宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回も前回に引き続き、高齢のご両親と同居する相談者が、認知症のリスクから親の財産を守る方法について考えていきます。

  • 親が認知症になった場合、子どもは親の財産に手を付けられない可能性がある
  • 認知症により本人がお金を管理できなくなる、相続で身内が争うなどのリスクが発生
  • 認知症に備えて、家族の判断で財産管理ができる「家族信託」の活用も検討する

財産管理における認知症の最悪のケースとは?

【質問】
僕の両親、二人とも83歳を超えています。両親とは同居していて、年相応の生活を送れているんじゃないかと思っています。ただ、厄介なことに、母に軽い物忘れなど増えてきているのです。身内にも認知症がいることもあって、先を考えると介護にならないか心配です。両親の老いを、同居しながらどう考えていけば良いのかわかりません。対策法などありますか?

今回も、前回に引き続き「老い」からの問題提起について考えていきます。

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家族の介護に備えて元気なうちにやっておきたいこと

その中でも、一番厄介と言える「親の財産の守り方」について考えていきたいと思います。
財産防衛といっても、親を詐欺などから守ることではなく、主に考えなければならないのは「自分たちの相続を見据えるうえでの財産の守り方」と考えてください。

人生100年時代の高齢者社会に突入した日本の現状として、高齢者の約5人に1人が認知症患者と言われています。軽度認知症(MCI)を含めると、さらに増加していることになるでしょう。

財産管理において、親が認知症になった場合に考えられる最悪なことは、「相続人である子どもが何もできない・できなくなる」。要は、承認不全となるために、子どもといえど勝手にお金などの出し入れができなくなり、下手したら目先の必要なお金を、身銭を切って支払っておく必要が出てきてしまいます。

例えば「家の修繕などをしたいが支払いができない」など、財産管理自体ができなくなります。勝手にやろうものなら、法的な問題に発展しかねません。私の知る限り、回りを見渡しても勝手にやっている方たちもいますが、厄介なことにならなければいいのだがといつも気になっています。それだけ認知症の患者が増えているのが現実です。

認知症に伴う財産管理の主なリスク

認知症の発症で発生する主なリスクは、高い順に以下のようになります。

① お金の管理ができなくなる

本人はできているつもりでも、収支が合わないなど、金銭管理能力の低下が起きてしまいます。

② 資産凍結によって、家族でもお金を扱えなくなる

親がどれだけお金の管理能力がない場合でも、家族であろうと、たとえ亡くなっていないとしても原則として親の財産には手を付けてはいけないことになっています。

③ 相続で身内の争いが起きる

親の財産管理を特定の家族がやることによって、管理のやり方などで身内同士で揉める原因となります。

④ 事故などで怪我をする可能性が高くなる

認知症の進行で交通規則への理解が欠如したり理解力も低下したり、さらには徘徊などにより交通事故リスクが高まります。また、交通事故では相手がいて加害者側になることも十分考えられ、法廷闘争にもなりかねません。

⑤ 生活習慣が崩れていく

高齢者にもなると必ずや持病を持ちます。認知症になると、持病で服薬している薬を飲んだか飲まなかったかを忘れてしまいます。飲み忘れで命をつなぐことが難しくなるという結果にもなりえます。また、3食の管理もできないために、栄養不足などにより新たな病気になるリスクにもなります。生活習慣自体の崩壊が始まります。

認知症イメージ
認知症にはさまざまなリスクがあり、家族にとってはお金の問題にも直結する

家族がやっておくべき「親の財産の守り方」

認知症のリスクはどなたにも避けることはできません。家族が認知症に備えて何をすべきかは前回述べさせていただきましたが、以上のような認知症リスクを確認したところで、今回は「親の財産の守り方」に関して、目の黒いうちに決めておきたい、家族としてやっておくべきことをまとめてみました。

認知症で特に厄介なのは、両親が存命中にどちらかが認知症を発症したケース。例えば夫の死後、妻が認知状態の時などです。妻のために夫が遺言書を作っておいたが、すでに妻が認知症になっていると、妻自身が自分の意思で遺産相続をすることは不可能だからです。

成年後見制度は一長一短がある

相談者の場合だと、次のようなケースがありえます。

父親が認知症になったために「成年後見制度」を利用して、家庭裁判所が選任した弁護士が「成年後見人」になり、父親の財産を管理中である。父親は妻(母親)のために遺言書を残していたため、とりあえず相続は無事行われたが、ここで問題が発生します。
父親が亡くなった時点で、母親も認知症であったことです。

母親も「成年後見制度」を利用。相談者は母親のために、実家の段差などが危ないことからリフォーム工事をすることにしましたが、「成年後見人」の見解で、母親の預貯金からお金を簡単に引き出せなくなりました。

そもそも成年後見人の仕事は、判断能力が低下した人を法的に保護するのが目的です。具体的には、財産管理(本人の代わりに行政手続きや預貯金の入出金ができる)と、身上監護(生活、介護、医療などの支援)など、あくまでも本人の財産を外部の人間から守る役割です。それは相手が家族であっても同じで、認知症になった母親の財産は子どもの自由になりません。原則、何をするにも家庭裁判所の許可(定期的な報告)が必要となります。

だからと言って、成年後見人が家族以外の士業から選任されている場合は、家族の思い通りにならないからという理由で、簡単に成年後見人を解任もできません。特別の事情(家族の仲が極端に悪く、お金の動きがわからないなど)があるケースを別とすれば、費用(報酬)もかかることから「成年後見制度」は一長一短であると言えます。

家族信託は費用はかかるが、財産の売却や運用が自由

一方で、成年後見制度と違って、家庭裁判所や専門家の介入なく家族だけで財産管理ができる制度が「家族信託」です。

簡単に言うと、信頼する家族(受託者)に、元気なうちに自分(委託者)の財産管理・運用を託す仕組みです。相談者の例で言うと、父親が子どもに対し、自分の認知症などに備えて財産の管理や運用を託し、その利益は自分が受益者として受け取る家族信託契約をすることになります。自分が亡くなったら受益権を妻(母親)に移行するような内容を盛り込めば、妻が認知症になっていても問題はクリアできます。

契約時に受益権の移行についても決めていれば、受託者は自由に財産の売却や運用も可能で相続対策もできます。受託者も認知症になると対策などができなくなりますが、二次相続以降まで決められるので、上記のケースのように夫婦ともに認知症になる場合にも、孫の代への承継にも備えることができ、当然贈与にもあたりません。これは大きなメリットだと思います。
費用がかかりますが、各金融機関で専門家を配置してサービスを行っているので、相談するのも良いでしょう。

認知症患者の財産を守る方法の優先順位

認知症患者の財産を守る手段として優先順位を付けるとすれば、

①生前贈与(認知症患者は不可)
②遺言(認知症患者は不可)
③家族信託(認知症患は不可)
④成年後見制度(認知症患者でも可)

となるかもしれません。

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