じゃあ、iDeCoを利用していた人が亡くなった場合には?

(以下、iDeCo利用者が亡くなってから、3年以内に、iDeCo死亡一時金の受け取りを済ませることが前提です)

では、iDeCo利用者が亡くなった場合、iDeCoにある投資信託などは、どのようになるのでしょうか?

まず、投資信託などによる運用を続けることはできません。つまりNISAとは異なり、「長期投資の意志」を相続することはできません。iDeCoにある投資信託などの財産は、利用者が亡くなってから3か月以内に、事実上、強制的に現金化されます。そして、その現金を「死亡一時金」として、遺族が受け取ることになります。

iDeCoの死亡一時金を受け取るのは誰?

iDeCoの死亡一時金は、iDeCo利用者が生前に運営管理機関(iDeCo利用者の窓口になっている銀行・証券会社・生損保会社など)に宛て、「死亡一時金の受取人」を指定しておくことができます。「死亡一時金の受取人」を指定しておけば、受取人は遺産分割協議を経ることなく、死亡一時金を受け取ることができます。

これは生命保険の契約と同じイメージです。生命保険の契約も、死亡保険金受取人を申し込みの時に、記入(もしくは入力)します。そして死亡保険金の受取人は、遺産分割協議を経ることなく、受け取ることができます。

しかし、生命保険と異なるのは、iDeCoの場合、死亡一時金の受取人を指定しなくても申し込みができます。ですので、iDeCoでは、死亡一時金の受取人を指定していない場合が多いと思われます。
そういう場合、iDeCoの死亡一時金の受取人の順番は以下のとおりです。

【図表1】iDeCo死亡一時金の受け取りの順番
1位 配偶者
2位 子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していたもの
3位 前号に掲げる者のほか、死亡した者の死亡の当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
4位 子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹であって上記2に該当しないもの

iDeCoの死亡一時金の受取人の指定がないiDeCo利用者が亡くなった場合、上表の、最先順位者が受け取ることになります。もし配偶者が存命であれば、その全額を配偶者だけが受け取ります……ここでも、やはり遺産分割協議は不要です。

なお、配偶者がいなければ、2位にいる人たちが、iDeCoの死亡一時金を受け取ることになります。例えば、子が複数いれば、子の人数で按分して受け取ることになります。

iDeCoの死亡一時金……相続税は?

実は、ここがNISAとは決定的に異なるところです。まず、iDeCoの死亡一時金は現金として相続税の課税対象になりますが……iDeCoの死亡一時金の額のうち、(会社から受け取る死亡退職金がない場合。以下同じ)「500万円×相続人の数」までは、相続税の計算の対象にならないのです。

例えば、iDeCo利用者に、相続人が3人(配偶者と子ども2人)いたとしましょう。iDeCoの死亡一時金は1500万円まで、相続税の計算に含まれないことになります。

ところで、先ほど、iDeCoの死亡一時金の受取人の指定がない場合、配偶者が存命なら、その全額を配偶者だけが受け取ると述べました。つまり、子どもはiDeCoの死亡一時金を受け取らないのですが、「500万円×相続人の数」に子どもを入れても良いのでしょうか?
ここでは、iDeCoの死亡一時金の受取人の有無は関係ありませんし、仮に相続を放棄をしたとしても、放棄も関係なく、計算に含めるのです。あくまでも、相続税の計算上の話だからです。

ちなみに、「500万円×相続人の数」までは、相続税の計算の対象にならないのは、生命保険の死亡保険金と同じです。しかし、計算式は同じだとしても、生命保険のほうは「死亡一時金の非課税額」として計算します。そして、iDeCoの方は、「死亡退職金の非課税額」として計算します。「死亡一時金の非課税額」と「死亡退職金の非課税額」は、計算式は同じでも別枠です。

先ほど、会社から受け取る死亡退職金がない場合のiDeCoの死亡一時金は「500万円×相続人の数」で、相続税の計算に含まれないと書きました。もし、会社からの死亡退職金があれば、iDeCoの死亡一時金と合算して、「500万円×相続人の数」までは、相続税の計算の対象にならない、ということなのです。
つまり、遺族が配偶者と子ども2人なら、死亡退職金で1500万円まで相続税非課税、死亡保険金で1500万円まで相続税非課税と、それぞれ別枠で非課税額があるのです。合わせて3000万円までが、相続税非課税ということになりますね。

まとめに代えて

本稿で述べたことを、以下にまとめてみました。参考までに、生命保険についても載せておきました。

【図表2】NISA、iDeCo、生命保険の比較
NISA iDeCo死亡一時金
(ただし、死亡後3年以内)
生命保険
(死亡保険金)
投資の
継続の有無
株式や投資信託のまま
相続でき、「長期投資」
の意志も相続。
現金で受け取るため、
投資の継続は不可。
現金で受け取り、
契約は終了。
相続税の
非課税
相続した全てが相続税の
計算の対象になる。
非課税の投資も
継続できない。
「500万円×相続人の数」
までは非課税。
(死亡退職金の非課税)
「500万円×相続人の数」
までは非課税。
(死亡一時金の非課税)
誰が
受け取る
遺言で決めておくか、
遺産分割協議。
運営管理機関に指定しておく。
もしくは定められた中で
最先順位者が受け取る。
(遺産分割協議は不要)
受取人は申込みの時に
指定しておく。
(遺産分割協議は不要)

「相続のためにNISAをやっているわけではない」とご指摘を受けそうです。そして、iDeCoの目的は「自助努力による老後資金準備」のための制度ですので、iDeCoも、やはり相続が目的ではありません。また、生命保険はその名前のとおり、相続のための商品です。

そこで、上表をご覧ください。iDeCoの死亡一時金と生命保険の死亡保険金、どことなく似ていませんか? しかも、死亡退職金の非課税の計算式と、死亡保険金の非課税の計算式は、それぞれ同じですが、別枠なのです。

相続で、NISAが有利なのは「長期投資の意志」を相続できる、という点だけでしょう。しかし、非課税の投資を相続できず、相続した人の課税口座で投資をするしかないのであれば、「いったい、何のためのNISAによる投資」だったのか、ということになりかねません。

冒頭に述べました「50歳を過ぎたら終活を」というフレーズですが。「100年人生」とまで言われる時代に、「50歳を過ぎたら終活」というのも、早すぎるような気がしないでもないです。しかし、NISA口座にある株式や投資信託を、非課税で売却して、その現金をご自身で利用しないのでしたら……そのまとまった現金を、一時払いの生命保険の保険料などに充てることを検討した方が良いかもしれません。
最近では、健康告知なしで契約できる生命保険もあります。ですが、その後に、そのまとまった現金が必要という展開になることもあるでしょう。

「50歳を過ぎたら終活を」というフレーズは、詰まるところ、「NISAの出口戦略を考えましょう」という意味なのです。冒頭で述べた問いに対する答えです。