宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、新NISAを始めようとしている方の「これまでのNISAで運用してきた商品をどうすればいいのか?」という質問をもとに、旧NISAから新NISAへの移行に関する注意点を解説します。

  • NISA口座の開設時の重複チェックに備えて、自身の口座を事前に確認しておく
  • 旧NISAの非課税期間が終了したとき、損が出ている場合は注意が必要
  • 新NISAの口座を選ぶ際は、運用中に「目移りしない」ことも考慮に入れたい

投資信託などが買える証券口座は3種類ある

【質問】
今のNISA(2023年までのNISA)で運用をやってるけど、新NISAで運用するには、何かしなければならないの? 今までのつみたてNISAと一般NISAでの、税金がかからない期間はどうなっちゃうのですか?

いよいよ新NISAが始まりました。昨年から新NISAのスタートが近づくごとに、私のところにもさまざまな質問が飛び込んでくるようになりました。

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新規で新NISAを始める方は、金融機関でNISA口座を開設することになりますが、NISA口座は年間1人1口座と決められているので、金融機関はNISA口座の二重開設がないかの確認を慎重にすることになります。新規の開設なのになぜ?と思われるかもしれません。
投資信託などの商品が買える証券口座には、大きく分けて以下の3種類があります。

①一般口座 自分で年間取引報告書を作成して、確定申告する
②特定口座 金融機関が取引報告書を作成してくれる
特定口座には、あらかじめ利益から税金が差し引かれるため確定申告が必要ない「源泉徴収あり」と、確定申告が必要な「源泉徴収なし」の2種類があり、どちらかを選ぶ
③NISA口座 運用の利益が非課税

特定口座の「源泉徴収あり」が不利になるケース

大半の方は②特定口座の「源泉徴収あり」を選ぶと思います。源泉徴収ありは、確定申告が必要ないため楽なように見えますが、その反面、源泉徴収なしと比べて不利になる場合もあります。それは、運用で損が出ているケースや、複数の金融機関で取引がある場合です。

運用で発生した損失は、翌年以降3年にわたって繰り越し、各年の利益(儲け)と相殺できますが(これを損益通算といいます)、源泉徴収ありの場合は、支払った税金を損益通算によって取り戻そうとすると確定申告が必要になり、かえって手続きが複雑になります。したがって、このような場合は源泉徴収なしを選んだ方が有利となるのです。
なお、特定口座は源泉徴収ありから源泉徴収なしの変更が可能です。

NISA口座が重複していないか、確認に時間がかかる場合がある

そして、運用の利益が非課税になるのが③NISA口座です。新NISAをきっかけに新しくNISA口座を開設する本人が、商品の選定のみに注視するあまり、過去にどんな証券口座を開設したのかわかっていないケースがあるために、誤ってNISA口座を重複して開設しようとしてしまう場合も多々あります。
一度はNISA口座を開設したものの、あとで重複がわかり無効となった口座で買い付けた商品は、当初から①一般口座で買い付けされたものになります。

金融機関によっては、NISA口座が重複していないかの確認が税務署から得られるまで、しばらく待たされる場合があります。仮にNISA口座が重複していたら、古いNISA口座を廃止して(運用中の商品はそのまま非課税で保有できますが、その口座で新規の買い付けはできなくなります)、新しいNISA口座を開設することになります。新しい口座でなければ買えない商品を運用したい場合は、こうした手続きが必要になります。

確認で待たされたうえにNISA口座を変更する手続きをしていたら、取引の開始が遅くなり、投資チャンスを逃すことになりかねません。だから事前に「自分の口座」がどうなっているのか、知っておかないといけませんね。
そして、今回の相談者のように、すでにNISA口座を持っている方の商品の扱いはどうなるのでしょうか? これを知っておかないと少々やっかいかなと感じますので、以下で重点的に説明していきます。

旧NISAの非課税期間が終了したらどうなる?

