豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第4回は元刑事で、今は企業コンサルタントとして活躍する齋藤顕さんに聞く危機管理術!(聞き手=さらだたまこ)

齋藤顕さんの写真
齋藤 顕(さいとうあきら)さん
警察官として35年在職中、25歳で刑事、その後、警部、警視に昇任。
主に捜査二課、捜査四課にて、選挙違反、贈収賄、大型詐欺事件、更には反社会勢⼒組織による組織犯罪捜査の捜査主任官として、多くの事件に従事。警察本部の本部⻑補佐官兼監察官として内部監査、警察職員に対する総合教養も担当。現在は上場企業や各種団体の危機管理顧問として、弁護士・税理士等と提携して、企業コンプライアンス等の危機管理コンサルタントに従事。

常にデフォルトを意識することから始めよう!

今回の自己投資のテーマは「危機管理ができる人間になること」

人生には、想定を超えた予期せぬ「悪しきこと」が、ある日自分の身に降りかかることがあります。
事件、事故、災害、不祥事、それから、当事者でないと思っていたら、とんでもない方向から火の粉が飛んできて、とばっちりに巻き込まれることも……などなど。

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そうなったときにどうするか?
危機管理とは、「突然、起こってしまったトラブルに対して、事態がそれ以上悪化しないように状況を管理する」こと。
その対処法を心得ているかどうかで、その後の人生は大きく変わります。

そこで、危機管理のスペシャリストとして、元刑事の齋藤顕さんにお話を伺いました。

齋藤さんは町の交番のお巡りさんから、機動隊、特殊部隊を経て刑事さんに。
知能犯事件から凶悪事件まで様々な事件の捜査指揮を担当。そのキャリアを活かして今は、危機管理のコンサルタントとして活躍されています。

颯爽と現れた齋藤さんは、目つきは鋭く、がっしりとした体型で、しかも動きに無駄のない切れ者という印象でした。

トラリピインタビュー

お会いして開口一番、「イメージ通りでした?」と齋藤さん。
「はい、まさに描いていた、元刑事さんのイメージでした」と、筆者が答えると、齋藤さんは「このイメージ作りも、危機管理の大切な基本なんですよ」と。

要は、普段から、自分のイメージのデフォルト(標準=初期設定)を意識し、何かあっても、どんな時も、その状態をキープできるように心がけておくことが大切なのだそうです。

それを判りやすく説明するために、のっけから、外見のイメージのデフォルト話になったのです。人生にトラブルはつきものです。

リスク管理のイメージ
危機管理の第一歩は、自分という人間のデフォルトの設定から

そのデフォルトの設定は、外見のイメージだけでなく、日常の行動においても同様です。起床・就寝の時間、朝食、通勤・帰宅ルート、帰宅後の過ごし方、休日の過ごし方などなど……自分のデフォルトを常に意識しておくことが大事だといいます。

「普段と同じではない行動をとるときは要注意」と齋藤さん。確かに、普段と違う、慣れないことをするときに、不注意から思わぬ怪我をしたり、失くし物をしたり……あるあるですね。

しかし、それだけでなく、人間、何かやましいことがあると、「普段と同じでない、ありえない行動をとりがち」と齋藤さん。それが「怪しさ」となって周りに知れ渡るのです。

“火のないところに煙は立たない”といいますが、当事者は無意識、あるいは、無防備にも、怪しい行動を取るのだといいます。

事件や事故まで行かなくても、職場における“シークレットラブ”が発覚するのも、普段の行動からはありえない行動を取ったことがきっかけだったりするそうです。どきっ!

仕事にまつわる、いわゆる“不祥事”も同じ!
慌てて取り繕っても、隠蔽しようとしても、普段のデフォルトとはかけ離れた言動で、「怪しさ」は増すばかり!

そこで、ここからは、もし、何らかの問題が発覚した場合に、すぐに役立つ危機管理の3原則を齋藤さんに教わりました。

「すぐやる」「悩まない」「謝らない」の危機管理3原則

齋藤さんは、危機管理で大切なことはまず、「すぐやる、今やる、早くやる」だといいます。

大企業や官庁なら、危機管理の専門セクションもあり、専任のスタッフがいて、マニュアルも整備されているけど、小規模の法人や個人事業主は、危機管理のノウハウもなければ、準備する時間も余裕もないし、専任のスタッフもいないので、何もかにも後手後手に回ってしまうのだそうです。

「危機なんて、起きるはずがない。もし起こったら起こったで、そのときに解決しりゃあいい」と思いがちだと齋藤さん。でも、危機管理の対応は、時間をかけずにすぐやることが鉄則

まずは、問題の発生原因を極め、対策を講じて、検証してすぐ文書で発表することが求められます。企業でなくても、個人的なレベルでも、メールなどでこちらの意志を伝える必要に迫られますよね!

「いち早く対応すれば、誰もそこに完璧を求めません。何か間違いがあれば都度訂正していけばいいのです」と齋藤さん。
まさに、火災の初期消火と同じで、ボヤでくい止め、全焼から守るの精神です。

迅速な対応のイメージ
危機管理の3原則はスピード、悩まない、すぐに謝らない

ところが、たいてい慣れてないと、時間をかけて対応策を練ってしまい、それは、延焼しても何もせずに放置しているのに等しく、「もしや、なんらかの隠蔽工作でもしているか?」と疑われるだけだと……。

次に大切なことは、「できないことには悩まない!」
これは齋藤さんの長年の経験から得た鉄則とのこと。

多くの人は、解決できる知恵も知識もないのに、ただ悶々と悩むだけ。
しかし齋藤さんは「自分で解決できない問題を悩んでいても埒があかないです。解決しないで不安だけ募ります。悩んだ時間だけもったいない」とバッサリ!
悩まずに、専門に長けた人、あるいは過去に似た事例を経験した先輩などに相談するべしとのことです。

齋藤さん自身も、「たとえば5つ、問題点があったとして、中の3つがこれまでにコンサルした経験があったとしても、あとの2つも、他の経験と合わせて解決法を導きだせたりします。そのシミュレーションはまだAIにはできないことだという自負もあります」といいます。

そして、3つ目。「無駄に謝ってはいけない」
人情として、素直に詫びを入れたいのはやまやまにしても、「ごめんなさい」といってしまったために、こちらの非をあっさり認めてしまったことになります。そこに付け入れられ、後々、訴訟問題に発展したら、当然不利になるでしょう!

それよりも大事なことは、問題が起こったときに、相手の気持ちにいかに寄り添えるかということ。
相手が怒っていれば、その怒りの発端や原因になっていることについて、また相手が知りたいと思っていることについて、どこまでちゃんと説明できるか、ということが大事だ、と齋藤さんはいいます。

相手の心の琴線に触れる「神対応」で、トラブルが深刻化するのを回避できるかもしれません!

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