宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回のテーマは「老後のお金の管理」。相続の際に、残されたお金をどうするかで家族がもめるのを心配している相談者に、お金をどう管理するかについてアドバイスします。

  • 親と同居する子どもと遠方に住む子どもで、相続の際にもめる可能性がある
  • 家族がもめないようにするには遺言が有効。おすすめは公正証書遺言
  • お金を使って人生を楽しんで、財産を残さなければ家族間で争いは起きない

高齢者の課題は「お金の管理」

【質問】
僕も75歳を超えて、いよいよ後期高齢者の仲間入り。長年良く頑張ってきたな!と自分を褒めたいところですが、厄介な問題がちょこちょこ出てきて、面倒なことになって困っています。老後生活は安定していて、ある程度のお金もあるんだが、子供たちの仲が悪く、これでは後でもめ事になるのではないかと危惧しています。お金のことで家族がもめない対策は何かありますか?

今回は日本経済の礎を築いたと言ってもいい、昭和世代の悩みを具体的に考えていきます。

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令和時代の若い世代の悩みは「お金の不足」、逆に高齢者世代は「お金の管理」となります。管理といっても考え方はさまざまで、お金があっての管理と、お金が不足しての管理と2通りあると思います。
今回は主に、お金がある(余裕がある)高齢者のお金の管理について、私の考えを話していきます。

相続問題については、第73~74回の相談室にもありますので、詳細はそちらで確認していただきたいと思います。

遺産の分け方と相続税の問題。争いを避けるには?

「二次相続」で思わぬ損をしないための相続税対策

今回のテーマは相続問題というより、高齢者の「お金の使い方」を見ていきたいと思います。

その前に前回のおさらいとして、世の中の相続に対するイメージは、相続財産がある場合、確実に税金を払わなければいけないと思っている方が多くいるということです。
地方で相談を受けると、普通のサラリーマン家庭で持家あり、退職金は全額預金、定期預金ありの場合、相続税はいくらかかりますか?などと、税金がかかる前提で相談されます。相続財産には基礎控除があること、夫婦間では1億6000万円までは相続税ゼロになることなど、知らない方が大半です。ましてや、夫婦間の相続では全て配偶者が相続してしまうのは得策ではないことや、1次相続・2次相続の違いなど、事前に知っておかないと、相続が発生したときに損をすることになります。

相談者もその一人で、すでに奥様は他界されており、お子様がお二人います。相談者はお一人のお子様夫婦と同居されており、別のお子様夫婦は遠方に住んでいます。息子夫婦と一緒のこともあり、お金にはそこそこ余裕があって衣食住に不便もないとのことでした。
相続財産は基礎控除内でしたので相続税はかからないのですが、この「そこそこある資産」をどうするかが問題でした。

そこで今回は、もめない「お金の管理」を、相談者の家族環境を例にして考えます。

家族が離れていると、相続でもめることになる

まずは相談者の家族環境を見てみましょう。

・家族
本人(月18万円の年金)
同居する長男夫婦
遠方に住む次男夫婦
・相続財産
自宅……約1300万円
現預金……約1000万円
有価証券……約500万円
生命保険の死亡保険金……300万円
借金……なし

生命保険金は非課税となるので、相続財産は2800万円。基礎控除は4200万円ですから、相続税は当然ゼロとなります。
結果、「親の財産は自分らで勝手に分けて」となるわけですが、ここで最大の障害になるのが、誰が親を診ていたか?という問題です。

遠方に住んでいて、どうしてもなかなか親元に帰れていない次男からすると、「勝手に決めるな! 俺にも権利があるから!」となるでしょう。配偶者がいるとなればなおさらのことです。妻が「妥協は禁物」と夫を焚きつける。これでは話はこじれるばかりです。「兄貴には保険金と家をあげるから、預金と有価証券を相続してよ」などと一方的に要求するのは、兄にすれば不条理な話です。互いの意見がどうしてもぶつかり合い、最後は争いとなっていきます。

昭和世代の考えは、長男が家を守り存続させる、その代わり世話になってるから相続では長男をメインにするということですが、核家族が当たり前の現代では通用しません。
相続でもめないようにする解決策は、遺言しか存在しません。

遺言書を作るなら公証人役場へ

遺言書には自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人役場で作成する「公正証書遺言」がありますが、絶対に公正証書遺言が良いと思います。
自分で作成する場合は、遺言書にあるルールを必ず守らなければいけません。公証人役場は敷居が高くて大変と思われがちですが、全然そうではありません。

公正証書遺言を作成するには、まず公証人役場に電話予約して、公証人と2度ほど面談しながら自分の遺言を伝えます。現預金通帳、有価証券の明細書などを持参するといいです。あとは公証人が口述筆記してくれます。
証人は2人必要ですが、公証人が司法書士を紹介(料金は別途、1人1万円)してくれます。費用は相続財産の金額で決められています。

このケースでは、遺言書を作成する費用は約10~15万円くらいです。遺言書は公証人役場で保管し、控えもあるため、紛失、偽造の心配もありません。そして、あらかじめ相続の際の代表者も決めておけるので、代表者が遺言書の執行をすることができます。費用と手間はかかりますが、公正証書は安心です。

相続は資産家だけが揉めるわけではありません。財産に目がくらむのも人間です。家族の形は難しいと言わざるを得ません。

遺言書の作成
遺言書は自分で書くより、お金がかかっても公証人役場へ行って作った方が安心

お金を残さなければ争いは起きない

ここからは「究極のもめない選択」としての、お金の管理を示していきます。

相談者は年金生活者で、水道光熱費は長男負担。生活費は衣食が占めます。持病がありますが、定期的な診察を行い維持できている状態です。お金には困ることはないとのことでした。今の年齢(75歳)まで、ある程度お金を残してきたことはご立派だと思いますが、「お金は使った方が幸せに包まれる」ものです。

加齢に伴う心配ごとには保険制度を利用して、お金は自分の楽しみに使う

お金は使った人ほど、周りから大切にされるのも事実です。高齢になるほど「将来が不安だから」とお金を使わずに貯め込もうとする人が多いですが、国の保険制度を利用すれば、実はお金はほとんどかかりません。お金を使って楽しむことが心身ともに健康の源です。
永久に「お客様」でいられる環境こそが、楽しめる秘訣です。

家族に関する悩みも、相続の前にお金を使って解決する

そして、歳を取ることで増えていくさまざまな悩み(家族、子どもなど)も、お金を使うことで解決できますし、悩みを減らしていけば自分の生活も楽にすることができます。

やっぱり争いを起こさない究極の対策は「お金を残さない」に限ります。これが、「そこそこある資産」を持つ人のお金の使い方です。

高齢者のタンス預金が多いことは、大きな問題だと思います。確かに、残された家族にとってはありがたいものですが、そのお金が家族の自立を妨げていると考えた方がいいです。
子どもと同居であれば、必要最低限の生活費と生命保険(非課税枠内)と、最悪、介護状態になった時の介護保険があれば十分です。民間の生命保険だと要介護1以上でも一時金が受け取れるものもありますので、特約を付けておけば万が一の寝たきり状態などにも備えられます。

「お金は必要最低限しか残さない」も選択肢です。そして相談者は、「気前の良さ」で幸せを感じてください。ただ、うまい話にはご注意ください。高齢者を狙った詐欺も横行していますよ。

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