テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第111回は、バックヤード・ライターの時乃真帆さん。

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ゴールの次の、ゴールを目指す。

時乃真帆さんの写真時乃真帆
脚本家
日本放送作家協会会員

21年前に経験した母の看取り。あの時は喪の仕事のわかりやすいゴールがあった。
たとえば四十九日、一周忌法要なんかの、はい、ここでいったん終わります! みたいな。
でもあれから21年。残された90歳の父の死は、ゴールの次の実家終いが待っていた。
2022年3月2日~12月9日に渡る、実家のあとの後始末。とお金メモも少しだけ。

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3月2日の朝。父の最後は、路上だったと知らされた。前夜20時過ぎに、自宅近くの路上で自転車ごと倒れていたという。倒れた直後をすぐに緊急搬送された。警察に一応アンナチュラル案件なので、検死解剖をしませんかと勧められる。大学病院への依頼は警察がやってくれるが、費用は遺族持ち。大体8千円~10万円らしい。ドラマで見る、ものすごいアレが10万だと想像出来たけど、8千円クラスが謎。虚血性心不全の病死系自然死で、父の場合は2万円だった。ちなみに父の一件で近所の高齢者さん達が、他所に住む子供らの電話番号を町内会長に一斉に届け出たと聞く。ホント大事。我が家は翌日になってやっとの連絡。

時節柄、親戚縁者は呼ばず家族葬。なる早の日程で決めたら葬儀屋さんに菩提寺の都合を聞いてから決めるものだと聞かされ驚く。でも若い住職は全然気にしてなかった。母の時は戒名授与も「お気持ち方式」でいくらお渡しするかものすごく悩んだけれど、若住職は松竹梅の設定価格をメールでくれた。合理的で大変よい。その昔、知人の父上が逝去された際、先に逝った母上の戒名に格を合わせましょうと菩提寺から最上級の戒名を授与されることに。だが、そのお布施の額に知人が真っ青になったのを思い出す。父上が母上の為に収めたのが300万で、同格なら同額な訳で。ウチは梅にしといてよかった。

葬儀代のイメージ菩提寺に支払う戒名授与の価格は、松竹梅から選べた

築50年の実家は不便な立地で悩ましく、売却は不動産のプロS氏に任せた。S氏が行政書士、税理士のチームを組んでくれたので、マジで助かった。彼を紹介してくれたライターの高橋泰源氏、本当にありがとう。なぜなら転勤族の父の戸籍は転籍ばかりですごいことになっていたし、金融機関も「同じ銀行の他支店」の休眠口座も含めいくつもあって、大変な量だった。それと、うっかり作りがちな携帯会社やスーパーのネット銀行は、年寄りの場合危険。バスワードのメモもなければヒントもない。解約するのにリアル銀行の倍、かかった。

思い出のプライス。

21年ぶりの我が家はゴミ屋敷とは言わないが、その4歩手前。ここから登記簿、保険証券、通帳、年金手帳など発掘しなければならない。おまけに覚えのない信託銀行や生保会社のノベルティがいくつもあるのが、なんとも怪しい……。映画「マルサの女」で学んだではないか。おかげで洗面所のタンスの後ろ、押入れのマイバッグの中、本棚の裏から、超重要な証券類を無事発見することが出来た。

トラリピインタビュー

幸いにも隣人がウチ(の土地)を買ってくれると決まる。さて、家を解体するのが売却条件で、荷物処分は遺品整理業者に丸ごとお任せコースも考えた。一戸建て5部屋の我が家で80~100万ぐらいらしい。とりあえず自分達でやってみて、無理そうなら頼めばいいと、気楽に考え、このあと地獄を見る羽目になる

自治体によるだろうがゴミ分別方法と回収方法は真っ先に要・確認。それに合わせてのスケジューリングが必要になるからだ。幸い、ウチの場合、可燃不燃は各家の前に午後3時の回収までに出せば収集してくれた。有料ゴミ袋に入って縛ることが出来れば、たいていのものは可燃不燃で出せたのも助かった。植木バサミで布団を切り刻み、ラジオも剣道着もスケート靴も、袋に入ればOK解決! 終了までに有料ゴミ袋を実に500枚は使った。

だがリサイクルゴミは違う。それぞれ月2回決められた日の朝8時までに出さねばならない。週2回日帰りで通っていた自分にそれは厳しく、仕方なく大きなスーツケースでゴミを東京の自宅に持ち帰った。手帳を見ると計21回、ゴミの運び人をやっていた。往復3時間、滞在時間5時間でよくぞ頑張ったものよ。最後のひと月はさすがに泊りがけで作業したが。

使えるけれど取っておけない品々は、家の前に「ご自由にお持ち下さい」と大書して置いておいたら、ご近所の皆さんが貰ってくださったのが本当に助かった。おまけに何かあれば手伝うよと、その場限りでなく、本当に何度も救いの手(車の発煙筒処理、セメント処分、農薬処理→畑に埋めなきゃダメ)で引き受けて下さり、感謝しかない。

ゴミ収集車のイメージ実家終いのために、可燃不燃のゴミ袋を500枚は使った

番外編で「お宅の不用品高価で出張買取ます!」も取材気分で試してみたが、あれは要注意だ。相当のブランド品、わかりやすく高値のもの以外は、引き取ってもらえない。気がついたら脇によけておいたヒスイのネクタイピンが紛失。ヒスイより土台の18金が目当てだったと思うのだが、一緒に毛布もなくなっていたのが、今も謎。ろくな品物がない事に腹を立てたのだろうか? ゴメンね何もなくてさ(怒)。でもその程度で済んで良かった。最近の事件を考えると、家の中に人を呼び込むようなうかつな真似はしない方がいい。

他の品々は米軍さんを顧客に持つ古道具屋が引き取ってくれた。琴、博多人形、レコード、有田の花瓶などで、安値だったが充分だ。古い着物も扱っているのだが、母世代の着物は丈や袖が短く絵柄も古く、アンティーク着物とは別物で不人気なのだと断られた。JANコードのない書籍は古紙回収業者に。人形やお雛様などは人形供養をしてくれる団体にひと箱6500円でお願いして別れた。

母を見送り、父を見送り、家を見送り。すべての手続きを終えたのが実に12月9日だった。

今、私の家には段ボールが5箱積んである。捨てるに迷った手紙、古い写真、兄や私の成績表などだ。値段のつけようのないこれらの思い出は、ひとつずつ手にとり、ひとつずつサヨナラをすると決めた。実家終いのあれこれにトヨタのランクルくらいの出費を要したけれど、思い出切り刻むシュレッダーハサミは、百均で手に入る。

次回は鈴木絵麻さんへ、バトンタッチ!

是非読んでください!

実家終いの間、ネットで検索しまくった「実家処分」の沢山の知恵に、助けられました。
実家終いテク、乗り切り方をこれから自分も書いていこうと思います。
2023年4月からnoteに開始予定(現在準備中)。よろしくお願いします。
時乃真帆さんのnote

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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