7月26日にIMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し(改訂版)」を発表しました。4月に発表した「世界経済見通し」よりも世界のGDP成長率予測が引き下げられています。また、ベースライン予測(以下:メインシナリオ)で挙げているリスクの不確実性が高いため、リスクが顕在化した場合の代替シナリオの説明にかなりの紙数を割いています。IMFが発表した「世界経済見通し」を参考に世界経済のリスクを再確認していきましょう。

  • 世界全体と先進国・地域は、2022年よりも2023年の方が成長鈍化の予測
  • ITバブル崩壊やリーマンショックと異なり、現在は複合的要因で世界経済下押し
  • 中国のゼロコロナ政策やウクライナ戦争などの政治判断が今後の大きなリスク要因

世界のGDP成長率は2023年にさらに鈍化へ

世界経済見通し(改訂版)」(以下:同レポート)の世界のGDP成長率を参考に主要な国や地域を抜粋したものが下表になります。

【図表】世界のGDP成長率 増減単位:%
  2020年 2021年 2022年
(予測)
2023年
(予測)
世界 -3.1 6.1 3.2 2.9
先進国・地域 -4.5 5.2 2.5 1.4
アメリカ -3.4 5.7 2.3 1.0
ユーロ圏 -6.3 5.4 2.6 1.2
日本 -4.5 1.7 1.7 1.7
新興市場国と発展途上国 -2.0 6.8 3.6 3.9
中国 2.2 8.1 3.3 4.6
インド -6.6 8.7 7.4 6.1
ロシア -2.7 4.7 -6.0 -3.5

出典:IMF「世界経済見通し(改訂版)」2022年7月

GDP成長率予測は、世界全体で3.2%(2022年)、2.9%(2023年)。先進国・地域が2.5%(2022年)、1.4%(2023年)。新興国市場と発展途上国が3.6%(2022年)、3.9%(2023年)となり、世界全体と先進国・地域については、2022年よりも2023年の方が成長率が鈍化するという予測をしています。

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4月の予測と見比べると、世界全体で2022年が0.4%、2023年が0.7%それぞれ引き下げられました。先進国・地域は同0.8%、1.0%の引き下げ、新興市場国と発展途上国が同0.2%、0.5%引き下げになりました。先進国・地域の引き下げ幅が新興国市場と発展途上国に比べて大きくなっています

また、リスクが現実化した場合の代替シナリオでは、世界全体の成長率が2022年2.6%、2023年2.0%に低下すると予測しています。この成長率は、1970年以降の実績の下位10%に入る成長率になるそうです。

世界経済の成長を押し下げる要因は?

同レポートでは、世界経済の成長率の押し下げ要因を国や地域ごとに分けて説明しています。

1.米国 年初来の成長鈍化・インフレによる家計購買力の低下・金融政策の引き締め

金融引き締めは、記録的なインフレの状況を抑える目的で行われていますが、急激に利上げを行ってしまうと米国の景気を悪化させてしまいます。既にローン金利の上昇により住宅投資に悪い影響が出てきています。

2.中国 新型コロナの感染拡大に伴うロックダウン・不動産危機

ロックダウンは世界のサプライチェーンに影響を与え、供給制約によるインフレの要因になります。不動産危機は、住宅等の不動産販売や不動産投資の足を引っ張り、中国の景気減速の要因となます。それが世界経済に悪い影響を及ぼしています。

3.欧州 ウクライナにおける戦争に伴う負の経済効果

負の経済効果として、ロシアから欧州への天然ガスの供給削減があります。それによる、エネルギー価格の上昇や供給不足により欧州の企業活動などに悪い影響を与えています。

また、代替シナリオで懸念しているリスクとして、ウクライナにおける戦争の影響によるロシアから欧州に向けたガスの供給が突然ストップするリスクや中国での新型コロナウィルスの感染拡大によるさらなるロックダウン、不動産部門の一層の悪化リスクなどを挙げています。

政治的な判断が今後の世界経済の大きなリスク要因に

IT関連企業の株価の急上昇と急落によって起こった2001年のITバブルと崩壊や、住宅価格の右肩上がりの神話が崩れ住宅価格が下落に転じたことで起こった2008年のリーマンショック(サブプライムローン問題)は、IT関連企業の株価、米国の住宅価格といった一部の価格の上昇神話が崩壊したことが主な要因でした。

今回は、中国の新型コロナの感染拡大を抑えるためのロックダウンによる供給制約、米国など先進国の経済再開による需要増加のアンバランスによる急激なインフレ、ウクライナにおける戦争など、複合的な要因によって世界経済の下押しされています。

この中で、中国のゼロコロナ政策やウクライナのおける戦争といった政治的な判断が今後の世界経済の大きなリスク要因となる点が今回の大きな特徴かと考えます。

最後、同レポートの本文では日本に対する記述が一切なかったことが印象的でした。

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