり引き下がって、新しい「ラトゥール82」を持ってきてくれました。「違う」の1本も、私たちのテーブルに残されていました。
私はちょうど、みのさんの目の前に座っていたので、ラトゥールの瓶の背面が見えていました。そして「あれ?」と気づきました。表のラベルは同じですが、裏に記載された輸入元が、ダメ出しされた1本だけ違っていたのです。輸入元が違う、ってことは輸送方法が違って味に影響が?
「すごい、本当にわかってたんだ!」失礼ながら私はびっくりしました。そして質問したのです。「なんで違うと思われたんですか?」みのさんの答は単純明快でした。「ラトゥール82ばっかり飲んでるからだよ、はっはっはっは」。あれこれ手を出さず気に入った一つのことを極めて行くところから、世界は広がって行くのだと、みのさんは言いました。去年始まった教育改革の「探求」の授業にも似た「世界の捉え方」、その入り口を教えていただいた夜でした。
努力次第で、お金がまわる仕組みとは?
また私が30歳で放送作家オフィスを起業した時のことです。ささやかなオープニングパーティにみのさんをお招きしたところ「いいお祝いを持って、かけつけるよ」とお返事をいただきました。長者番付1位のみのさんからのお祝いです。どんな大きな花束を頂けるのかドキドキ。
当日、お待ちしていると! みのさんは少し酔っぱらったご機嫌な様子で現れました。手ぶら! そしてほどなく、みのさんの後ろから綺麗なお着物をお召しになった奥様・靖子さんと、知らないおじさんがぞろぞろ入って来ました。これは一体……。みのさんはニヤっと笑って言いました。
「たむら、おめでとう。僕からのお祝い。プロデューサー連れてきたから、仕事もらって!」。有難いことにそこから仕事が広がり、弊社も今年20周年です。使えばなくなる「お金」ではなく、「努力次第で、お金がまわる仕組み」を作りなさいと、みのさんは教えてくれたのでしょう。
他にも、みのさんの「勝って兜の緒は“締めるな”」という教えや、「アンチもファンのうち」という考え方、お弁当は崎陽軒の一番安いシウマイ弁当を指定など、お金持ちがお金持ちになる思考がいろいろあるのですが、文字数がいっぱいになってしまいました。
今は時代が変わり、放送作家もテレビだけでなく、YouTubeクリエイターへのネタ出しなども手伝いますが、その時代、その時代で成功している人の思考回路には共通点が多いなと感じます。
そんな成功者を間近で見ているのに、自分はちっとも成功しない、それが放送作家あるあるです!
次回はいとう菜のはさんへ、バトンタッチ!
是非読んでください!
『がんばらない戦略 99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する方法』
(アスコム刊 2021年2月13日発売)
クリエイティブディレクター、習慣化エバンジェリストの川下和彦さんとの共著です。
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。