テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第26回は、『ジャンクSPORTS』などを手掛ける放送作家の藤本昌平さん。
ジャズ人形がもたらす効果
まさにタイトルのような事を常に考えている。こうやって書いてみると、やっぱり恥ずかしい。「器の小さい事を自ら晒す事で、逆に器の大きい人間に見せる」という『言葉のプロ』として巧みな技を使ってみたが、たぶんそうは映らない(そもそも巧みでもない)。でも仕方ない。Zoom画面にオシャレ雑貨をチラ見せさせる事は、作家として重要な要素だと信じて止まないのだから。
冒頭から2個目の恥ずかしいことを言うが、私は放送作家界にそれなりに多くいる『元芸人作家』。事務所からクビ宣告されたところを、お世話になっていた先輩放送作家(簡単に言うと神)に拾われ、この世界に入れてもらった。
そうして、テレビ業界で活躍される多くの諸先輩方に可愛がってもらう事になるのだが、最も衝撃を受けたのが……洗練されまくったライフスタイル、いわゆる『お金の使い方』だった。
なんせ、タワーマンションである。それまで多くの時間を共にした芸人仲間が住んでいた家は、壁が極薄すぎて「アレ?今、外にいる?」と感じるほど騒音が酷かったり、布団をめくると唐揚げがボロンと出てくるほど不衛生だったり、劣悪で余裕のない生活をするモノばかり。それが、作家さんときたらお台場の花火を横から見る生活をしているのだ。
そして、『青山のメゾネット』という目映いワードの自宅に住む先輩に招かれたときも衝撃が。家の中、全部オシャレ。最も幼稚な表現だが、たぶんコレが正解。棚に飾られた子ども向けのレコードプレイヤーが醸し出す『あえてのチープ感』は紛れもなくオシャレだし、鍋を温めるために使っていたカセットコンロは通常より平たく、その数ミリの差に洗練された何かを感じ取れる(あくまでも何か)。
中でも何より目を奪われたのが、ジャズ楽団を模したフィギュア。ピアノやサックス、ドラムなど7体ほどのミュージシャンの人形で、専用スピーカーから流れる曲に合わせて、それぞれのパートが動くのである。あぁ……なんてオシャレなのだろう……。
そして、このフィギュアがあるだけで部屋に来た業界の人は、ジャズ人形オシャレ→センスある部屋だなぁ→考えるネタもセンスありそう→一緒に仕事してみたい、と思うに違いない。そう考えたのである。だから今日も私は、Zoom画面に『ただただ表紙がカッコイイだけの本』をチラ見せさせるのである。
怒りの保留なんて出来ない
さて、そんな置くだけでセンスあり作家アピールが出来る小物を買うのも、全て先立つモノがなければ出来ない話。知られている話ではあるが、放送作家のギャラは、報酬を後から言われるスタイル。オンエア終了数日後に、電話やメールで額を伝えられるのが一般的な流れで、心の中では「ほほぅ……そうきましたか……」と感じている。
この感覚を聞いた友人女性は「初めて“する”オトコのパンツを脱がせた瞬間と同じだね」と表現したが、ソレが「あるある」になるかは置いといて、とにかく最後に最大のドキドキが待っている。
もちろん、クリーンな業界なのでギャラが納得できなければ交渉する権利も与えられているが……、諸先輩方に伺いたい。交渉なんて出来ますか? いくら提示額が安かろうが、80年代のプロ野球界のように、怒りの保留をした後セカンドバッグを投げつけるなんてことは出来るはずもなく、放送作家になり約15年、駆け引きめいた言葉すらも使った事がない。
どんな額を提示されても「ありがとうございますぅ」、コレの一点張り。その額が相場より低かったとき、ギャラを伝えるプロデューサーの中には、僕のような作家にも申し訳なさそうな「感じ」を出してくれる心優しい方もいます。僕なんかに申し訳なさそうな「感じ」なんか出さなくてもイイのにと思いつつ、そもそも申し訳なさそうな「感じ」を出してもらったところで、コチラの持ち球は「ありがとうございますぅ」しかない。
ただ、あまりにもショックが大きいときは「ギャラに納得いってないですよ!」という意思表示はしたい。そこで使っているのがコレ→「!」。ギャラをメールで言われたとき、予想以上に額が良かった場合は「ありがとうございます!!!」、想定通りなら「ありがとうございます!!」、予想を下回ったら「ありがとうございます!」と感嘆符の数でささやかな意思表示をしている。
このコラムも原稿料をいただけるそうで……。ありがとうございます!!!
次回は亀和夫さんへ、バトンタッチ!
担当番組、ぜひご覧ください!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。