投資を始めようと思い立ったとき、どうしても「何を買うか」を先に考えてしまいがちです。でも、資産運用において「金融商品を買う」という段階は一番最後。そこに至るまでの「計画」と「準備」が大切なのです。
「この投資信託が欲しい!」と思ってあわてて買ってしまう前に、まずは以下の項目をチェックしてみましょう。

①今ある預貯金のうち、あるいは毎月の収入のうち、どれだけ投資に回せるかを確認しましたか?

投資信託で運用するのは「当面は使う予定がないお金」

「年3%の利回りが期待できる投資信託」を100万円で買えば、期待される収益は3万円。これを1000万円で買えば、30万円増えることになります。投資する金額が大きければ大きいほど、期待される収益も大きくなります。

しかし、投資信託は元本が保証されていません。一時的に投資元本を下回ることもあり得ます。1000万円で買った投資信託が、場合によっては1年後に10%ほど下落していることも考えられます。

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今ある余裕資金のすべてを投資に回してしまうと、何かの拍子で急にお金が必要になったタイミングで投資信託が値下がりしていた場合、含み損を抱えたまま投資信託を換金しなければなりません。その後、投資信託が値上がりしても、損をした分は戻ってきません。

一般的に、今あるお金、あるいは定期的な収入を下記の3つに分類して、それぞれの目的に合わせた金融商品を選ぶのが、資産運用の基本です。

お金を3つに分類する
1. 日々の生活費や、急な出費に備えるお金
→安全かつすぐに引き出せる方法で運用(普通預金など)
2. すぐには使わないが、近い将来必要になるお金
→安全性が高く、普通預金より高利回りの商品で運用(定期預金や個人向け国債など)
3. 当面は使う予定がないお金
→短期的な値動きがあっても、長期的な収益が期待できる商品で運用(投資信託など)

値動きのある投資信託などで運用するのは、「当面は使う予定がないお金」です。

若い世代や、出費がかさむ子育て世代にとっては、投資に回せるお金は限られているかもしれません。そういった方も、無理のない範囲で生活費や娯楽費を節約するなどして「当面は使う予定がないお金」をなるべく多く確保したうえで、積み立て投資を行うといいでしょう。

②「何年後までにいくらお金を増やすか」という運用の目標を決めましたか?

何歳までにいくら貯めるか、数値で目標を立てる

子どもの頃を思い出してみましょう。欲しいおもちゃを買うために、毎月のおこづかいを貯金した経験は、誰しもあるのではないでしょうか。

目標があるから、前向きに資産運用に取り組めます。「とりあえずお金を増やしたい」という漠然とした気持ちだと、途中で面倒になって投げ出したりすることになるかもしれません。具体的に、「何歳までにいくら貯める」という数字を出してみましょう。

目標の立て方の例
子どもの教育資金のために運用するなら……
子どもが大学に入るまでの年数と、学費や仕送りなどの支出額から算出します。
セカンドライフを快適に過ごすための運用なら……
例えば退職する65歳を目標に、退職金や年金の受取額を考慮して、さらにどれくらいの上乗せが必要かを考えます。
退職後の資産運用なら……
資産を切り崩しながらの運用となるため、「いくらお金を増やすか」というよりは、例えば「85歳時点でいくら残るようにするか」という考え方になります。

③目標を達成するために、必要な運用利回りはどれくらいかを概算しましたか?

一括投資の場合は、簡単な計算で利回りの近似値を算出できる

②で出した「何歳までにいくら貯める」という目標を実現するためには、どのくらいの利回りが必要なのでしょうか。

よく知られる計算方法として「72の法則」があります。これは、元本を2倍にするのに、年利が何%なら何年かかるかという近似値を得るための計算方法です。

計算は実に簡単で、72を運用期間の年数で割るだけ。例えば、10年間運用して元本を2倍にするために必要な利回りは、

72÷10=7.2

で、約7.2%となります(正確には7.18%)。

元本を1.25倍~3倍に増やそうとした場合に、運用期間が何年なら必要な利回りが何%かを示した表が下図です。

運用年数と運用元本の増加率、運用利回りの関係(一括投資の場合)

  1.25倍 1.5倍 2倍 2.5倍 3倍
3年 7.72% 14.47% 25.99% 35.72% 44.22%
5年 4.56% 8.45% 14.87% 20.11% 24.57%
7年 3.24% 5.96% 10.41% 13.99% 16.99%
10年 2.26% 4.14% 7.18% 9.6% 11.61%
15年 1.50% 2.74% 4.73% 6.3% 7.60%
20年 1.12% 2.05% 3.53% 4.69% 5.65%
30年 0.75% 1.36% 2.34% 3.10% 3.73%

積み立て投資の場合は下のようになります。一括投資と異なり、当初は運用元本そのものが少ないため、一括投資の場合より必要な運用利回りは大きくなります。

運用年数と運用元本の増加率、運用利回りの関係(積み立て投資の場合)

  1.1倍 1.25倍 1.5倍 1.75倍 2倍
3年 6.64% 15.89% 29.78% 42.21% 53.53%
5年 3.89% 9.15% 16.75% 23.28% 29.02%
7年 2.75% 6.42% 11.64% 16.05% 19.88%
10年 1.91% 4.44% 7.99% 10.95% 13.49%
15年 1.27% 2.93% 5.24% 7.15% 8.78%
20年 0.95% 2.19% 3.90% 5.31% 6.51%
30年 0.63% 1.45% 2.58% 3.51% 4.29%

こちらはややわかりにくいかもしれません。例えば月2万円ずつ積み立て投資をした場合、10年間続ければ、投資元本は2×10×12=240万円となります。運用目標額を300万円に設定した場合は、この元本を1.25倍に増やすことになります。その際に必要な運用利回りは、表の「10年」と「1.25倍」が交わる「4.44%」となります。

この表をたどることで、必要な運用利回りがどのくらいか、イメージがある程度つかめたかと思います。

④必要な運用利回りを実現するために、どのような投資信託を組み合わせるかを決めましたか?

期待利回りが高い投資信託は値動きも大きい

ここまで来て、ようやく商品選びの段階となります。

③で確かめた運用利回りを実現するための投資信託を選びます。利回りが1%台前半までであれば、安全性が比較的高い国内債券型の投資信託のみで対応できそうですが、それ以上の利回りを求める場合は、国内の株式やREIT、あるいは海外の株式や債券などに投資することを考える必要があります。

投資信託の運用実績を確認する際は、販売会社のホームページで商品一覧を見るか、投資信託評価サイトを活用するとわかりやすいと思います。3年以上の長期の実績で運用目標を上回っている商品が、当面の候補として挙げられます。

ただし、通常はリターンの数値が高いほど値動きの幅も大きくなります。短期的に激しく値下がりする可能性もあるので、複数の投資信託に分散投資するなど、値下がりをなるべく防ぐよう心がける必要があります。特に退職金で資産運用をする方は、事前に基準価額のチャートをしっかり確認しておきたいところです。

販売店で特定の投資信託を勧められた場合も、上記の4つのチェック項目をもとに、その商品が自分の運用目的に合うかどうかを確認したうえで投資しましょう。資産運用で失敗しないためには、「運用目的から逆算して投資信託を選ぶ」という考え方が大切です。

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