現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第69回は、2024年6月5日に上場したばかりの、宇宙ゴミ(スペースデブリ)の除去などを手がける注目の宇宙ベンチャー企業、アストロスケールホールディングス(186A、アストロHD)をご紹介します。
- 「軌道上サービス」を手がけるアストロHDは、世界で初めてデブリ除去技術を実証
- 文部科学省や米国宇宙軍、英国宇宙局などから大口の受注を複数獲得
- 株価は下げトレンドが続いたが、先行者利益によるシェア拡大に期待したい
アストロスケールホールディングス(186A)はどんな会社?
アストロHDは6月5日に東証グロース市場に新規上場(IPO)したばかりの宇宙ベンチャーです。衛星軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)の除去や人工衛星の軌道修正、燃料補給などのメンテナンスを手がけています。同社はこれらのサポートを「軌道上サービス」と呼んでいます。
アストロHDは、2013年に創業者兼CEOの岡田光信氏によって設立されました。現在、人工衛星は通信や観測、安全保障などあらゆる分野での活用が進んでいます。性能向上による人工衛星の小型化が進むとともに多数の小型衛星をシステムでつなぎ、ネットワークで運営する「衛星コンステレーション」が拡大しています。
ほとんどの人工衛星は、高度800~2000キロの地球低軌道上で運用されています。地球低軌道上には時速20000~30000キロの超高速で軌道を周回するスペースデブリが無数に飛来しています。その数は10センチ以上のデブリでは約34000、1センチ以下のデブリは約1億3000万とも見積もられています。
同社は運用が終了した人工衛星の除去や飛来しているデブリの除去、故障した人工衛星の観測や点検、人工衛星の軌道修正などを行い、宇宙環境の維持をミッションとしています。
RPO技術を強みに、世界で初めてデブリ除去技術を立証
同社の強みはRendezvous and Proximity Operations Technologies(ランデブ・近傍運用技術、RPO)とよばれる技術です。対象とする人工衛星に対してサービサー衛星の軌道を計算、打ち上げタイミングを調整。打ち上げ後は対象に後ろから接近し、捕獲と姿勢の安定化後に除去やメンテナンスを実施します。
RPO技術により、こうした一連の流れをスムーズに行うことができます。
同社はすでにRPO技術の実証衛星を2機打ち上げました。1機目のELSA-d衛星は、2021年3月に打ち上げ後捕獲衛星や模擬デブリを用いた接近・自動追尾の実証実験を成功させ、世界で初めてのデブリ除去技術を実証しました。
デブリの除去は民間の衛星事業者の利用を想定し、1機ごとに800~1300万ドルの収益を見込んでいます。また、既存のデブリの除去は政府などの需要を想定し、想定収益は~114億円と同社は見積もっています。
アストロスケールホールディングス(186A)の業績や株価は?
アストロHDが6月13日に発表した今期2024年4月期の決算は、売上収益が前期比59%増の28億円、営業利益は115億円の赤字(前期は96億円の赤字)でした。
2月に打ち上げた2機目の商業デブリ除去実証衛星の「ADRAS-J」が対象デブリ後方数100mまで接近に成功。また、文部科学省や米国宇宙軍、英国宇宙局などから大口の受注を複数獲得しました。
今期25年4月期の業績見通しは開示していませんが、売上収益に政府補助金収入を加算して算出したプロジェクト収益は前期比3.9倍の180億円を見込んでいます。
6月21日の終値は896円で投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約9万円、配当は無配の予想です。
6月5日のIPO時は公開価格850円に対して、初値は1281円と公開価格を約50%上回りました。その後1581円まで上昇しましたが、事前の期待が高く短期資金がその後引いたこともあり、株価は下げトレンドが続きました。
一方、人工衛星など宇宙開発を巡る競争はさらに広がりを見せています。軌道上サービスの市場規模は今後10年で累計2.5兆円規模に達すると予想され、先行者利益によるシェア拡大を見込んでいます。
受注も活発で、2024年4月末時点の想定ベースの受注残総額は285億円と政府需要の獲得が進んでいます。
日本においても10年で1兆円規模の宇宙戦略基金などの民間企業への政府支援も拡大しており、株価の再上昇に期待したいところです。