デジタル技術を活用して業務の改善を図るDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれる世の中ですが、実際には多くの企業でDXを担う人材が不足しています。そんな企業を対象に、中立的な立場からITの活用やDXを支援しているのが株式会社IT経営ワークスです。同社のサービスや、中小企業がDXを成功させるためのポイントについて、代表取締役の本間卓哉さんにお話をうかがいました。
株式会社IT経営ワークス 代表取締役
本間卓哉さん
1981年秋田県生まれ。株式会社IT経営ワークスなど7つの会社を経営している。2015年に「一般社団法人IT顧問化協会」を発足し、代表理事を務める。同協会では主に専門家向けに「業務DX推進士」の認定を行っている。2020年には経済産業省より「情報処理支援機関(スマートSMEサポーター)」の認定を受ける。2023年9月、7事業のグループブランド化を図るため「Good Smile Group(グッドスマイルグループ)」を立ち上げた。
IT顧問は「弁護士や会計士のIT版」
IT経営ワークスのビジネスについて教えてください。
本間さん DXの推進による業績アップの実現をコンセプトとして、中小企業を中心にIT関連のサービスを提供しています。多くの企業では、弁護士さんや会計士さんと顧問契約をしていると思います。私たちはその「IT版」として、顧問契約をさせていただくという事業モデルです。
私たちが派遣するIT顧問が、企業のIT担当者やDXを推進する方とチームを組んで、要望や相談を受けながら、いっしょに課題を解決していきます。必要に応じてITツールを導入し、活用を支援するなど、ITの活用によってさまざまな課題を包括的に解決へ導いていきます。
顧問1人だけではすべての課題に対処できないので、必要に応じてITベンダーなどのパートナーとも協力しながら進めていくことになります。企業が直接ITベンダーに依頼すると、ベンダーは自社のサービスを売ることを優先してしまい、企業にとってはそれが最適な解決方法にならない場合もあります。私たちはベンダーから独立した中立的な立場なので、お客さまにとって本当に必要な製品やサービスを選べるところが強みです。
ITツールを活用して課題解決に導く
IT顧問の具体的な活用例には、どのようなものがありますか?
本間さん 社員が300人くらいの不動産系の会社から、「DXを推進したいけれど、どう取り組めばいいのかわからないので、専門家の知見がほしい」という要望がありました。その会社は「紙の文化」が根強く、IT化がなかなか進まないことが課題でした。さらには関連会社がいくつもあり、会社ごとに体制が異なっているため、そこをDXによってしっかりと統制していきたいということでした。
その会社では、IT顧問が月2回程度の定例会議で現状を把握しながら、DX化に向けた活動に優先順位を付けて、順次進めていくという形を取っています。普段はチャットなどを通じて、IT担当者に具体的なアドバイスを送っています。
これまでに、顧問契約ではない形態も含めて約400社との取引をさせていただいていますが、企業によって課題や要望は多種多様です。私たちの提案も、補助金を活用してのITツールの導入や、勤怠管理やチャットツールなどの活用、最新のセキュリティソフトの導入、社内ネットワーク構築などのバックオフィス業務、さらにはウェブマーケティングやホームページ制作、SNSによるプロモーションなどさまざまです。
パッケージ化されたサービスを提供するのではなく、個々の会社の事情や予算感に合わせたサービスを提供しているということですね。
本間さん そうです。基本的にオーダーメイドのサービスです。
「経理の人が急に辞めて、後任の担当者が困った」
私も中小企業で「ひとり情シス」的な業務を担当しているので、IT顧問というサービスは、個人的にたいへん興味があります。当事者のひとりとしてお聞きしたいのですが、たとえば業務効率化のために新しいシステムを入れることになると、これまでと業務フローが一部変わったり、場合によっては一時的に業務が増えたりするため、なかなか難しいところがあります。どのように対応しているのでしょうか。
本間さん やはり「変化したくない」という思いは強いですし、業務効率化に向けてトップダウンでいろいろ進めると、現場の方が「私の仕事がなくなってしまうのではないか」と考えたりすることもありえます。
でも、自分でなくてもできる仕事を機械に任せれば、頭を使うべき仕事により多くの時間や労力をかけられるようになります。単にツールを導入したり使い方を伝えたりするだけではなく、効率化によって生まれるメリットを示すなど、現場のマインドチェンジにも力を入れています。
「業務の属人化」をいかに避けるか、という課題もあると思います。私自身も、今担当しているIT関連の業務を、その一部でもほかの誰かに任せられるようにしたいと、以前からずっと思っていました。「いなくなったら困る人」にはなりたくない。代替可能な社員でありたい。そのためにもDXの推進が大事なのかなと思います。
本間さん たとえば経理の担当者が急に辞めることになり、その人しかわからないことがあまりにも多くて後任の人が困ってしまうというケースはよく聞きます。それがきっかけで、IT顧問についてお問い合わせをいただくことがあります。
日頃から業務内容について情報共有ができていれば、いざというときに業務の引き継ぎがスムーズにできる。でも、そう思ったとしても実際に何から始めたらいいかわからない。そうしたきっかけで、私たちのサービスを利用していただくことも多いですね。
7つの企業を運営。メンバーは正社員ではなく「業務委託社員」
本間さんはIT経営ワークスの経営にとどまらず、複数のビジネスを立ち上げて、事業ごとに会社を運営しています。いずれも従業員がひとりもいないことが特徴的だと思いました。
本間さん 私が最初に起業したのがIT経営ワークスでしたが、このほかに業務システムの開発を行う会社や、ホームページの制作などクリエイティブの会社、補助金の活用支援サービスを提供する会社など、7つの事業を運営していて、事業ごとに別々の会社を設立しました。
これらの会社を最小限の役員のみで運営し、基本的には雇用しない形でビジネスの拡大に挑んでいます。IT顧問もそうですが、具体的には業務委託という形態で事業を成り立たせています。
正社員ではなく、業務委託という形にしているのはどんな理由でしょうか?
本間さん 大切なのはお互いの信頼関係であって、そのために雇用契約は必須ではないと考えています。いっしょに働く人の多くは、時間ではなく成果で対価を得たいということで、その方が双方にとってやりやすいのかなと思います。
自社の社員を雇わずにクオリティが高いサービスを提供するためには、信頼できるパートナーとの協力が肝になりそうですね。
本間さん ビジネスパートナーの募集もしていますが、ほとんどが「縁」によるものです。これまでいっしょに仕事をしてきた人からの紹介をきっかけに、そこから中長期的にいっしょに仕事をするケースが多いですね。
中小企業で働く人が、現場からDXを進めるために
現場で働きながらITで日々の業務を効率化して、より利益を出せる会社にしていきたいと考えている人は多いと思います。経営者と違って決定権がない社員が、業務全体のDXを実現するために何かできることはあるでしょうか?
本間さん ツールの導入や、私たちのようなIT顧問との契約となると、経営層ではない現場の社員がひとりで声を上げても実現は難しいですが、それでも発言してみることには意味があると思います。
「多元的無知」という言葉があります。ある規範や慣習に対して、自分だけがそれに対して否定的で、周りのみんなは受け入れていると思い込んでいる状態のことです。そうした思い込みがあると、「今の状況を変えたい」と願っても、どうせ周りは否定するから言っても無駄だと思って黙ってしまうケースが、実は多いのではないかと思います。
でも誰かが異を唱えたら、実はほかの人もみんな同じことを考えていたことに気付く、ということもありえます。「今の業務を効率化したい」「DXを進めたい」という声が多数派になれば、経営者が動いてくれるかもしれないですね。