テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第78回は、バラエティ・情報・スポーツ・ドキュメンタリーとノンジャンルで活躍中の放送作家、キシモトジュン太さん。
真の試練はオンエア後
番組のオンエアが終わり、しばらく経ってからかかってくるプロデューサーからの電話が本当に苦手です。かと言って、かかってこないと困ってしまう、とっても大切な電話。
放送作家の皆さんはなんとなくピンと来たと思いますが、そう、「ギャラ交渉」です。放送業界以外の方に話すといつも驚かれますが、作家のギャラはほとんどのケースが「あと決め」。つまり、仕事がぜ〜んぶ終わるまで、いくらもらえるのかわからないのです。
まぁ、交渉と呼べるほど大したモノではなく、たいていは「今回は少なくて申し訳ない。次はもうちょっとなんとかなりそうだから」みたいなことを言われ、別段何かを要求することもなくパッサパサに乾ききった愛想笑いをしつつ受け入れる、というのが僕の様式美です(で、次回以降も結局、同じやりとりのループ)。
……といった具合に、我ながら悲しくなるほどダメダメなギャラ交渉ばかりですが、過去に一度だけ「いくらでも払ってやるから、好きな金額を言ってみろ!」と、今ではほぼあり得ない豪快なセリフを言われたことがあります。
初めてのギャラは○○○2カ月分
それは、僕をこの世界に引き入れてくれた恩人とも言うべきプロデューサーTさん(有名なTプロデューサーとは別の方です)との初めての仕事、つまり、作家として携わった最初の番組でのギャラ交渉でした。当然、僕がド新人だということを知っているので、遊び心で試してきたんだと思います。
怒らせたくはないけど、もらえるものならなるべくたくさん頂きたい。でも、いかんせんズブズブの新人なので、「相場」がサッパリわからない……。時間にして数秒間フル回転で考えたあげく、とっさに僕は言いました。
「だいたい2カ月働いたので……Tさんのお小遣いの2カ月分くらい頂けると嬉しいのですが……」
一瞬、沈黙があってから「……わかった。じゃあ@@万だな。あと、それに企画料として5万色付けてやるわ」と、こちらの金額に上乗せまでしてくださったTさん。
これはあくまで、Tさんが非常にフランクでユーモアの通じるお人柄だったので許された話ですが、とにもかくにもイレギュラー極まりない感じで決まった僕の初めてのギャラ。以来、この金額が僕の1つの指標となったのは言うまでもありません。
ギャラ交渉にも遊び心が必要?
放送業界の予算削減が続く昨今、こういうおかしなギャラ交渉ができる空気にはなかなかならないかもしれません。大変お世話になったTさんも、4年前に突然の病で鬼籍に入られました。
それでも、楽しいことが大好きな放送作家である以上、ギャラ交渉にもほんの少しだけでも遊び代(じろ)があると悲観ばかりもせずに済むのではないかと思う、今日この頃です。
まぁ、毎回大喜利みたいになるのも困りモノではありますが…。
次回はさん水野麻里さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。