内閣官房新しい資本主義実現本部事務局が公開する資料「三位一体労働市場改革の論点案」には「成長分野への労働移動の円滑化」という論点があり、その中の項目の1つとして「勤続20年超を優遇する退職金の税控除の見直し」があります。どのような見直しが行われるか不明ですが、iDeCo(イデコ)など確定拠出年金にも関係してくるテーマであり、関連情報をまとめました。

  • 退職所得控除は、退職金を一時金で受け取った場合に一定額を控除できる制度
  • 同額の退職金を支給されても勤続年数によって退職所得の金額が変わってくる
  • 勤続20年超の1年あたり70万円の控除額を労働市場の円滑化の観点から問題視

勤続20年超を優遇する退職金税制を見直し

2023年4月13日の日本経済新聞朝刊に「『転職の壁』打開へ半歩」という見出しの記事がありました。労働市場改革について政府の「新しい資本主義実現会議」で本格的に議論をするという内容でした。

新しい資本主義実現会議でネット検索すると「新しい資本主義会議(第16回)議題:三位一体の労働市場改革の方向性」というページがあり、その中に「三位一体労働市場改革の論点案」が資料として載っていました。資料には「成長分野への労働移動の円滑化」という論点があり、その中の項目の1つとして「勤続20年超を優遇する退職金の税控除の見直し」がありました。今後の新しい資本主義会議の中で議論されることになるのでどのような見直しが行われるか不明ですが、iDeCo(イデコ)など確定拠出年金にも関係してくることなので、今回テーマとして取り上げました。

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退職所得控除とは

退職所得控除は、退職金を一時金で受け取った場合に一定額を控除できる制度になります。それにより税額計算する時の退職所得の金額を低く抑えることができます。
控除できる金額は勤続年数により<表1>のように計算方法が異なります。

<表1>
勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数 [最低 80万円]
20年超 800万円 [40万円×20年]+70万円×(勤続年数-20年)

<表1>にあるように1つの会社に長く勤めるほど控除額が増えるようになっています。

退職所得は、以下の数式で計算します。

「退職金の金額=(退職金-退職所得控除)1/2」

例えば、勤続20年で退職金1000万円支給された場合の退職所得は、

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(1000万円-800万円[40万円×20年])×1/2=100万円
     
勤続25年で退職金1000万円支給された場合の退職所得は、

(1000万円-800万円+70万円×(25年-20年))×1/2=-75万円
※退職所得がマイナスの場合は0円とみなす

になり、同額の退職金を支給されても勤続年数によって退職所得の金額が変わってきます。

iDeCo(イデコ)の運用資産の受け取り方

iDeCo(イデコ)などの確定拠出年金は、60歳以降に運用していた資産を受け取ることができます。受取方法は「年金」として受け取る方法と「一時金」で受け取る方法があります。それぞれ方法により課税の仕方が異なり、「年金」の場合は雑所得として課税されます。
計算式は、以下の通りです。

雑所得の金額=年金額-公的年金等控除額

「一時金」で受け取った場合は、退職所得と同じように計算します。計算式は、

退職所得の金額=(一時金 [運用した資産]-退職所得控除)×1/2

になります。

iDeCo(イデコ)など確定拠出年金を取り扱っている金融機関により対応は異なりますが、運用した資産の一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取ることもできます。

労働市場改革の具体策での注目点

iDeCo(イデコ)など確定拠出年金は、転職しても運用資産を持ち運べるポータビリティに優れた制度になっています。それにより、退職金のように1つの会社への勤続年数による控除額計算ではなく、加入年数となり加入年数が20年超となるケースが多くなると考えられます。

<表2>
加入年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数 [最低 80万円]
20年超 800万円 [40万円×20年]+70万円×(勤続年数-20年)

政府の労働市場改革では、勤続20年超の1年あたり70万円の控除額を労働市場の円滑化の観点から問題視しているようです。
仮に20年以下と同様に1年あたりの控除額が40万円に引き下げられた場合と現行の20年超の1年あたり控除額を比較して課税対象額をシミュレーションしますと下記のよう大きく違ってきます。

条件:加入期間40年、運用した資産2000万円 

現行制度の課税対象額:

2000万円-(800万円+(70万円×20年)=-200万円 [0円]

20年超も1年あたり控除額40万円の場合の課税対象額:

2000万円-(40万円×40年)=400万円

冒頭にも書きましたが、政府の新しい資本主義実現会議で労働市場改革の具体案について本格的な議論が始まったばかりなので、どのような方向に見直されるかわかりませんが、特に確定拠出年金の受け取り時期が近い方は「退職金の税控除の見直し」に注目しておきましょう。

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