「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、新NISAが2年目を迎えるにあたり、昨年大ヒットした投資信託「オルカン」と「S&P500スリム」について見ていきます。
- 純資産が1年で2.6倍に増えた「オルカン」の投資先は米国に大きく偏る
- 米国のみに投資する「S&P500スリム」の基準価額の伸びはオルカンを上回った
- 仮に米国株が低迷した場合、他国の株式でリカバリーできるか?
2025年が始まり、3週間が過ぎました。新NISAも2年目に入りましたね。昨年、新NISAスタートと相前後して注目が集まったのが「オルカン」(三菱UFJアセットマネジメントが提供するインデックスファンド『eMAXIS Slim 全世界株式』)でした。昨年、オルカンは純資産残高を順調に増やしていました。
オルカンは新NISAの「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の、両方の対象になっています。純資産残高を順調に増やしたというのは、『「投資は長期で」というスタンスを理解した投資家』による投資が行われていたことを示しているでしょう。
オルカンを振り返ってみると
さて、筆者はオルカンを推奨するつもりはありませんし、筆者自身、オルカンに一度も投資をしたことがありません。そういう意味では、筆者は「中立」な立場です(笑)。
オルカンは、昨年1年間で基準価額は32%UP、純資産残高は2.6倍に膨れ上がりました。純資産残高が増減する理由は「運用の成果」と「投資資金の流出入」です。
オルカンはオールカントリーの名の通り、先進国には日本を含む24カ国に、新興国には23か国に、それぞれ投資しています。いわば、徹底した世界分散投資だと言えます。とはいえ、投資先の65.9%がアメリカで、4.7%が日本です。およそ7割強の投資先が日本とアメリカです。
また、先進国と新興国の割合は9対1です。投資先の「国の数」だけで見れば、「徹底した世界分散」という表現は妥当かもしれませんが、実際の内訳を見ると……「徹底した世界分散」というのは微妙ですね。
「アメリカ一強」を掲げる大統領の登場でどうなる?
繰り返しになりますが、筆者はオルカンを推奨しているつもりはありません。現在、オルカンの投資をなさっている人は、利益を確定するのか、投資を続けるのかは、ご自身で判断してください。
さて、新NISAの2年目、「今年の枠」をどのように活かそうか、検討されていらっしゃる方もいるでしょう。話題と人気のオルカンを選択肢に加えるか否か、……いかがしましょうか? オルカン、すなわちオールカントリーですので、海外にも視野を広げてみましょう。
最大の懸案(?)は、何と言っても1月20日に就任、もとい大統領に返り咲いたトランプ氏です。アメリカファーストを掲げています。
もともと、投資の世界では大統領がトランプ氏であるか否かに関わらず、「アメリカ一強」の傾向はありました。以下の表は、オルカンの昨年1年間のパフォーマンスですが、並べているのが、オルカンと同じ運用会社の投資信託「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」(S&P500スリム)です。オルカンが先述の通り、アメリカを中心とした47カ国に投資しているのに対し、S&P500スリムの投資先は「アメリカだけ」です。
オルカン | S&P500スリム | |||
---|---|---|---|---|
基準価額 (円) |
純資産残高 (百万円) |
基準価額 (円) |
純資産残高 (百万円) |
|
2024/1/9 | 21,111 | 1,974,071 | 24,552 | 3,104,018 |
2024/12/27 | 27,876 | 5,134,498 | 34,561 | 6,554,869 |
変動率 | +32% | 2.60倍 | +40% | 2.11倍 |
ではS&P500スリムは、いかがでしょうか? 比較のため、オルカンと期間は同じとしています。基準価額はオルカンの+32%を上回る+40%、純資産残高はオルカンほどではありませんが、1年間で約2.1倍に膨れ上がりました。なお、純資産残高の額はオルカンを凌ぐ6,554,869百万円です。アメリカ一強を掲げる大統領の返り咲き前から、投資の世界では「アメリカ一強」なのです。
ちなみに、筆者はS&Pスリム500にも投資したことはありませんし、検討すらしておりません。ですので、こちらでも「中立」です。
オルカンはS&P500に負けた……ナゼ?
さて、パフォーマンスのうち、基準価額の伸びだけを見ると、オルカンはS&P500に負けています。ナゼでしょうか? 考えられるのは、欧州と新興国ではないでしょうか?
ロシアのウクライナ侵攻の影響により、欧州は景気が良くなかったようです。また新興国の通貨は、対ドルで安かった、つまりドル高・新興国通貨安だったようです。ですので、オルカンは欧州と新興国の影響によって、S&P500に負けたと推察しております。……あくまでも、筆者の個人的な見解です。
アメリカ一強か?
さて、トランプ氏が返り咲いた後、投資の世界において「アメリカ一強」は続くのでしょうか?
まず、アメリカは今後もインフレが続くと見る専門家も多いようです。ですので、ドル高円安の傾向は、今後も続くでしょう。では、肝心のアメリカの株価はというと……。これは何とも申せません。
ただ、こういう見方もできると思います。アメリカの株価が大きく下落し、その後も低迷が続いたとしましょう。アメリカの株式に代わり得る、他の国の株式があるのか否かです。つまり、オルカンで言えば、オルカンの投資先のうち、65.9%を占めるアメリカの株価の運用が思わしくない場合、日本の株式を含む、他の国の株式がリカバリーできるか、という点です。
この点の判断が、「オルカンに投資する」か否かの判断の材料になるかもしれません。もし、「アメリカの株式に勝るものはなく、他の国の株式ではリカバリーできない」という判断ですと、S&P500スリムが選択肢になるかもしれません。では、万が一、リーマン・ショックの再来のようなことが起きたら、どうしましょうか? その時は追加投資をすれば良いのです……こういう場合、NISAであると否とに関わらずです。まさに千載一遇のチャンスなのですから。
投資の世界はアメリカ“一響”
投資の世界では、「アメリカ一強」であり、また「アメリカ一響」なのかもしれません。つまり、アメリカ一国の株式が、世界の株式に与える影響が大きいという意味です。
では、世界分散投資とはいったい、何なのでしょうか?
繰り返しますが、筆者はオルカンにも、S&P500スリムにも、どちらにも投資をしておりません。アメリカ以外の国に分散投資をする意味を、機会を改めて、考えてみたいと思います。