700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第184回も、沖縄を拠点に活躍する伊藤麻由子さん。

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模合という生きる知恵

伊藤麻由子さん
伊藤麻由子
放送作家、ルポライター、フォトグラファー

沖縄には「ゆいまーる」という言葉がある。
意味は「助け合い」。ゆいは漢字で「結い」と書き、他人との結びつきや共同を表し、まーるは「廻る」が由来。共同作業を必要とする農業から生まれた方言だといわれている。
この「ゆいまーる」の精神に基づいて島人(しまんちゅ)たちの間で根付いた金銭システムが、【模合(もあい)】だ。
沖縄の興味深いお金の仕組みといったらこれに尽きる。

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私も沖縄に移住して早々にこの【模合】に参加の洗礼を受けた。
飲み会があるよ~の誘いに、よくよく聞いてみると模合だったのだ。
うわさに聞いていた模合!! 二つ返事で参加してみた。

模合のルールの基本はこうだ。
模合のメンバーが10人いたとする。
すると、飲み代の他に、例えば10,000円を模合金とした場合、10名いるので100,000円が1回の模合で集まる。
すると、模合メンバーの中で、どうしても今、お金を要する状況にある人がいた場合、その人に100,000円が渡される。
そして、次に集まった時にも同じことが繰り返され、10回の模合で10人100,000円ずつ一回りするというわけだ。

沖縄の風景写真22年前に沖縄に移住して早々に、「模合に参加」の洗礼を受けたという伊藤さん。(写真提供:伊藤麻由子)

ルールも微妙にいろいろあって、先にもらった人から利子1,000円をつけることで、最後にもらう人には利子分9,000円がついてお得になったり、ただの積み立てにして、ある程度の額になったらみんなで憧れのディズニーランドに行く、なんていうのもある。

また、額もさまざまで、3,000円の模合金の模合もあれば、経営者同士だと100万円単位でやって事業資金にすることもあるとの話を聞いたこともある。
お友達同士の親睦模合から親族模合、企業模合、いずれもゆいまーる精神ゆえの、沖縄らしい一面である。

沖縄と模合

模合について少し調べてみると、その歴史は琉球王朝時代の尚敬王在位の1713~1751年頃、貧窮者救済のために農作物などを用いて行われたことが記述されており、その後、貨幣へと変わっていったようだ。

かつては、沖縄だけではなく日本各地に似たような仕組みはあったようだが、1915年に日本本土では取り締まりがあって消えた地域が多い中、沖縄は構造上取り締まりきれない部分があったそうで、それゆえ、その対象外となった。
しかし1917年、沖縄県は独自に「模合取締規則」を発令。
これで監視をすることによって模合がなくならずに今に至っているのだ。

さて、その初めての私の模合参加だが、行く時はかなりドキドキしていた。
「模合に参加させていただきありがとうございます~横浜から移住してきました。よろしくお願いします!」
なんてブリブリ挨拶したが、内容は至って普通の飲み会だった。
宴の最後に飲み代と模合代を集金され、次回の日取りを決めておしまい。
果たして誰が今回の模合金を持っていくのか、決め方は?と気になったが、どうやらすでに決まっていたようで、あっさりその人に「ハイ!」と渡されお開きとなった。
……私はいつ受け取るんだろうかという疑問を残して。

自分が模合のメンバーになって、初めて模合帳簿という存在が目に入った。
本屋さんにあったのだ。

模合帳簿模合を管理するための模合帳簿。参加する模合の数だけ帳簿を作る人も多い。(写真提供:伊藤麻由子)

FBにこんなの見つけた!と投稿すると、瞬く間に地元の人からのコメントが次々と入った。
「模合ごとに書いているから5冊もっているよ」
「昔からあるよ」
「私は6冊書いてます」
「これでうちなんちゅー(沖縄の人の意味)だね」
などなど。

ノートの中身は、単純に名前と日付と金額を記入するだけのものだったが、地域による文化や生活習慣は面白いなぁと思ったものだった。
そうそう、今では模合Payアプリなんて言うものも沖縄にはあって、スマホで管理をする人も増えているようだ。

久しぶりにどこかの模合に顔を出したくなってきた。

次回は北角文月さんへ、バトンタッチ!

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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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