テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第81回は、皇室番組を20年間担当し、皇室関連の著作も多い、放送作家つげのり子さん。

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出会いは「空手やって〼」の貼り紙 (〼は「ます」と読みます)

つげのり子さんの写真
つげのり子
放送作家
日本放送作家協会会員

普段から実の妹のように仲良くさせてもらっている、日本放送作家協会の前理事長、さらだたまこさんが、1年以上前から空手を始め、Facebookでその様子をアップしている。数か月ごとに撮影した写真を見ると、体型がどんどん引き締まり、帯の色の変化も早く、驚異的なスピードで昇級していることも分かった。

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そんなさらだ先輩を真似するように、この春から私も空手を習い始めた。一口に空手といっても、さまざまな流派があり、私が入門したのは、極真空手の流れを汲む、直接打撃を加えるフルコンタクトの一門であった。

周囲の人に話すと、「いろんな習い事があるのに、なぜ空手?」と決まって質問されるのだが、たいした理由という理由は無い。強いてあげれば、普段、自宅からコンビニに行く道すがら、町内の集会場を借りて空手教室を行っているという、貼り紙を見つけたことが動機と言えば動機である。とにかく歩いて30秒の場所にあるので、何か習うにしても通うことが億劫にならずに済む。

さらに言えば、これまで本格的なスポーツに親しんだことはなく、健康維持のためにも何かやらなくてはと思いつつ、年月だけがすぎてしまった。今更、バドミントンや水泳というのも当たり前すぎて、ここはひとつ、びっくりするようなスポーツに挑戦しようと密かに思っていた。

そんないい加減な気持ちで神聖なる武道を始めていいのかと、お叱りを受けるかもしれないが、重大なる決意など、まったく持ち合わせていなかったのが本音だ。

しかし、入門に際しては、師範の先生に「武道の深淵なる境地に達したく、いかなる厳しき鍛錬にも耐える所存」など、ウソでも言わなければならないかと思いきや、先生は「どうぞどうぞ、いつから来ます?」と、極真空手6段、体重別世界チャンピオンだというのに、いかつい感じは皆無。むしろゆる~い雰囲気で、軟弱な私を大歓迎してくれたのである。

空手教室のイメージ
相手に直接、打撃を加えるフルコンタクトの極真空手を習い始めた

こうして私の空手修行の日々が始まったのだが、そんな雰囲気なので、ド根性でとにかく限界まで頑張ると言った雰囲気でないことから、週に2日の稽古は1度も休まず、すでに半年ほどが経過した。おかげで体力の向上に関しては、とても鍛えられているように思う。そんな中、意外な空手の効用を、今、とても実感している。

それは何かというと、“闘争心”だ。私の稽古相手となっているのは、来年、アメリカの大学を受験するという、高校3年生の可愛い女の子。彼女と徒手空拳で闘うのだが、加減しているとは言え、お腹に当たれば痛い。ローキックをもらえば悶絶するほどだ。可愛い年下の女子高生とはいえ、か弱いこの私でも「こんにゃろ!」と、負けるもんかと闘志をむき出しにして対抗してしまう。

大人気ないのは分かっているが、私にとって、誰かと物理的な方法で一戦交えるというのは、人生初の体験であった。この“闘争心”の発見こそが、空手を通して得られた大きな収獲と言っても過言ではない。

フリーランサーは一本どっこ

私のような放送作家という仕事は、大抵の場合、フリーランスで働いている。いわば一人で仕事を受け、一人でアイディアを出し、会議でも一人でプレゼンしなくてはならない。さらにギャランティの交渉や、スケジュールの調整もすべて一人で行うのだ。

放送番組の制作は、とても面白い作業だが、一方でビジネスという側面も強い。テレビ局も制作会社も、きまったバジェットの中でできるだけ出費を抑えようとする。したがって、時折、法外に安いギャランティを提示されることがあるが、私の場合、いつも弱気だった。

「もう少しあげて下さい」と言えば、面倒くさい奴だと思われ、仕事を切られるかもしれないと言う不安が常にあり、大体、言い値で請け負っていたのだ。もちろん、今まで勇気をふりしぼって交渉した結果、上手くいったこともあったし、その反対に実際に仕事を切られたこともある。

ギャランティに限らず、会議でも自分のアイディアに異論を唱える、他のスタッフと議論することもなかった。喧嘩するほどの勇気がなかったからだ。「それの、どこが面白いんですか?」とか、「何を言っているのか、わかりましぇ~ん」とか、会議が一瞬にして緊張感に包まれる発言を、一度はやってみたいものだ。いや、少なくとも今後は誰かの顔色を伺いながら、発言を差し控えるような真似はしないと決めたのだ。

だから、私にとって空手が教えてくれた“闘争心”は、へなちょこな現状を打破してくれる肝っ玉のようなものと考えている。結果を恐れず、正当だと思えることを、勇気を持って堂々と主張することに、何の問題もないのだ。

空手をする私
稽古中のつげさん。空手を習い始めてから「闘争心が養われるようになった」と話す

理不尽な論法を振りかざす手合いには、「上段後回し蹴りを食らえ!」と叫んだ後に、「冗談ですよ、冗談。冗談回し蹴り」と、おちゃらけてしまうのも“闘争心”の賜物だろう。

ともかくだ。空手を始めて、心も体も何かが吹っ切れて、以前よりも重力を感じないほど軽やかな毎日が巡って来た。年の割には、まだまだ未熟な私だが、“闘争心”を糧に日々の勝負に勝ちまくっていきたいと願っている

次回は脚本家の西井史子さんへ、バトンタッチ!

是非見てください!

テレビ東京・BSテレ東『皇室の窓
天皇皇后両陛下をはじめ、皇室の方々の様々な活動やお人柄が分かるエピソードが満載。伝統や行事、公務から日常生活まで、皇室の貴重な情報をふんだんに盛り込んだ皇室番組です。

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天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)
安寧の今があるのはなぜなのか。傍流だった光格天皇から血脈を絶やすことなくつながる現代の皇室。江戸中期から現代の世に至るまで、8代の天皇が250年間かけて形成したものとは何か。近代皇室の歴史を紐解く一冊。

「天皇家250年の血脈」表紙

素顔の雅子さま』(河出書房新社)
令和の皇后、雅子さまの実像に迫る。雅子さまと直接接した11人に取材し、知られざるエピソードを探る。

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一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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