「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、新NISAが始まってますます個人投資家の人気を集めている、「オルカン」と呼ばれる投資信託について掘り下げていきます。

  • オルカンは信託報酬の低さが強み。純資産が増えると信託報酬の年率が低くなる
  • 「eMAXIS」ブランドはNISA以前から手数料の低さにこだわってきた
  • 毎月分配型の投資信託が人気だった頃から分配金ゼロを打ち出す

2024年の1月から、いわゆる新NISAがスタートしました。また同じく3月19日に、日本銀行はマイナス金利の解除を宣言しました。新NISAのスタートは、確か一昨年に決まっていたことですし、マイナス金利の解除も「今や遅し」という印象です。

これらを背景に昨年の終盤から話題を集めていたのが、いわゆる「オルカン」です。オルカンとは、三菱UFJアセットマネジメントが提供するインデックスファンド『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』のことです。

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オルカンの強みは信託報酬率の低さ

本稿では「オルカン」の人気の理由について、推測してみようと思います。

図表1は、金融庁が公表している2024年2月29日時点の「つみたて投資枠対象商品届出一覧(対象資産別)」の中から、単一指数(株式型)で「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」をベンチマーク(運用の目標)とするファンドの名称と、信託報酬の年率(消費税込み。以下同じ)です。ただし、オルカンと同じ運用会社の商品は除いてあります。

オルカンについては、「ファンドの純資産総額が2兆1千億円の実質信託報酬率」を載せました。他のファンドの信託報酬については、最新の交付目論見書を筆者が目視しました。なお、目論見書の記載に関わらず、桁数は揃えています。

【図表1】「MSCI ACWI」をベンチマーク(運用の目標)とする主な投資信託と信託報酬の年率
ファンド名称 信託報酬の年率
(消費税込み)
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) 0.05761%
マネーフォワード全世界株式ファンド
〈旧名称:グローバル株式インデックスポートフォリオ(M)〉
0.21120%
たわらノーロード 全世界株式 0.11330%
全世界株式インデックス・ファンド 0.52800%
Tracers MSCI オール・カントリー・インデックス(全世界株式) 0.05775%
野村つみたて外国株投信 0.20900%
はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー) 0.05775%
三井住友・DCつみたてNISA・全海外株インデックスファンド 0.27500%
楽天・オールカントリー株式インデックス・ファンド 0.05610%
Smart-i Select 全世界株式インデックス 0.11440%
Smart-i Select 全世界株式インデックス(除く日本) 0.11440%

図表1から、まず「オルカン」の強さの理由の1つに信託報酬の年率の低さが挙げられると思います。

ただ低いだけではない信託報酬

オルカンの特徴は、ただ信託報酬の年率が低いだけではありません。図表2をご覧ください。純資産残高が増えれば、信託報酬の年率が低くなる仕組みが整えられています。

【図表2】オルカンの信託報酬の年率
ファンドの純資産総額 信託報酬の年率
(消費税込み)
5000億円未満の部分 0.05775%
5000億円以上1兆円未満の部分 0.05764%
1兆円以上の部分 0.05753%
〈具体的な純資産総額と信託報酬の例〉
ファンドの純資産総額 信託報酬の年率
(消費税込み)
1兆1000億円 0.05768%
1兆6000億円 0.05764%
2兆1000億円 0.05761%

話は変わりますが、所得税は所得の額が増えれば、増えた部分の税率が上がる「超過累進税率」です。オルカンは純資産総額が増えれば、増えた部分の信託報酬の年率が下がりますので、差し詰め「超過逆進」というところでしょうか。

なお、オルカンの純資産総額は2023年4月6日現在、2兆9590億円です。ですので、現在の信託報酬の年率はより低くなっている可能性があります。

純資産総額が増える理由は?

投資信託の純資産総額が増える理由は2つ考えられます。1つは運用の成果です。ファンドに組み込まれている株式の株価が上がれば、純資産総額が増えます。もう1つはファンドへの投資額、つまり資金流入額です。オルカンの場合、現在、これら2つとも増えていると考えてよいでしょう。

以下、筆者の憶測ですが。オルカンは純資産総額が増えれば増えるほどに信託報酬の年率が下がる仕組みが整えられている旨が、それこそSNSなどで広まり、資金流入が続き、話題を呼ぶようになったのではないかと踏んでいます。

「MSCI ACWI」をベンチマークにしたファンドとは?

