鈴木一之さんは、実務経験を生かした現実的な分析と分かりやすい解説に定評があり、テレビ、ラジオ、マネー誌にひっぱりだこの株式アナリストです。「世の中のあらゆる物事が株式投資に集約される」「最初の一歩を踏み出せば、広大な世界の広がりにドキドキ、わくわくすること間違いなし」と話す鈴木さんに、株式投資の奥深い世界を語っていただきます。

  • 感染拡大の長期化が恐ろしいが、新型コロナウイルスはいつか必ず終息する
  • 危機的状況に直面してこそ、世の中に必要とされる物資や技術が浮かび上がる
  • 有事に必要となるモノを供給できる企業には、あらためて目を凝らしてゆきたい

日経平均株価は2か月で-32%の下落

鈴木一之です。今月からMonJaに拙文を発表させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

2月以降、激しい株価の下落が世界中の株式市場を襲っています。日本でも代表的な株価指数のひとつ、日経平均株価が1月半ばに今年の高値(24,115円)をつけたあと、わずか2か月後の3月中旬には16,358円まで下落しました。この間の下落率は-32%に達します。

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ごく短期間の下落率としては、2008年9月のリーマン・ショックに迫る勢いです。しかもまだ株価が底値に届いたとは明確には断言できません。株式市場には警戒心が強く漂っています。

「百年に一度の経済・金融危機」と言われたリーマン危機は、海外では「グレート・ファイナンシャル・クライシス」と呼ばれます。金融市場全体が根底から揺さぶられるような衝撃を全世界が同時に受けました。文字通りの危機的な状況だったと言えるでしょう。

今回は金融市場の危機ではなく、新型コロナウイルスの拡散によって私たちの普段の暮らし、公衆衛生に危機が広がっています。それとともにウイルスの世界的な拡大が人々の行動を縛り、経済活動そのものを根底から揺さぶっています。

ウイルス対策と経済対策は相反する

新型コロナウイルスは当初、中国・湖北省など一部の国・地域に限定された問題と見られていました。それが2月に入ったあたりから徐々に世界中に拡散するようになり、とりわけイタリア、イラン、韓国が深刻な状況に陥りました。(なぜこれらの地域から感染の拡大が強まったのか現時点では不明ですが、一説には宗教心に篤い国民性が集団感染をもたらしたとの指摘があります)

3月になると感染地域は欧州、中東、アジアからさらに広がり、北米大陸でも急速に拡がりを見せています。人の体内には免疫がなく治療薬や予防用のワクチンも存在しないために、対処法としては人との接触を断ち他人との距離を保つ、大勢で集まらない、外出の機会を避けうがいと手洗いを励行する、などしかないのが現状です。

時間が経過することによってウイルスの感染ペースは衰える、との見方も早くからあります。そのために各国政府は国境を閉ざし、国民に自宅からの外出制限を課し、封じ込め作戦を展開しています。しかしそうなると今度は、感染対策が長引くことで国民の経済が維持できないという懸念が強まっています。ウイルス対策と経済対策は相反する関係にあります。

決定力のある救済策が待たれる

すでに航空会社や船舶の定期船は国際線および国内線の大幅な減便、運行の停止を余儀なくされています。学校やテーマパークは閉ざされ、結婚式やスポーツ大会、大規模なイベントも続々と中止されています。人が訪れることで成り立っているすべての産業、主に商業ですが、デパート、ショッピングモール、レストラン、バーなどのあらゆる飲食店、ホテル・旅館、お土産物店、テーマパーク、映画館、劇場などの観光・エンターテインメント業界などは、売上げのメドがまったく立たない状態です。

これらの産業ははたから見ていても気の毒なほど、厳しい収益環境に置かれています。売上げが立たず、先行きの経営が困難になる企業も出始めています。

ウイルスの感染が終息する時期がいつになるか、誰にもわかりません。すでに一部の企業では新入社員の就職の内定が取り消されたり、来年度の採用計画に影響が出始めたりしている模様です。

このような国民的難題を打開するには国策の発動しかありません。賃金の未払いやリストラなど経済全体に深刻な影響が広がる前に、早急に行政、政府サイドで経済対策を打つ必要があります。ただしこれも、すでに商品券の配布や納税猶予、緊急融資の拡張などさまざまなアイディアは出ていますが、どれも決定力のある救済策とは言えない状況です。

何よりも恐ろしいのは、このような状況が長期化することです。すでに東京オリンピック・パラリンピックは苦渋の末に1年程度の延期が決定されました。しかし実際のところ、1年後の東京および世界が置かれている状況も、明確には展望できない状態にあります。

有事に必要となるモノを供給できる企業に目を凝らす

人類が共通に置かれている危機的状況に際して、先進国・発展途上国を問わず手を携えてこの難局に当たることが求められています。株価に落とし込んで考えることはかなりむずかしいのですが、しかしウイルスはいつか必ず終息します。そしてこのような危機的状況に直面してこそ、いまの世の中に必要とされる物資や技術も浮かび上がってきます。

人類共通の有事に必要となるモノを供給できる企業には、世情が落ち着いた時にこそあらためて目を凝らしてゆきたいと考えております。非常用食料にもなるパスタの日清製粉グループ本社(2002)、人工心肺のニプロ(8086)、入院病棟のベッド脇に置かれる生体情報モニターの日本光電(6849)、非常用発電機のデンヨー(6517)、物流のアスクル(2678)に注目しています。

【図表1】デンヨー(6517)/TOPIX(週足、2017年6月~)
デンヨーとTOPIXのチャート

【図表2】アスクル(2678)/TOPIX(週足、2017年6月~)
アスクルとTOPIXのチャート東証一部に上場している全ての国内企業の株式を算出対象とする「東証株価指数(TOPIX)」と比べ、デンヨーとアスクルの株価は良好に推移している

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