テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第130回は、前回に引き続き『水曜日のダウンタウン』『マツコ&有吉 かりそめ天国』などを手掛ける、放送作家の矢野了平さん。

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“大量の札束”を背負ったアメリカ旅

矢野了平さんの写真矢野了平
放送作家
日本放送作家協会

日本テレビで毎年放送されている「全国高等学校クイズ選手権(通称・高校生クイズ)」は時代に合わせてスタイルがガラリと変わるという、長年続く特番の中でもかなり異質な番組です。2014年から4年間は、かつてのウルトラクイズを彷彿とさせる「アメリカ大陸横断」に高校生たちがチャレンジする企画でした。

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その旅に構成&クイズ担当として同行したのですが「とにかく肩が凝った」という思い出が強く残っています。なぜならクイズの書かれた問題用紙が2000枚近く入った登山用リュックを常に背負い続ける旅だったからです。

クイズ問題はA5サイズの厚手の紙に1枚1枚印刷されています。クイズ番組の司会者がカードを手に持って、クイズを読み上げるシーンをイメージしていただけたら分かりやすいと思うのですが、あれが2000枚です。さらに問題の裏付け資料をまとめたカードが1問ごとにクリップで止められています。つまり合わせて4000枚です。

重たいリュックのイメージ問題用紙が2000枚近く入った登山用リュックを背負い続けアメリカを横断した

クイズ問題&資料がパンパンに詰め込まれた登山用リュックの重さは15kgありました。1問1問にかかっているお金を考えると、大量の札束を背負って慣れないアメリカを旅している気分です。なので収録だけでなく食事も移動も常にリュックを背負い、飛行機に乗る際も荷物として預けず、常に自分の真上にあるスペースに仕舞うようにしていました。プレッシャーは相当なもので、リュックが盗まれる悪夢を見て飛び起きる経験を何度もしたほどです。

予算をすべて使い切ってしまい……

そんなアメリカ横断ロケが初めて決行された2014年。最初のチェックポイントはハワイ。ビーチで◯×どろんこクイズが行われる予定だったのですが、いきなりトラブルが発生しました。季節外れのハリケーンがハワイに接近し、ビーチでの撮影が不可能となってしまったんです。
そこでスタッフは急遽映画撮影用のスタジオを見つけ、すべてのセットや機材をそこに移し、ビーチに穴を掘る代わりとなるセットを組み上げたのです。

トラリピインタビュー

スタッフ総出の準備のおかげで予定通りのスケジュールで撮影を行うことができたのですが、その直後にプロデューサーからこんな宣言がありました。「ハワイで予算をすべて使い切ってしまいました。この後ニューヨークまで予定外の出費は1ドルも出せません」

そこから約10日間、ハリウッド→サンタモニカ→テキサス→ニューヨークと旅をした高校生クイズ一行は「予算はないぞ!」と唱えては緊張感を持ち続け、リュックが盗まれることも、ハリケーンに見舞われることもなく、なんとか最後まで撮影を終えることができました。

ハワイのハリケーンのイメージアメリカ横断ロケ、最初のハワイでハリケーンに見舞われる

破格の予算をかけた大型クイズ番組・謎解き番組のお手伝いをさせていただくたびに「やっぱりテレビってロマンがあるなぁ」と感動します。
制作費が少ないと嘆く現場が増えているのは事実ですが、ここぞのときにドンと予算をかけて「テレビじゃなきゃできないこと」を実現させて視聴者の皆さんにお届けするのがテレビの魅力だと思うのです。

次回は勝木友香さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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