700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第178回は、新作『新渡戸の夢~学ぶことは生きる証~』で注目の社会派映画監督・野澤和之さん。
MONEY TALKS
放送作家協会のさらだたまこさんに新作映画の案内を申しあげたら、「新札の出るタイミングでお金をテーマにしたエッセイを書いて」と依頼を受けた。
お金に円、ちがった縁のない私はお金を増やす話は得意ではないと言ったが、新渡戸にまつわる話で良いとのこと。
参考までにこれまで作家先生方のエッセイを読ませていただいた。
なんだ、結局オイラと同じ貧乏物語か。
それなら得意だ!
風呂無し、共同トイレ、4畳半、電話なし、駅から徒歩30分の築30年のアパート暮らし。
1日1食インスタントラーメンの生活も当たり前だった。
1970年代の学生は誰も同じだったような気がする。
というか、周りに誰もブルジョア家族の仲間たちがいなかっただけかもしれない。
とはいえ、貧乏を恨んだことは一度もなかった。
それは、田舎から都会に出てきて、将来の夢をみて進むしかなかったからだ。
自分の夢を考えて構築し、語るのはいつも楽しかった。
だが、ここで克服したような顔をしては、だめだ!だめだ!だめだ!
日本も世界も貧乏や貧困は広がっているんだ。
年金や生活保護費や一人親家族への支援、生活の苦しい人たちへ回るべきお金がどんどん減っている。
一方で国会議員の報酬などは、決して減額することがない。
権力で裏金を集め、個人預金にためている議員もいる。
公僕のしもべたるものの意識がまるで欠如している。
みんなお金さえあれば何でもできると信じている。
私が初めてアメリカで勉強していた1980年代前半。
1ドル250円の頃。
私がよく聞いた言葉。
MONEY TALKS.
英語のできない私は「え!この国では、お金がしゃべるのか?」とドル紙幣をまじまじ見た記憶がある。
この頃のアメリカでは、移民も増えていて、どんどん格差が広がっていった。
人種問題と格差問題が融合していた。
どうすることもできない弱者は、結局「MONEY TALKS」と口ずさみ、諦め気分で働くしかなっかた
MONEY TALKS.
金が物を言う時代。
今、どうなったか?
アメリカのトランプ前大統領をみればよくわかると思う。
大金持ちしか大統領になれないらしい。
REVOLUTION
大きなことは言えないが日本だけは、このMONEY TALKSの思想を、革命を起こしてでも変えるしかないと思っている。
戦争に負けて私たちの親や祖父母世代が一生懸命日本を再建してくれたのは感謝している。
だが戦後の高度経済成長ではびこってきたのが、金さえあらば何でも買えるという意識。
金さえあれば……家も車も学歴も地位も名誉も権力もそして幸せまでも買えると勘違いしてしまった。
戦後の昭和に育てられた私もその影響はぬぐえない。
物と金に弱いかもしれない。
その証拠に高い利子を払って家を買っているのだから。
今こそ、目を覚まそうと思う。
『新渡戸の夢~学ぶことは生きる証~』
反お金の深い哲学を目指して、ドキュメンタリー映画を完成させた。
完成まで苦節4年の歳月。
これを観ていただけたらこれから、どう生きていけばいいのかヒントが得られるはずだ。
新渡戸とは、武士道を書いた新渡戸稲造のこと。
彼が札幌農学校教授時代に私費を投じて創設した遠友夜学校のお話だ。
授業ただ、勉強道具も支給、年齢不問、男女共学こんな学校を明治時代に創っていた。
あまり知られていない事実だ。
新渡戸が、どんな教育哲学を持って創ったのか?
何と現在もその美しい教育哲学を受け継いでいる人々がいた。
映画は、そんな現代の人々の今に焦点を当てた。
これが、なぜお金の話と結びつくのか?
映画を観ればわかっていただると思うが、最後に1つ。
この学校の校歌を紹介しておく。
沢なすこの世の楽しみの
楽しき極みは軟なるぞ
北斗を支ふる富を得て
黄金を数へんその時か
オー否 否 否
楽しき極みはなほあらん
これはつまり、人生にはお金以外の楽しみがあるということ。
新渡戸は、この学校で品性を高める人格教育に力を入れていた。
最後に、新渡戸の『武士道』を久々に読んだので、少し紹介しておきます。
新渡戸は、武士の教育の中で「教師が授けるものは金銭では計れない」と説いている。
そして、私が感動した一説は「教える者が、知性ではなく品格を、頭脳ではなく魂を、共に磨き発達させる素材として選んだ時、教師の仕事は神聖なる性質をおびる」。
先生不足の昨今だが、教師になりたい人たちにこの言葉を噛みしめて欲しい。そして、映画の副題「学ぶことは生きる証」、これも映画を観たら理解してもらえます。
とりとめのないエッセイでしたが、読んでいただきありがとうございました。
次回は岡崎由紀子さんにバトンタッチ!
ぜひ読んで、観てください!
『いま、拠って立つべき“日本の精神” 武士道』(PHP文庫)
1899年に英文で著し、世界的に大反響を巻き起こした名著。
幾つか出ている翻訳本か原著を野沢監督の映画と合わせて読むと新しいマネー観が生まれるかも!
野澤和之監督作品
『新渡戸の夢~学びことは生きる証~』
8月に先行上映会が行われます。
- 場所:
- シネマハウス大塚(東京都豊島区、JR大塚駅徒歩7分)
- 日時:
- ① 8月3日(土)② 8月10日(土)③ 8月17日(土)④ 8月24日(土)⑤ 8月31日(土)
- 10時45分~(開場10時15分)/13時30分~(開場13時)
- 各回上映後ゲストトークあり
予告動画はこちらから
<野澤和之さんの過去の作品>
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。