投資の世界では理論的に説明ができないものの、経験則として広く知られていることがあります。このような経験則はアノマリーと呼ばれ、参考にする投資家も多く存在します。今回は有名なアノマリーについて解説します。

アノマリー=(根拠がない)経験則

アノマリーとは理論的には説明ができないものの、よく当たる経験則のことです。もちろん根拠がないため、必ずしも現実が経験則と同じように動くとは限りません。

ただし投資の世界では、経験則を信じる人が同じように動くと、その通りに株価などが動くことが多いようです。例えば、「1月に株価が上がる」というアノマリーがある場合、それを信じて1月に投資家がこぞって株を買えば、実際に株は上がります。理由が無くても、多くの人がアノマリーを信じるとその通りに動くことがあるのです。

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また、アノマリーはもともと根拠がないものであったにも関わらず、後で説明付けがされることも多くあります。理由付けがされることで、アノマリーはより信憑性の高いものになって広がっていきます。アノマリーの通りに投資をする必要はありませんが、有名なアノマリーは知っておくとよいでしょう。

米国株の有名な格言「Sell in May」

世界的に有名なアノマリーに「Sell in May」(セルインメイ)というものがあります。「Sell in May」はもともとアメリカの株式に関する格言で「5月に売れ」という意味です。つまり、株価は5月が天井で、6月以降に下落することが多いという意味です。

米国を代表する株価指数であるS&P500の過去何年かの推移を月次で見ると、確かに6月は前月比で下がりやすい傾向が見られます。6月に必ず下がるということを理論的に説明することはできません。多くの人が知っているアノマリーのため「Sell in May」を実行している投資家が多いのかもしれません。

「Sell in May」は有名なアノマリーであるため、さまざまな理由も後付けながらされています。例えば、アメリカの税制で5月までは前年の税金の還付金があるため、還付金で投資をする人が多いからという説や、ヨーロッパの機関投資家が中間期末である6月に資産配分の調整のため、大口で売りを入れるなどさまざまです。アノマリーに理由付けがされることで、より多くの人が信じるアノマリーになっています。

また「Sell in May」には続きがあり、「Don’t come back until St Leger day.」というものです。セント・レジャー・デイ(9月の第2土曜日)まで戻ってくるなという意味で、アノマリーによると5月に株を売って9月の第2土曜日以降に買い戻すのがよいとされています。

確かに、過去の推移を見ると9月から年末にかけて株価は上昇しやすい傾向がありますが、理論的に説明できる理由はなく、今後も続くかどうかはわかりません。

【図表1】2021年1月~8月のS&P500の推移
2021年1月~8月のS&P500の推移
2021年のS&P500指数は5月(図の水色の部分)と比べて、6月以降は下がるどころか上昇を始めており、アノマリーが通用しない年になった

10月は買い?「ハロウィン効果」

10月以降は株価が上がりやすいといわれている「ハロウィン効果」も有名なアノマリーです。当然ながらハロウィンそのものは株価に関係がありません。しかし、ハロウィンの時期に株価が底をついて、翌年の春頃まで上昇を続けるという傾向が見られる点も事実です。

もう一つの有名な格言である「Sell in May」も5月に売却し、9月の第2土曜日まで戻ってくるなというアノマリーのため、春頃まで上昇し秋頃まで株価が軟調に推移するという季節感は同じといえるでしょう。ハロウィン効果はヘッジファンドのような大口投資家の換金売りが10月に出やすい、秋の夜長で人々が不安になって売りが先行しやすいなど、さまざまな理由が後付けでされていますが、いずれも想像の域を出ず、理論的に説明できる理由はありません。

【図表2】2020年8月~2021年3月のS&P500の推移
S&P500
2020年のハロウィンでは、10月(図の水色の部分)にS&P500指数が下がり、ハロウィン前日の10月30日にいったん底をつけてから11月以降は上昇を続けるという、アノマリーどおりの値動きとなった

アノマリーはあくまで過去の傾向

アノマリーは長年にわたる経験則が集められているものであるため、市場の傾向として知っておいて損はないでしょう。実際に過去の株価の推移を見ると、アノマリー通りに動いていることも多くあります。しかし、今後もアノマリー通りに動くとは限りません。

投資の基本はあくまでも経済の動向や企業分析です。アノマリーを知ることで、過去の傾向や人々の動きを知ることはできますが、長い目で見れば、経済動向や企業分析を中心に投資行動を決定したほうがよいでしょう。

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