インフレ・デフレ、円高・円安は景気にどのような影響を与えるでしょうか。日本の景気にとって円安はプラス、円高はマイナスなどのように決めつけるのではなく、複合的視点を持つことが大切です。ファイナンシャルプランナーの恩田雅之さんに解説していただきました。
- 消費=需要が増える「良性インフレ」と企業収益を圧迫する「悪性インフレ」がある
- 原材料や石油などのエネルギー価格を押し上げる「円安」は日本の景気にマイナスも
- インフレや円安への対策は海外企業への投資。投資信託なら容易に分散投資できる
インフレと円安には「良」「悪」がある
従来は、インフレ・デフレ、円高・円安という視点から今後の景気が良くなるか悪くなるかを予想していました。
インフレに関しては、以前より「良性インフレ」「悪性インフレ」とインフレの前に「良」「悪」が付いていました。最近は、円安にも「良い円安」「悪い円安」、と「良」「悪」が付くようになりました。今後は、デフレと円高についても「良」「悪」を付けて考えられるかもしれません。
良性インフレと悪性インフレ
商品やサービスの値段が継続に上がっていく状態をインフレといいます。
一般的に商品やサービスの値段が「今年より来年、来年より再来年と上昇していく」と消費者が思うと、今のうちに購入しようと行動します。この消費行動により、その商品やサービスを提供している企業の業績が伸び、それに伴い従業員の給与も上がることで、消費も増えるという景気にいい循環が生まれます。このインフレが「良性インフレ」です。消費=需要が増えるので、「ディマンドプルインフレ」とも呼ばれます。
最近よく言われている「悪性インフレ」は、原材料費や輸送コストなどの上昇により、企業が商品やサービスの価格を上げざるを得ない状況を指します。このインフレは需要が伸びて景気を刺激するインフレではないので、企業の収益を圧迫する要因になり、投資の抑制や従業員のリストラにつながります。このインフレは「コストプッシュインフレ」といいます。
デフレに「良」「悪」の区分はない
商品やサービスの値段が継続的に下がる経済状態のことをデフレといいます。
この状態になると、今は商品やサービスの購入を控えて、値段が下がってから購入しようとする消費行動になります。この消費行動により、景気が停滞したり悪くなったりします。経済全体から考えると悪影響しかなく、インフレのように「良」「悪」の区分はありません。
ただし、日本のように生活者(消費者)の収入が延びない状況が長期間続いたケースでは、デフレが生活しやすい環境を作る場合もあります。
日本にとって円安は良いことばかりではない
従来、円高は景気を悪化させる要因、円安は景気を上向かせる要因と考えられていました。しかし、最近は新型コロナからの経済回復にともない原材料費や物流費が高騰したことで、円安が良いことばかりではない点も見えてきました。
日本は原材料や石油などのエネルギーのほとんどを輸入に頼っています。円安は、高騰している原材料や石油などのエネルギー価格をさらに押し上げてしまいます。
米国など世界で起こっているインフレと円安の影響により、10月の企業物価指数は前年同月比約8.0%と40年ぶりの大幅上昇になりました。ただし、デフレマインドの強い日本ではなかなか商品やサービスを価格に転嫁できず、消費者物価指数は0.1%と低い伸びにとどまっています。
11月の日銀総裁のコメントでは、輸出における円安のプラス面と輸入における円安のマイナス面を比べて、まだ円安のプラス面が勝っているという見解でした。しかし、今後1ドル=115円以上の円安が進んだ場合、企業が製造コストを小売価格に反映させにくい状況から「悪い円安」がより意識されることになるでしょう。
このような状況になった場合、「程よい円高水準」を目指すために過度な円安を牽制するようなコメントが日銀や政府から出てくるかもしれません。
インフレや円安への対策は海外企業への投資
将来の財政健全化とセットで考えていない最近の財政支出(国債の増発)が、財政破綻はないにしても、今以上の円安を招かないか心配です。
インフレや円安に対して個人ができる対策として、上昇したコストを販売価格に反映できる海外の企業に投資するのもひとつの方法となるでしょう。海外企業への分散投資は、投資信託を活用することで容易にできます。