「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回のテーマも前回に引き続きREIT(不動産投資信託)。今回は、日本銀行がREITの買い入れから終了、そして売却へと至った歴史を振り返りながら、マーケットに与える影響を考えていきます。
- 日銀がゼロ金利を導入した2年後にREITの買い入れを開始。約12年続いた
- 最大の投資主が日本銀行というREITも多く、日銀による「お墨付き」にも映る
- REITの売却は市場への影響は小さくても、「お墨付き」が消える効果は未知数
皆さん、こんにちは。日中、時々、強い日差しを感じるもの、すっかり秋らしくなりましたね。
政権与党の代表選挙に続く総理大臣の指名選挙などで、すっかり沙汰止みになってしまったテーマがあります。そうです、日銀です。
日銀の利上げももちろんですが、もう一つ。日銀のREIT売却です。
本稿では日銀のREIT売却について見ていこうと思います。
金利とREITに絞って日銀の動向を振り返る
【図表1】金利とREITをめぐる日銀の動向
2008年12月 ゼロ金利導入
2010年12月 日銀、REIT買い入れ開始
2016年 1月 マイナス金利政策
2022年 6月 日銀、最後のREIT買い入れ
2024年 3月 マイナス金利解除
2025年 9月 日銀、保有しているREITの売却を明言
図表1は金利とREITに絞った日銀の動向です。マイナス金利に先立つゼロ金利の導入は、2008年12月のことでした。同じ年の9月には、米国の大手金融機関リーマン・ブラザーズの破綻による、いわゆるリーマン・ショックがありました。
ゼロ金利はずいぶんと昔のイメージがありますが、実はゼロ金利の導入と解除は、2008年よりも前に一度行われたことがあります。
そして、2008年にゼロ金利が導入された2年後に、日銀のREIT購入が始まりました。さらに、その約5年後の2016年にマイナス金利政策となりました。
2022年6月が、最後の日銀のREIT買い入れとなりました。そのあと2年と経たずに、日銀のマイナス金利政策は終わりを告げました。
2008年12月に始まったゼロ金利政策は、マイナス金利と通算すると何と15年以上、続いたことになります。
「預金利息なんて知らない」「利息って、お金を借りるときの話でしょ」という若い人の声も、やむを得ないかも知れませんね。
翌2025年には、日銀は保有しているREITの売却を開始する旨を明言しました。2022年まで、日銀によるREITの買い入れは12年間、続いたことになります。
こうして、日銀の政策の変更を、金利とREITだけに絞ってみても、目まぐるしく変わっているのが分かりますね。
日銀が大株主(=投資主)なら安心?
| 銘柄名 | 主要投資主(比率) | 時期 |
|---|---|---|
| 福岡リート投資法人 | 日本カストディ銀行(25.58%) 日本マスタートラスト信託銀行(12.88%) |
2025年8月 |
| 三井不動産アコモデーション ファンド投資法人 |
日本カストディ銀行(27.27%) 日本マスタートラスト信託銀行(16.85%) |
2025年8月 |
| エスコンジャパンリート 投資法人 |
日本カストディ銀行(10.2%) 日本マスタートラスト信託銀行(9.4%) |
2025年7月 |
| サンケイリアルエステート 投資法人 |
日本カストディ銀行(21.48%) 日本マスタートラスト信託銀行(18.39%) |
2025年10月 |
図表2はREIT(=投資法人)の中から無作為に4つ抽出したものです。REITの大株主(=投資主)最上位(1位と2位)を並べたものですが、全て同じ名称であることが分かりますね。「日本銀行」とハッキリ書いてあるわけではありませんが、これら2つの名称は、投資主が日本銀行だと思われるものです。
大株主に日本銀行と思われる名称が君臨していると、やはり、何とはなしに「安心」を感じてしまいますよね。「日銀がお墨付きを与えてくれた」という錯覚が起きてしまいます。
しかし、日銀は大株主かも知れませんが、投資主の一人であることには違いありません。投資している額が大きいだけで、他の投資主と、1株だけしか保有していない投資主と、何ら変わりはありません。
2008年9月に起きたリーマン・ショックが令和に再来すれば、保有している口数に応じて含み損を抱えることになるのも、他の投資主と同じです……リーマンショックが再来しなくて良かったと胸を撫でおろしているのは、日銀も同じかも知れません。
まだ続く日銀のREIT保有……100年以上!
さて、2025年9月、日銀は保有しているREITを売却する旨を明言しました。日経平均も4万円以上の値が続いていましたから、「日銀も、いつかは売却するだろう」と、多くの取引参加者が思っていたと思います。
しかし、その「いつか」は「まさか、今?」という思いで受け止められたようで、サプライズとして受け止められたようですね。

日銀が長年買い入れを続けたETFとREITを売却するという発表は、驚きを持って受け止められた
筆者は、実は「日銀は売却せずに、保有し続けるのでは」とも思っていました。理由は、やはりマーケットに与える影響が少なくはないこと。そして、長期金利が上昇、つまり債券価格が下落すれば日銀は含み損を抱えます。
しかし、同時に保有しているREITなどの株価(投資口価格)が上昇すれば、今度は含み益を得られます。つまり、長期金利の上昇に伴う含み損を含み益によって相殺できるのではと、思った次第です。それにREITから受け取る分配金もありますし……この分配金も、有効な活用法があると思うのですが……。
日銀は保有している6550億円のREITを、毎年50億円ずつ、売却していくとのことです。6550億円÷50億円=131年、ということになります。
ですので、少なくとも日銀はまだ130年ほど、REITを保有し続けることになります。
131年というと、江戸時代が264年間でしたっけ? 鎌倉時代が135年間だったような。つまり「歴史」といえるほどの時間をかけてREITを売却していくことになります。ですので、日銀のREIT売却による市場への影響は「大きくはなさそうだ」という見方が大勢を占めているようです。
日銀のお墨付きがなくなる……そもそもお墨付きではないハズだが
さて、いつの日かREITの大株主(=投資主)の最上位から、また大株主の欄から、日本銀行と思われる名称が消える日が来るのかもしれません。REITに対する日銀のお墨付きがなくなった、ということでもないのですが、そのように錯覚する人もいるかもしれません。
日銀の売却に伴うマーケットへの影響は軽微かもしれません。しかし、「お墨付き」という錯覚による影響は未知ですね……と考えることそのものが錯覚なのかもしれません。














