宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回のテーマはiDeCoの「移換」。転職や退職に伴う、企業型DCなどの扱いと移換に関する注意点を説明します。

  • 企業型DCや確定給付企業年金などから、iDeCoに資産を移換できる
  • 企業型DCを退職後ほったらかすと「自動移換」になり、資産は現金化される
  • 転職前に企業型DCの利益を確定させて、iDeCoで仕切り直すという手もある

転職・退職時に発生するiDeCoへの「移換」の手続き

【質問】
4年間務めた会社を辞めて1カ月を過ぎたところで、自宅に何やら○○○証券と印刷された、年金手続きの書類がどっさり届きました。どうやら前の会社での年金積立が、退職したことで手続きが必要らしいです。自分で積立していたわけではなかったので手続きと言われてもピンとこないし、次の仕事もまだ決まっていません。手続きを急ぐ必要がありますか? 仕事が決まって落ち着いたら、年金の積立などをしていきたいと思うのですが、まだ大丈夫ですよね?

今回は、コロナウイルス問題などによって転職・退職を余儀なくされたケースなど、最近相談が増えているiDeCo(個人型確定拠出年金)の「移換制度」について話していきます。

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iDeCoでは、以前加入されていた他の年金から資産を持ち運ぶことができます。これが「移換」と言われるものです。移換ができる主な資産としては、厚生年金基金、確定給付企業年金、企業年金連合会などがあります。

厚生年金基金と確定給付企業年金は脱退後1年以内、企業年金連合会はiDeCoに加入して3カ月以内であることが、移換手続きの期限となります。
そして企業型確定拠出年金(企業型DC)です。こちらは退職日の翌月から起算して6カ月を経過するまでとなっています。
どちらも退職した後に期限がありますので、注意が必要です。

個人別管理資産の移換手続きについて(iDeCo公式サイト)

自動移換になると年金の資産は現金化される

特に企業型確定拠出年金に加入していた場合は、放っておくと「自動移換」という事態になり、資産は国民年金基金連合会(特定運営管理機関)に移換され管理されることとなります。
退職の翌月から6カ月が経って自動移換になってしまうと、自動移換手数料、管理料などさまざまなお金の支払いが余分に発生するうえ、iDeCoなどに戻す際にもお金が必要で、ムダムダのオンパレードです。何よりも、自動移換された資産は運用の指図ができず、投資信託などの運用商品は強制的に現金化されて放置ですから、運用どころではない最悪のパターンにもなります。

トラリピインタビュー

企業型確定拠出年金もiDeCoも、日々価格が変動するリスク商品が中心の運用であり、ほったらかしができない、加入者自身がリスクをとっての自己責任の仕組みであることを忘れてはいけません。
自分の意志で勉強して加入したiDeCoなら、運用のルールは少なからず聞いているかもしれませんが、勤め先で企業型確定拠出年金に加入した方は、会社員になったときに意に反して「言われるがまま署名捺印」して入った方が大半で、リスクや自己責任と言われても寝耳に水かと思います。安易にわからないまま勧められて加入した企業型確定拠出年金かもしれませんが、加入したからには「入口」と「出口」だけではなく、「メンテナンスを含めた中間点」も非常に大事になってくるのを肝に銘じておきましょう。

ピットイン
カーレースもiDeCoも、ゴールを目指すためには途中のメンテナンスが大切

ちなみに、私の知人にはiDeCoに加入したのはいいけど、残高不足で銀行口座から掛金が落ちていないことが多くあり、積立金残高が少なくきちんとした運用ができていないケースがありました。さらに年金の掛け金を拠出できなかった分は、本来なら所得控除できる額がマイナスになるので、節税効果どころではありません。そして銀行の残高が不足していても、毎月の口座管理料は資産を一部売却して取られてしまうのがルールなので、頭に入れておきましょう。このような状態では、毎年運用会社より送付される「資産残高のお知らせ」がまっかっかの赤字は当たり前のことです。

iDeCoへの移換に伴う「損の確定」を防ぐには

さて、今回の相談者のように企業型確定拠出年金に加入していた方は、本来なら速やかに移換手続きを行う必要があるのですが、退職後に次の仕事が決まっていないのですから、「積立どころではない」が現実でしょう。ですから、退職から6カ月間の猶予があるのです。その間にお仕事見つけてくださいね、と言われているようなものと思ってください。

また、次に転職する企業の福利厚生によっては、「どの年金制度を適用したらいいのか?」など検討しなければいけないことは山積みですから、ちょっと踏み込んで年金について勉強しましょう。たとえば転職先にも企業型確定拠出年金がある場合、そちらに全て移換するか、iDeCoとの同時加入が認められている場合はiDeCoと企業型DCを併用するか、どうするのが有利かを判断する必要があります。
現在の状況を知り、わからないことは確認する。当たり前のことが当たり前にできる。これが自己責任。厳しいようですが、決して他人のせいにしてはいけません。

そして、iDeCoへの移換における最大の注意点を頭に入れておきましょう。移換手続きの受付後は、自動的に前企業のDCで運用していた資産は売られ、新iDeCoの口座に移された後、新商品で運用することになります。ということは、特に前企業で運用していた商品で損失を抱えている場合には、移換するタイミングに注意が必要であることがわかりますね(退職のタイミングは注意したくても難しいですけどね。笑)。株式などの運用で言う、損を確定させてしまうことになります。

企業型確定拠出年金の運用で損が出ているときは、一度決めた退職・転職の時期を延ばすとか考えますか? なかなかそういうわけにはいかないですよね。一方、年金の移換では、これまで運用してきた資産には課税されません。それを利用して、もし先々の転職や退職を少しでも考えているのなら、DCで利益が出ているのであればタイミングを見ながら、移換前に保有している商品をいったん全て売り、現金化して元本確保型商品に移行しておくこともひとつの考えではないでしょうか?

企業型確定拠出年金で利益を確定させて、移行先のiDeCoで、新たな商品で仕切り直しです。元の企業型確定拠出年金の資格を喪失すると、運用商品のスイッチング(売却して別の商品を買うこと)などができなくなりますので、事前に運用状況を見て、元本確保型商品へスイッチングすることも検討すべきだと思います。

早まった! 遅かった! はあるかもしれませんが、それを含めての運用ですので、近いうちに転職を考えている方は特に、ぜひ頭に入れておいてくださいね。

(次回は5月21日を予定しています)

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