会社などの組織で務めている方は、所得に応じて毎月一定額の所得税などを払っています。税金は給料から源泉徴収されているため、各種控除などを反映せずに徴収される仕組みです。その際に払いすぎた税金は、年末調整を行うことで返ってきます。今回は、会社などで働く人にとって非常に大切な手続きである「年末調整」について解説します。
- 給与所得者は年末調整の手続きで「払いすぎた税金」が戻ってくる
- 年末調整で受けられるのは扶養控除、生命保険料控除など。iDeCoも控除の対象
- 会社を退職した場合や、子どもが失業して再就職していない場合は要注意
年末調整をすると払いすぎた税金が戻ってくる
会社員や公務員などの給与所得者は、毎月の給与から所得税、住民税、社会保険料が差し引かれてから支給される「源泉徴収制度」であることが一般的です。毎月の所得税は、概算で徴収されています。
所得税にはさまざまな控除制度があります。たとえば、給与所得者に扶養する家族がいる場合や生命保険を契約している場合、住宅ローンが残っている場合などは控除の対象となり、支払う所得税の金額が少なくなります。しかし、毎月の源泉徴収ではこれらの控除を反映できず、本来支払わなくてもいい所得税まで徴収されてしまいます。この払いすぎた所得税を取り戻すために、給与所得者が毎年の年末に行う手続きが「年末調整」なのです。
年末調整で受けられる主な控除
年末調整を忘れてしまうと、翌年2月~3月の間に確定申告をしなければ、払いすぎた税金は戻ってきません。めんどうな手続きかもしれませんが、確定申告と比べれば簡単です。忘れずに年末調整の書類を会社などに提出しましょう。
ここでは年末調整で受けられる主な控除について解説します。
扶養控除
扶養控除とは、扶養している親族がいる場合、所得から一定額が控除される(支払う所得税が減る=年末調整で所得税が戻ってくる)仕組みです。
扶養控除の対象となるのは16歳以上の親族で、19歳以上23歳未満の扶養親族を特定扶養親族、70歳以上の親族を老人扶養親族と呼びます。
それぞれの所得控除額は、以下の通りです。
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
生命保険料控除・地震保険料控除
生命保険料控除とは、遺族保障などの生命保険や介護医療保険、介護保険の3つの種類に区分され、それぞれ上限4万円で合計12万円まで所得から控除できる制度です。保険に加入した場合、所得控除の対象となる可能性があるため、保険会社に問い合わせてみるとよいでしょう。
保険が所得控除の対象となる場合は、毎年秋頃に保険会社から「生命保険料控除証明書」が届きます。年末調整に必要な書類なので、誤って捨てたりすることがないよう注意しましょう。
一方の地震保険料控除は、最大5万円まで所得からの控除が可能な制度です。マイホームの購入などで地震保険に加入した場合は、忘れずに活用しましょう。
小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除は、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛け金を拠出した際に控除される制度です。
iDeCoも小規模企業共済等掛金控除の対象となります。iDeCoで資産運用をしている方には、年末調整で必要となる「小規模企業共済等掛金払込証明書」が毎年秋に届くので、こちらも大切に保管しておきましょう。
寄附金控除
寄附金控除とは、地方自治体やNPO団体などに寄付をした際、所得から控除できる制度です。利用している人が多いふるさと納税も、寄附金控除の対象となっています。
社会保険料控除
社会保険料控除とは健康保険や国民年金、厚生年金、介護保険料などに拠出した金額が、所得控除の対象となる制度です。
年末調整をしないと、こんなデメリットがある
年末調整は会社から案内される書面に必要事項を記入し、控除を証明する書類を会社に提出するだけなので、ややめんどうではありますが、それほど難しい作業ではありません。例えば前述のように、生命保険料控除であれば、保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」を会社に提出することになります。寄付を行った場合なども、それを証明する書類が発行されます。書類が届いたら無くさないようにしましょう。
年末調整の書類に不備があると、税金の還付が受けられなくなります。その場合、還付を受けるためには確定申告が必要になります。給与所得者であっても副業などの収入がある場合は確定申告を行いますが、多くの給与所得者にとって確定申告は不要なので、年末調整を忘れてしまうとよけいな手間が増えることになります。
年末調整を忘れても、確定申告を翌年3月15日までに行えば、払いすぎた税金の還付が受けられます。しかし、確定申告は年末調整に比べ面倒な作業になるため、年末調整で済ませたほうが賢明です。
忘れてしまいがちな年末調整の“落とし穴”
年末調整は、会社から案内が来た後で、行う方が多いでしょう。しかし、特定のケースにおいては、年末調整の実施を失念することもあります。ここでは、年末調整をうっかり忘れてしまいがちなパターンを紹介します。
会社を退職したケース
会社を退職した場合、年末調整の案内が来ないため、年の途中で退職した場合は要注意です。
年内に再就職していれば、前の勤め先と合算して年末調整を行うことになりますが、再就職していない場合や、退職後は個人事業主(フリーランス)として働いている場合には、年末調整は実施できないため、自身で確定申告を行わなくてはいけません。
扶養親族を扶養に入れていないケース
扶養親族がいれば扶養控除を受けられますが、親族を扶養に入れることを忘れているケースもあります。
例えば、子どもが失業して再就職していないケースや、収入が少ない親のいるケースなどが挙げられるでしょう。なお収入が少ない親の場合は、別居していても生計を共にしていれば扶養に入れられます。