テレビ、ラジオ、動画配信も含めてあらゆる番組の脚本・台本を書いている放送作家が700人以上集結する日本放送作家協会がお送りするリレーエッセイ。 ヒット番組を書きまくっている売れっ子作家、放送業界の歩く生き字引のような重鎮作家、今後の活躍が期待される新人作家と顔ぶれも多彩、得意ジャンルもドラマ、ドキュメンタリー、情報、バラエティ、お笑いなどなど多様性に富んで、放送媒体に留まらず、映画、演劇、小説、作詞……と活躍のフィールドも果てしなく!

それだけに、同じ職業とは思えないマネーライフも十人十色! ただ、崖っぷちから這い上がる力は、共通してタダもんじゃないぞと。この生きにくい受難の時代にひょうひょうと生き抜く放送作家たちの処世術は、きっとみなさんのお役に立つかも~!
連載第3回は、新進気鋭の脚本家、いとう菜のはさん。

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安定とはほど遠い、脚本家という人生

いとう菜のは
放送作家、日本放送作家協会理事

『日本放送作家協会』には、文字通り“放送作家”もいれば、小説を書く人、エッセイを書く人、なぜか書くだけでなく歌ったり踊ったりする理事長など、個性あふれる面々が所属していますが、私はフリーの脚本家としてテレビドラマや映画の脚本を書いています。NHKの大河ドラマや朝ドラを執筆した方、日本アカデミー賞脚本賞受賞者、国民的アニメの脚本家など、綺羅星のような方々も多数在籍し、エンタメ界を牽引するスーパー作家集団でもあります。

……と書くと、何やらここは成功者ばかりの裕福な集まりのようにも見えますが、いえいえいえ、私などは綺羅星どころかエンタメ界の宇宙を漂う宇宙ゴミのような存在。数年前までは生活のため、会社員と脚本家、二足のわらじを履いておりました。

そもそも、脚本家といっても、先に挙げたような名指しでオファーが入る先生方から、バイトの合間に自ら企画を持ち込んで営業する作家までさまざまです。収入も常に不安定で、数か月かけて書く作品もギャラはほとんど後払い。恐ろしいことに、作品を掛け持ちしていなければ、その間は無収入です。

私の場合、サラリーマンのように決まった時間に出勤することがないため、近所の人からは昼間からフラフラしているニートだと思われている節があります。さらにマンガ原作のドラマを脚本化する際、寝転がってマンガを読んでいる姿は、家族からもニートにしか見えないようです。マンガを読むのもれっきとした仕事だというのに!

もちろん、読むのはドラマ化されるマンガだけではありません。これからドラマになるかもしれないマンガや小説。自分の引き出しを増やしてくれそうな舞台や話題の映画、古典の名作鑑賞。旅をしたり、めずらしいものを食べたり、街に出て人間観察をするのも欠かせません。それらはすべて、情熱を持続するためのエネルギー補給。そう、アウトプットのためにはインプットが必要なのです。たとえ、その月が無収入だったとしても。

未来の自分へ、投資しませんか

先行き不透明な時代、収入を少しでも貯蓄に回したい気持ちはよくわかります。コロナを経験した人類は、世界的にその傾向をたどるかもしれません。でも、若い人にはぜひ、経済を停滞させず、生きたお金を使ってほしいと思うのです。お金を使うことで物の価値を知り、知った価値は人間の幅を広げます。お金自体はあぶくのようなものだけど、身銭を切って得た知識や経験は、誰からも盗まれることのない財産になります。

●経験は財産になるというイメージ身銭を切って得た知識や経験は、誰からも盗まれることのない財産になる

働き方改革やリモートワークなど、仕事の在り方も変わりつつありますが、脚本家の頭の中には定時も時間外もありません。寝ても覚めても、四六時中、関わっている作品の世界に支配されているからです。登場人物の頭で思考し、苦しみ、笑い、泣くことで、生きているセリフが生まれます。散歩をしながら無意識にセリフをつぶやいているとき、きっと近所の人からは、情緒不安定なニートだと思われていることでしょう。

好奇心に従い、いつもワクワクする方へ。新しいことを求め、知らなかった世界を知り、まだ見たことのないものに出会う。失敗や挫折でさえ、大切な経験値です。ただ、お金に換えられないものを得るには、やっぱりお金がかかります。チャップリンの言葉通り、人生には勇気と、想像力と、ほんの少しのお金が必要なようです。たとえ、その月が無収入だったとしても。

あなたは、心の貯金箱を何で満たしますか?

次回は内村宏幸さんへ、バトンタッチ!

是非見てください!
土曜ドラマ『きよしこ』(原作:重松清/脚本:いとう菜のは)
NHK 総合 2021年3月20日21時
【出演】安田顕 西田尚美 吹越満 菊池風磨 鳥越壮真 貫地谷しほり 眞島秀和ほか
一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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