これまでのNISA口座の取扱いは、一般NISAとつみたてNISAで違ってきます。非課税期間は一般NISAが最長5年間、つみたてNISAが最長20年間と決まっています。新NISAは、この非課税期間が恒久化されました。ここは大きな違いなので、線引きが必要になります。

NISA口座の金融機関を変更しても、他の金融機関のNISA口座で保有していた商品は、新たに開設した金融機関のNISA口座(従来の一般NISAやつみたてNISAを継続して保有するための口座)には移換できません。新たに開設したNISA口座で運用できるのは、そこで新規で購入した商品に限られるからです。そのため、変更前の金融機関のNISA口座で購入した商品は、同じ金融機関で保有し続けるしかありません。

2023年に一般NISA口座で購入した商品は2027年12月末で非課税期間が終了、つみたてNISAで購入した商品は2042年12月まで非課税期間が継続できることになっています。しかし、ここで問題が発生する可能性があります。ポイントは「非課税期間が終了したらどうなるのか?」です。

手続きを行わなければ、旧NISAの商品は課税口座に払い出される

旧NISAの非課税期間延長システム(ロールオーバー)はなくなったので、そのままにしていたら、旧NISA口座の商品は非課税期間が終わったら課税口座(一般口座か特定口座)へと払い出されたうえで、運用が継続されていきます。移管後の運用で得られた利益は課税されていきますので、注意しなければなりません。

新NISA口座に移換する場合は、商品を売却して、新NISA口座で同じ商品を買うことになりますが、課税口座への払い出しは、特に手続きの必要はありません。非課税期間終了時に儲かっていた(株価や基準価額が上がっていた)場合は、課税口座に払い出された時点での株価や基準価額が新たな取得価格になるので、課税されるのは、その後さらに儲かった分だけとなります。

損をした状態で、旧NISA口座から課税口座へ払い出された場合の注意点

課税口座への払い出しでの一番の問題は、損をした状態で移換された場合です。この場合は売却を考えないと、二重の損を抱えてしまうことになります。

元本100万円で投資をしていた株式が、70万円に値下がりした例を考えてみましょう。課税口座に移換されたときの時価である70万円が取得価額となり、この時点で30万円の損失が確定されます(一つ目の損)。
もうおわかりでしょう。その後、70万円が80万円になって10万円儲かったと思って売却しても、取得価額の70万円が基準になるために、10万円の儲けに対して約20%、つまり約2万円の税金を払わなければなくなってしまうのです(二つ目の損)。

100万円からの投資からすると、一度下がった後にやっと少し値上がりして、本来なら20万円の損失で損切りできたはずなのに、実際には22万円損したことになります。
課税口座ですから、損を少しでも取り戻そうと思ったら、損益通算で源泉徴収なしの確定申告をするしか手はありません。

長期運用重視のつみたてNISAでは、20年後に課税口座へ移管する際に損が出ている可能性は小さいと思われるので、あまり影響がないと思いますが、非課税期間5年の一般NISAの運用で損をしている方は、毎年売却を視野に入れておかないと、場合によっては損失が大きくなり、泣きをみる結果となるでしょう。一般NISAは「出口戦略」が必要ですね。

「目移りしない」という基準で新NISAの口座を選ぶ

最後に、「新NISA口座はどこの金融機関で開設した方がいいのか?」の質問も多く寄せられていますので、私の考えを言わせていただきます。

口座を選ぶ
数ある金融機関の中から、どんな基準で新NISA口座を選ぶべきか?

金融機関にもいろいろありますが、その差は「投資商品の数」と「コスト」、そして「情報力」です。
口座が開設できる金融機関には証券会社、ネット証券、銀行、運用会社などありますが、主にネット証券がNISAを牽引しているといえるでしょう。

ネット証券の武器は、第一に商品の数です。投資信託、株式、債券など多くの商品を選べます。そしてコストでもネット証券が有利ですが、ほかの金融機関との最大の違いは、自分自身の力でいつでも売買できることにあります。情報量についても、取り扱う投資信託が多くても数十本の銀行などと違い、得られる情報は豊富です。

NISA口座は1人1口座なので金融機関選びに頭を悩ませるでしょうが、答えは簡単です。初心者は経験者ではありません。多くの商品に目移りし、過度なリスクを取る必要はありません。他商品に目移りしてしまうと、長期運用の王道である「ほったらかし」が難しくなってしまう結果にもなります。

極端に言えば、長期投資・積立運用であれば、1商品でも十分です。株式を売買するなど自力で運用しなくても、投資信託というプロが運用する商品に任せればオッケーだと思います。1口座1商品でも、長い目で見れば十分なパフォーマンスを得られるでしょう。

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