「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も前回に引き続き、テーマは「為替」。米ドルの価値について、金利や景気とは異なる視点から考えてみます。

  • 9月末から10月頭にかけて円安が進み、原油価格も上昇した
  • ドル円の実質実効為替レートは1970年頃と同水準だが、為替は当時より円高
  • ドル安の要因として、原油の需要減少、米ドル自体の需要減少が考えられる

国内政治とアメリカ雇用統計の影響で円安ドル高に

何党の新しい代表が確定すると、円高に推移しました。その後、新しい代表が「金利は、すぐに上がることは望ましくない」と発言すると、円安傾向に動き出しました。

そして、とどめとなったのが、10月4日深夜(=日本時間)に発表されたアメリカの雇用統計です。市場の予想よりも良かったと思われたためか、つまりアメリカの金利引き下げが「小休止する」と思われたためか、この日の円とドルの為替レートは148円71銭で終わっています。

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総理大臣が変わっても円安が続く

表は9月30日と10月4日、それぞれのドル円の終値を載せておきました、1週間で5円以上、円安が進んでいるのが分かります。

【図表1】ドル円相場と原油価格の値動き
  原油価格(23:50頃) ドル円相場(終値)
9月30日 68.69ドル 143.62円
10月4日 74.39ドル 148.71円

ドル円相場を動かす、もう一つの要因

「日本銀行が金利を引き上げる」、「アメリカ(FRB)が金利を引き下げる」といった、金利の動向しだい、つまり金利政策とその思惑で、ドルと円の為替相場が動くと、多くの方がお考えだと思います。しかし、実は、この1週間で大きな動きを見せたのは、ドル円相場だけではありません。

この1週間で、もう一つ大きく動いたのは原油価格です。先のドル円相場と同じく、表には9月30日と10月4日の、それぞれの23:50頃の原油価格の相場を載せておきました。6ドル近く、値上がりしていることが分かります。
では、ドル円相場と原油価格、いったい、どのような関係があるのでしょうか?

原油価格の決済にはペトロダラーといって、その多くにドルが用いられています。つまり、原油の価格が上がれば、それだけドルの需要が高まる、つまりドル高の理由にもなるのです。

つまり、9月30日から10月4日にかけての1週間のドル円相場は、実は日本とアメリカの金利に関する思惑だけでは語れない、ということなのです。

実質実効為替レートは53年前の水準

さて、昨年のことでしたか、「実質実効為替レートで見ると、ドル円相場は53年前と同じ水準だ」というニュースが流れました。

【図表2】ドル円の実質実効為替レートの推移
ドル円の実質実効為替レートの推移
※期間は1970年1月~2024年8月(為替レートは1973年1月から)、月次
出所:日本銀行

53年前は1ドル=360円だったと、よく言われていました。しかし、直近で最も円安だったのは、今年の7月初めの160円台がせいぜいでした。ドル円相場は、53年前の1ドル=360円の半分にも及んでいません。

では、実質実効為替レートが53年前と同水準というのは、どういうことなのでしょうか?

原油の需要が減るように、ドルの価値も下がっている

円の価値も下がっていますが、実はドルの価値も下がっているのです。

ドルの価値が下がっている理由は、もちろん、いくつかありますが、その理由の一つに原油の需要の減少があると、筆者は考えています。原油の需要が下がっている背景として考えられるのが、いわゆるSDGsに代表される、地球温暖化防止の動きですね。

ドルの需要も下がっている

実は原油の決済でも、ドルへの需要が下がっています。

2023年1月17日に、サウジアラビアはドル以外の決済通貨を用いた取引の話し合いに応じるという趣旨の発言をしています。サウジアラビアは世界最大の石油輸出国です。
また、最近、経済のみならず、世界政治の場でも影響力を高めつつあるBRICS(※)でも、原油の取引にはドルではなく、「自国通貨で決済しよう」という動きがあるようです。

私たちの暮らしは原油なしでは成り立ちません。しかし、地球温暖化防止を目指して、世界では原油の需要を減らそうとしています。また原油の需要を減らしつつある中でも、決済にドルを用いるのを減らそう、という動きもあるのです。

日々のニュースやインターネットサイトで、また他ならぬ私たち自身が、「為替レート」といえば、「ドル円相場」に限って注視しているのではないでしょうか? 「ドルは世界の基軸通貨」などと言われたのは、もう昔のこと。古典と言っても差し支えないくらいです。

※BRICS……ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカおよびイラン、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピアの9カ国から成る国際会議(2024年10月時点)。サウジアラビアやタイ、マレーシアなどの参加も検討されており、国際的な経済圏として存在感を高めている。

まとめに代えて……どうする通貨分散?

通貨は弱っていますが、成長を続けているのがアメリカの企業です。ドルの価値下落を補って余りある成長ぶりを発揮できるような企業に投資をするのは、良い選択だと思います。

また、それと同時にドル以外、つまりアメリカ以外の国への投資も検討した方が良いでしょう。

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