700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第191回は、前回に引き続き脚本家として活躍しながら、長編小説『蒼天の鳥』で2023年度第69回江戸川乱歩賞を受賞した三上幸四郎さん。

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江戸川乱歩賞を受賞してから1年がたちました

三上幸四郎さんの写真
三上 幸四郎
脚本家 小説家
日本放送作家協会会員

受賞してから、どんな質問が来たのか。
そして1年後のいま、どう答えるのか。そのつづきです。

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乱歩賞からの1年後

「エゴサしてますか?」

これは、東京・吉祥寺在住のYさん(大学時代の先輩)からの質問。
もちろんしてます。こう見えても脚本家生活30年。パソコン通信の時代から自分の名前を探していて、エゴサ歴も30年。そりゃあ、ついつい検索してしまいますよ。
もっともネットには、良いことも悪いこともたくさん書かれているので、良いことだけ受けとって、それ以外はスルーするようにしています。30年かけて鍛えたので、余裕です。

「賞金は何に使いますか?」

意外なことに、この質問はほとんどありませんでした。もっと聞かれると思ったんですが。
実際に副賞として賞金をいただいたのですが、壊れたスクーターやエアコンを買い換えたり、奥さんと娘の海外旅行の費用にあてたりして……残りは貯金しました。小市民の堅実さを発揮しています。

正賞の江戸川乱歩像正賞の江戸川乱歩像

「小説と脚本、どちらが儲かりますか?」

当然、こんな質問も受けました。このエッセイの大切なテーマでもあります。
いままで脚本の仕事をしてきて、原稿料、再放送料、二次使用料などをいただいてきました。
小説の方でも、もちろん原稿料や印税をいただきます。ただ私の場合、小説に関してはサンプルが少なくて、とまどっているところも多いです。
ようするに、すいません、正直なところまだよくわかりませんというのが答えになります。
どちらかが補完しあって、稼ぎが例年以上になれば、うれしいのですが。

どちらか悩むイメージ小説と脚本、結局どちらが儲かるのか……

「どうやったら小説家や脚本家になれますか?」

受賞直後から、いまだによく聞かれます。特に若い人が多いです。

トラリピインタビュー

小説家なら、いまは新人賞を受賞するのがいちばんです。
ただ昨今では、賞を取っても専業の小説家になるのは金銭面でなかなか大変だと聞きました。そのため生活費を得ることのできる別の手段を作っておく必要があると思います。
逆に脚本家は、専業がベスト
平日の昼間の打合せが多いので、フルタイムで働くとちょっと厳しくて、バイトをするにしても合間に入れるしかありません。そういう意味だと、賞レースを勝ち抜く以外に、業界の仕事(制作会社のADなど)をしながら脚本家になる、というルートがいまだに有効です。

あっ、この話題って、ずっと前に書いた私のエッセイが参考になるかも。

フリーランスの結婚について(男性限定)

「自分の小説を自分で脚本にするのですか?」

ああ、この質問もたくさん受けました。
敬愛する乱歩賞作家の野沢尚さんは、自らの小説を自分で脚本にしていました。
ところが実際にやろうとすると、この1年の経験から、すさまじいエネルギーが必要になることだけは予想できます。
野沢さんってやっぱりすごいなあ、と圧倒されるばかりで、いまのところ真似できるとは思えません。
ということで私の場合は、同じ事務所の脚本家の方におまかせするつもりです、はい。

「次はどんなお話を書くつもりですか?」

これも取材やインタビューを受けるたびに、ほとんどの方に聞かれました。
そのときはまだ何も考えてなくて、その場しのぎの答えを返していました。すいませんでした
いまはこんな答えになります。

受賞作は大正時代の地方の町や村を舞台にしたミステリーでしたが、こんどは現代ものです。しかも東京の繁華街を舞台にして、ジャンルも真逆にするつもりです。
全方向でスイッチするのは大変ですが、あえて険しい山を登ってみたいと思っています。

東京の写真受賞作は大正時代の地方の町や村が舞台のミステリー。次は東京の繁華街を舞台にして、ジャンルも真逆にする予定

「次の作品を楽しみにしています」

最後はこれです。
質問ではないのですが、多くの方に、こんなうれしい言葉をかけていただきました。ありがとうございます。

江戸川乱歩賞を受賞して1年。
はっきりとわかったのは、小説道は思ったよりもはるかにハードモード。しかもまだその入口に立ったにしかすぎません。
それでも、新たな機会を与えていただき、私に期待してくださる方がいるのは本当にありがたいと思っています。
もちろん、いままで脚本家をつづけてきたように、残りの人生、多くの人に喜んでいただけるエンタテインメント小説を書くために全力を出し切るつもりです。

次の作品もみなさんに楽しんでいただけますように。

次回は尾崎あこさんへ、バトンタッチ!

ぜひ読んでみてください

2023年度第69回江戸川乱歩賞受賞作
蒼天の鳥』講談社より発売中!

『蒼天の鳥』表紙画像

24人の作家が描くショートショートアンソロジー
これが最後の仕事になる』講談社より発売中!

※「電子の赤紙」という掌編で参加しています

『これが最後の仕事になる』表紙画像

江戸川乱歩賞作家の原作小説を江戸川乱歩賞作家が連続ドラマに脚色!
NHK-FM 青春アドベンチャー『四日間家族

原作 川瀬七緒
脚色 三上幸四郎
NHK-FM 10月28日午後9時30分~ 全10話放送開始!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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