不動産は、個人投資家にとってREIT(不動産投資信託)やマンション投資などを通じて収益を狙える投資対象でもありますが、実生活においても遺産相続などで多くの人にとって将来的に自分事となる存在です。そんな不動産の中には、住んでいた人が孤独死するなどの事故が発生した「事故物件」と呼ばれる物件もあります。マークスライフ株式会社は、事故物件を取り扱う「成仏不動産」というサービスで注目を浴びましたが、同社ではこのほかにもさまざまな社会課題解決型サービスを打ち出しています。同社の創業者であり代表取締役の花原浩二さんにお話を伺いました。
マークスライフ 代表取締役
花原 浩二さん
1977年兵庫県生まれ。18歳の時に阪神・淡路大震災を経験し「地震に耐えうる家が必要だ」という思いが芽生え、流通科学大学情報学部を卒業後、新卒で大和ハウス工業へ入社。同社では社会課題の解決に向けたプロジェクトに多数取り組み、2011年には同社横浜支社分譲住宅営業所所長に就任。2016年10月独立し、マークスライフ(旧NIKKEI MARKS)を創業。課題解決型ビジネスを展開している。
「人の死の告知」ガイドラインの制定で事故物件の需要が増加
「成仏不動産」という名前はとてもインパクトがあり、興味を引きます。どのようなサービスなのか、詳細をお聞かせください。
花原さん 成仏不動産は、不動産というカテゴリーの中で一般的には避けられる存在である事故物件、つまり人が亡くなった不動産を、事故物件に住むことに抵抗がない人、もしくは事故物件でも有効な使い方ができる人に向けて販売し、事故物件取引の正常化を目的としたサービスです。
サービス開始以来、様々なメディアで取り上げられてきた中で何か反響はありましたか。
花原さん 2019年の4月から当サービスを開始し、間もなく6年目になりますが、年間1000件ほどの物件を扱う中で、最近は事故物件に対する認知の広がりをますます感じています。
それだけでなく、多くのメディアを通して我々のサービスが事故物件と呼ばれるような不動産を安く買い叩いて高く売るサービスではなく、少しでも正常な価格で取引することを目的としているサービスであることが世の中に伝わってきました。そして不動産を売りたいとお考えの方から日々多くのご相談をいただけるようになったり、弊社と提携している企業様から「成仏不動産のサービスを自社でも提供したい」といったお声がけをいただいたりといった機会も増えています。
また、その不動産に対し「事故物件でも全く気にならない」と住居目的で購入される方も増加傾向で、中でもここ最近は投資家の方からの問い合わせが非常に多いです。

成仏不動産 サービスサイト
なぜそうした投資家の方からの需要が増えているのでしょうか。
花原さん 最も大きなきっかけは、2021年10月に国交省により策定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」でしょう。これにより、人の死があった居住用不動産の取引において、不動産取引業者がその情報を買主・借主に伝えるべきかどうかと、その告知期間が明確化されました。例えば借主から聞かれた場合や、社会的影響が特に大きい事件、発見が遅れて特殊清掃が必要となった物件などに関しては、経過年数にかかわらず告知義務があります。
一方で、発見が早いような自然死・孤独死や日常生活での不慮の事故死などは告知義務がありません。中でも重要なのが、告知義務の期間が3年間になったことです。これにより、例えば不動産取引業者から購入する時は事故物件、売却・貸出する時は普通の物件として売ったり貸したりできるようになりました。
それもあり、投資家の方からの事故物件への需要が伸びているのではないかと推測します。

ガイドラインの制定やサービスの認知によって、実際に住まれる方を含め投資家の方の事故物件に対する印象やマインドも変わってきているということでしょうか。
花原さん 多くの方のマインドが変わったというよりは、事故物件に対する認知の高まりにより、これまで「自分は事故物件に住めるのか?」と意識して考えたことがなかった層が白と黒に分かれたような感覚です。絶対に嫌だという人もいますが、一方で事故物件が平気だと気づいた方も可視化されたのかなと認識しています。
サービス開始当初は、事故物件に対して抵抗感を抱く声もコメントも多くみられましたが、サービス内容に対しては圧倒的に好意的なお言葉が多く、「このサービスは多くの人に受け入れられるはずだ」という自信に繋がりました。
顧客への思いの強さと技術力で、空き家問題など社会課題へのソリューションを提供
御社では、不動産にまつわる社会課題の解決を目的としてほかにも様々なサービスを提供しています。その取り組みは、どういった考え方に基づいているのでしょうか。
花原さん 前提として、弊社は原則「ご相談いただいたお悩みに対して基本的には断らない」というスタンスをとっています。そうしてご相談を受けたすべての不動産の困りごとに対応していく中で、気づいたことがあります。それは、解決しようと思えばできる困りごとに対しても、費用対効果が見込めないなどの理由でどこの企業も対応しておらず、多くの売主様が困りごとを抱えているという現状です。
この弊社のスタンスが、不動産に関わる社会課題へのソリューションを提供するうえで最も重要だと考えています。
ソリューションの具体例を教えてください。
花原さん 2024年12月に設立した「負動産救命センター」では、地方の不動産問題に対するソリューションとして、全国の不動産取引業者と連携し、地方の空き家や管理が難しい田畑、山林などを取り扱っています。
そこで受け入れた「負」の不動産を価値のあるもの、「富」に変えようという意味で名付けた「富動産市場」というサービスを通じて販売していく、といった流れです。富動産市場では主に投資家の方に向け、全国の事故物件だった物件や空き家などの販売情報を発信していきます。
また現在は、自治体との連携も進めています。自治体の空き家バンクなどに登録しても買い手が付かないような取り扱いが難しい不動産をご紹介いただき、同じく富動産市場を介して購入者の方に繋げる取り組みを進めています。