米国債の利回りがFRB(連邦準備理事会)の利上げ前から上昇し、2月には10年債の利回りが2.00%を上回って推移しました。その影響で日本の長期金利(期間10年の国債の利回り)も上昇しています。今回は、金利上昇時の債券投資でメリットがある個人向け国債変動10年について、ファイナンシャルプランナーの恩田雅之さんが解説します。
- 個人向け国債変動10年は個人にとって身近な債券投資商品
- 利付国債と個人向け国債の違いは、債券価格の変動の有無と金利の下限設定の有無
- 個人向け国債変動10年は0.05%の下限金利が設定され、金利上昇時に有利
個人が身近に投資できる変動金利型債券
個人の方が身近に投資できる変動金利型債券として、個人向け国債変動10年があります。以下、個人向け国債固定3年、5年と比較しなからその特徴についてみていきます。
固定3年、固定5年は名前のとおり発行から償還まで金利が一定で変わりません。それに対して変動10年は半年ごとに金利を見直します。
各個人向け国債の金利は、
固定3年は「基準金利-0.03%」
固定5年は「基準金利-0.05%」
変動10年は「基準金利×0.66」
で計算されます。
ただし、個人向け国債では基準金利がどれだけ低くても(マイナス金利でも)0.05%を下回らないように最低金利保証が設定されています。これは、他の債券にはない特徴の1つです。
それぞれの商品の直近1年間の発行時の金利は<表1>の通りです。
固定3年 | 固定5年 | 変動10年 | |
---|---|---|---|
2021年4月 | 0.05% | 0.05% | 0.09% |
2021年5月 | 0.05% | 0.05% | 0.08% |
2021年6月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年7月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年8月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年9月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年10月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年11月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2021年12月 | 0.05% | 0.05% | 0.07% |
2022年1月 | 0.05% | 0.05% | 0.05% |
2022年2月 | 0.05% | 0.05% | 0.07% |
2022年3月 | 0.05% | 0.05% | 0.11% |
固定3年、5年はまだ最低金利保証の0.05%の状況ですが、変動10年は2022年2月、3月と徐々に金利が上がってきています。
また<表2>は、変動10年に絞って、基準金利と利率、半年毎に見直しされた利率の1年間の推移を表したものです。
*2021年10月以降は見直しの時期に達していませんので「見直し後」はブランク。
基準金利 | 利率 | 見直し後 | 見直し年月 | |
---|---|---|---|---|
2021年4月 | 0.13% | 0.09% | 0.05% | 2021年10月 |
2021年5月 | 0.12% | 0.08% | 0.05% | 2021年11月 |
2021年6月 | 0.07% | 0.05% | 0.07% | 2021年12月 |
2021年7月 | 0.08% | 0.05% | 0.05% | 2022年1月 |
2021年8月 | 0.06% | 0.05% | 0.07% | 2022年2月 |
2021年9月 | 0.01% | 0.05% | 0.11% | 2022年3月 |
2021年10月 | 0.02% | 0.05% | ||
2021年11月 | 0.05% | 0.05% | ||
2021年12月 | 0.11% | 0.07% | ||
2022年1月 | 0.06% | 0.05% | ||
2022年2月 | 0.10% | 0.07% | ||
2022年3月 | 0.17% | 0.11% |
半年ごとに金利見直しを行いますので2021年9月発行の見直し後の金利は2022年3月発行の金利と同じになります。また、金利の見直しは発行から償還まで10年間に19回行われます。
2012年4月に発行され、2022年4月償還になる第38回変動10年の金利の動きを表したのが下のグラフです。
上記の期間のトピックとしては、2013年3月に黒田氏が日銀総裁に就任し異次元金融緩和がスタート、2016年1月にはマイナス金利政策が開始されたことがあります。その影響により2016年4月以降はほとんどの期間0.05%の下限金利が続きました。
また、38回変動10年の19回目の金利見直しが2021年10月でしたので、最近の金利上昇の影響を受けることなく償還を迎えます。金利の下降局面では変動金利が不利に働くことが上のグラフからわかります。
利付国債と個人向け国債の違い
日本の国債には個人向け国債だけでなく、法人も購入できる利付国債があります。利付国債と個人向け国債との大きな違いは、債券価格の変動の有無と金利の下限設定の有無の2つになります。
1.債券価格の変動の有無
利付国債は世の中の金利の状況や景気の状況などより債券価格は変動しますので、中途換金のタイミングにより損益が発生します。
売却価格>購入価格の場合は売却益
売却価格<購入価格の場合は売却損
それに対して、個人向け国債は額面価格100円に対して償還時(中途換金時)の価格が100円に設定されています。それにより中途換金による損益は発生しません。
*中途換金した場合、直前2回分の利子(税引き後)が売却金額から差し引かれます。
2.金利の下限設定の有無
利付国債(固定金利)には下限金利の設定はありませんので、マイナス金利になる場合もあります。それに対して、個人向け国債には0.05%の下限金利が設定されているので、マイナスになることはありません。
今後の金利上昇に備えた債券投資
10年国債の利回り(長期金利)の急激な上昇を抑える目的で、日本銀行は2022年2月14日に指値オペを実施しました。
指値オペとは、日銀があらかじめ決まった利回りで金融機関から無制限に国債を買い入れる公開市場操作(オペレーション)のことです。
今回の指値オペでは、日銀が利回り0.25%で10年国債を金融機関から無制限に購入します。仮に0.25%を基準金利とした場合、個人向け国債の金利は0.165%(0.25%×0.66)(税引き前)になり、直近数年間の中では比較的高い金利です。
また、世界的なインフレや今後の米国等の利上げのペースの影響などより日本の長期金利も0.25%を上回るケースを想定しておくことも必要かと思います。その中で、0.05%の下限金利が設定され、金利上昇時に適用金利も高くなる個人向け国債変動10年は検討しておくべき商品の1つといえるでしょう。