神奈川県横須賀市の建設会社・建新は、建設業界では珍しい「週休3日制」に挑戦しています。給与を減らすことなく従業員の休日を増やし、2030年までに完全週休3日を目指すという意欲的な取り組み。日々の業務に支障をきたさないまま休みや残業を減らす試みには、私たちのような異業種の会社もおおいに見習うべきところがあると感じました。

大口隆弘さん
建新の代表、大口隆弘さん

プライベートが充実すれば、仕事でも力を出せる

筆者の会社は完全週休2日ですが、業界によって「休みやすさ」はまちまち。建設業界で、現場を任されている担当者は週休2日も難しいことがあるようです。

建新はそんな建設業界にありながら、週休3日のトライアルを導入しています。まずは2カ月のうち1週間を週休3日にして、半分近い社員がトライアルに参加したとのこと。さらにこの4月からは、月1度の週休3日を全社的に導入するとのことです。今後は週休3日の頻度と参加する社員を段階的に増やしていきながら、将来的には完全週休3日の実現を目指しているそうです。

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建新が週休3日のトライアルを導入しようと考えたきっかけについて、同社代表の大口隆弘さんは「プライベートが充実していないと仕事にも集中しにくいのでは、と考えました」と言います。休日だけでなく残業も減らすことでプライベートの時間が増えれば、今まで自分の実力の6割か7割しか出せなかったのが、常に100%、ときには120%発揮されて、会社全体の生産性が上がるのではないかと考えたということです。

仕事の属人化を減らす情報共有の仕組み

週休3日トライアルに先立ち、建新では完全週休2日と、残業を減らす取り組みを進めました。週6日分の仕事を5日で行うために、同社ではクラウド型のシステムを導入して、業務の効率化を図りました。

これは筆者の会社の課題でもあるのですが、業務の効率化を阻む要因のひとつに、仕事の「属人化」があります。この属人化をいかに避けるかが重要になりそうです。

「建設業では特に、属人的な仕事を減らすことは難しいのかもしれません」と、建新のグループ事業管理本部・本部長の川西陽介さんは言います。「たとえば現場監督などは、責任者がずっと建設現場に張り付いている必要があるうえ、工程表や物件の資料は担当者が紙で持っていて、その人がいなければほかの社員は何もわからないような状態でした

このやり方では、建設現場の担当者はなかなか休みを取れません。「工程管理をクラウド上のシステムで行うようにして社員同士で情報を共有しながら、担当者を2人制にするなどの試みを進めているところです」(川西さん)

残業を減らす取り組みとしては、上長が社員の勤務時間を管理して、承認を取らなければ残業できない仕組みを取り入れたうえで、終業時間になったらパソコンを強制的にシャットダウンさせて、夜7時30分には館内を強制消灯させることにしました。

建設業
建設現場では専門的な知識や技術が求められるため、仕事が属人化しやすく、休みを取りづらい傾向がある

残業を減らせば評価される人事制度

「やはり当初はかなり抵抗がありました。クラウドのシステムも慣れないうちは苦労しましたが、現場ごとに密なミーティングをして、なぜ業務効率化が必要なのか、効率化されたらどんなメリットがあるのか、現場の社員に向けて説明を重ねてきました」と川西さんは振り返ります。

効率化が進めば実際に残業が減り、週休2日でも業務が回るようになってきたため、会社の取り組みに対する社員の理解は徐々に浸透していきました。大口社長は「労働時間の圧縮、業務の効率化、さらには業績の向上を達成でき、この流れで週休3日もできるのではないかと考えました」と語ります。

一方で、社員の方にとって、残業が減ることは手取り額が減ることでもあります。反発はなかったのでしょうか? 川西さんによると、「残業をなくすことを会社がきちんと評価する人事制度を取り入れることで、対応しています」とのことでした。

つまり、残業を減らすことをひとつの目標として、目標を達成できれば賞与や昇給などの評価に反映させるという仕組みです。「残業代の代わりに、残業せずに仕事を終わらせたことを給与で評価する」という制度は、社員の間でも定着しつつあるようです。

大口社長は、「限られた時間でどのように仕事をしたらいいかを社員ひとりひとりが考えるようになった結果、業務の効率化が進んだうえ、社員のプライベートの時間が増えて仕事とのメリハリができて、仕事にもやる気が出てきているのではないかと思います」と評価しています。

業務の効率化が進んだのは、クラウド化など仕組み面の充実に加えて、「効率化できれば社内での評価が高まる」ということで、社員の皆さんの意識が高まった結果だということがうかがえます。

建新
会社の新しい試みでは、社員との対話や説明を大切にする

新卒採用にも好影響。応募者が激増

建新が週休3日トライアルなどの取り組みにより、社員の働き方以外にも大きく変わったことがありました。

「休みや残業を減らすのが難しいといわれてきた建設業でありながら、そうした取り組みを続けてきたことで企業価値が上がり、結果として社員の採用にも効果が出ています」と大口社長は言います。以前と比べると、9倍以上の応募が来るようになったそうです。「最近は、仕事とプライベートの両方を大切にしたいという若い方が増えているように思います」と川西さんは指摘します。

建新では目下、会社の業績が順調に伸びているということです。社員の給与水準を下げずに週休3日を実現するという野心的な目標に、今後も挑んでいきます。

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