さて、そもそもオルカンは既述の通り、単一指数(株式型)で「MSCI ACWI」をベンチマーク(運用の目標)とするファンドの1つです。オルカンに限らず、図表1に挙げたファンド11本が、みな同じです。(なお、同じベンチマークで、オルカンと同じ運用会社のファンドが他に3本ありますので、「つみたて投資枠」の対象になっているファンドは14本あります)

ファンドですから、1本だけで分散投資が可能なのは言うまでもありません。そして、図表1に挙げたファンドは、いずれも「オールカントリー」や「全世界」などのネーミングのとおり、世界中の株式に投資できます。また、どれもインデックスファンドですので、ベンチマークになっている「MSCI ACWI」という指数の動きに連動した(今ふうに言えばリンクした)成果を目指すのも、同じです。

では、図表1に挙げたファンドの中で、オルカンに人気と話題が集中する理由は、「信託報酬の低さ」と「純資産総額が増えれば信託報酬の年率が下がる」という2点だけなのでしょうか?

イーマクシスというブランドについて

さて、オルカンは既述の通り、三菱UFJアセットマネジメントが提供する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」というファンドで、eMAXIS(イーマクシス)というブランドの1つでもあります。イーマクシスというブランドは「低コストへのこだわり」と「分配金実績ゼロ」が特徴だといえます。

信託報酬の低さとノーロード

イーマクシスというブランドでは、TOPIXをベンチマークとするファンドが2009年10月28日に初めて設定されました。NISAが始まったのは2014年1月のことです。ちなみにオルカンは2018年10月31日の設定です。イーマクシスはNISAという言葉すらなかった時代に、そして、まだ金融庁が「低コスト」を叫ぶ前から、「低コスト」にこだわるブランドとしてスタートしました。

「ノーロードファンド」(=購入時手数料がゼロのファンド)がまだまだ珍しかった時代に、イーマクシスブランドのファンドは、どこの金融機関・証券会社で投資をしても全てノーロードでした。またファンド保有中にかかるコストである信託報酬の年率の低さにも、イーマクシスは「とことんこだわる」ブランドでした。
ある意味「低コスト」ファンドの先駈けと言えるでしょうし、繰り返しになりますが金融庁も「低コスト」と激昂していない時代ですから。販売会社のことを慮ると、ブランド誕生時はかなり挑戦的だったと言えます。

これは筆者の個人的な憶測ですが、金融庁が「低コスト」を叫ぶようになったきっかけは「イーマクシスが作ったのでは?」と思っています……あくまでも筆者の憶測です。

毎月分配型が人気の時代に「分配金ゼロ」

イーマクシスブランドのこだわりが強みになっている点は、もう1つあります。「分配金実績ゼロ」という点です。既述の通り、2009年の秋にイーマクシスのTOPIXファンドが開発されていますが、当時は毎月分配型が流行していた時代ですし、毎月分配型で一世を風靡した、あのグロソブ(グローバル・ソブリン・オープン)が純資産総額5兆円を超えていました。

今でこそ「分配金実績ゼロ」のファンドが増えていますし、珍しくありません。とはいえ、当時の、特にファンドの販売現場を思うと「分配金ゼロ」のファンドは、挑戦的どころか革命的とも評価できるのではないでしょうか?

毎月分配型のファンドは、後に金融庁が「良からぬファンド」と評するようになり、2024年以後のNISAでは、「つみたて投資枠」はもちろん、「成長投資枠」の対象からも外れています。2018年に始まった「つみたてNISA(現:NISAのつみたて投資枠)」では、対象となった商品は「分配金ゼロ」というファンドでした。

ファンドの「分配金」について、「毎月分配型」ファンドから「分配金実績ゼロ」ファンドが主流の時代へ、ある意味、転換点を作ったのがイーマクシスブランドだと、筆者は思っています。

そうした実績に裏打ちされてオルカンが人気を集めているのでしょう。ある証券会社では、NISAのつみたて投資枠の2024年2月の人気ランキング上位10位までに、オルカンを含むイーマクシスブランドのファンドが5本、入っています。

さて、最後に。筆者はオルカンを推奨しているつもりはありません。筆者なりにオルカンの人気の理由を推測してみました。その点をご留意ください。

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