「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、株式投資の判断材料にもなりうる、「人」にまつわる数字以外の情報に注目します。
- 株主総会の資料やIR資料で、社長の考え方やこれからの事業展開について確認する
- 企業の従業員の姿はホームページの「採用情報」で確認できる場合もある
- 従業員の平均年齢にも注目。ただし「○○ホールディングス」は注意が必要
コロナ禍でのオリンピックが幕を閉じました。無観客という、本来、あり得ない環境でプレイした選手の皆さまの心境は、いかがだったのでしょうか?
オリンピックに限らず、無観客のスポーツの実況中継は、選手の掛け声やコーチの檄(げき)などが鮮明に聞こえ、新たな楽しみを味わうことができたと思っています。
スポーツにおいて、チームを支えるのは選手やコーチに監督ですが、オリンピックでは大会を支える関係者に大勢のボランティアなど、実に多くの人たちが関わります。
では、翻って、企業を支えているのは?
「企業は人なり」という言葉に表わされるように、「人」が労働者もしくは経営者として、企業を支えます。
したがって、労働者のモチベーションしだいで、また経営者の指揮しだいで、その企業の将来の明暗が分かれるのではないでしょうか?
企業は人なり……株主総会の資料やIR資料に観る経営者
株主総会の資料には、企業の経営者となる取締役候補者一人ひとりの顔写真や略歴、重要な兼職の状況、取締役会の参加状況、それに取締役候補とした理由などが詳しく載っています。
また、IR(株主向けの広報)資料には、社長の顔写真とともに、社長の挨拶が載っています。筆者は、時に社長の顔写真を拝見し、「こんなに太っていて、社長の健康状態は大丈夫か?」などと、余計なお世話を言っていたりもします。まあ独り言で、誰も聞いていませんから。
さて、今年度のIR資料に載っている社長の挨拶では、社長がコロナ禍における業績をどのように考えているのか、特に業績が著しく悪化している場合、配当金の支払い額をどのように判断したのかを語っている場合が多いのではないでしょうか?
そして、これまでの業績や配当金より興味深いのは、社長がこのコロナ禍をどのように乗り切り、またコロナ禍の収束後に、どのような事業展開を描いているのか、という点です。
株主総会の資料やIR資料などがお手元にあるという方は、ぜひ、ご覧になることをお勧めします。
もちろん、株主総会の資料やIR資料などによって、必ずしも保有している株式の売却の是非を判断する必要はありません。IR資料は、自身が株式を買った、つまり投資をした企業が、投じた資金をどのように活かしてくれるのか、その考えを知る機会になると思います。
もし、IR資料などがお手元にない場合は、その企業のオフィシャルサイトの「IR」のページをご覧になられると、類似の情報が載っているかもしれません。
オフィシャルサイトの「IR」のページは、株式の保有の有無に関係なく、どなたでもご覧になれます。
中には、「(写真の)社長に一目惚れ」をして、株式を買われる方もいらっしゃるでしょうし、「社長の挨拶」を読んで、その企業のへの投資の是非の最終的な判断にしている、という方もいらっしゃるでしょう。
このように、社長の写真や挨拶など、数字以外の情報で投資の是非を判断することを「定性的評価」とも言います。(企業の財務状況や株価、配当利回り、配当性向といった数字をもとに評価するのは「定量的評価」です)
企業は人なり……従業員を観るには?
さて、「企業は人なり」は経営者だけではなく、従業員も含まれます。
IR資料などに、従業員のことまで載せている企業はどのくらいあるのでしょうか?
以前、あるメーカーのIR資料には、従業員が「どのような仕事に取り組んでいるか」を従業員の顔写真とともに載せていましたが、従業員の紹介というよりも「事業の紹介」という趣旨でしたね。
IR資料に従業員が載っていなくても、「採用情報」などには「働く先輩の姿」などが載っていたりします。その企業に、どのような人材がいるのかだけではなく、その企業が今、どのような人材を望んでいるのかを知ることができると思います。
特に中途採用の情報では、どのようなジャンルの人材が不足しているか、あるいは事業の拡張を図ろうとしているか、想像することができるのではないでしょうか?
もっとも、IR資料ならともかく、「わざわざ採用情報のページまでは……」と逡巡される方もいらっしゃるでしょうね。
従業員の平均年齢を考える
ヤフーファイナンスの各社の会社概要には、従業員に関する数字的な情報として、単年度のみで、その推移を見ることは叶わないものの、企業の従業員数(単独・連結)、平均年齢、それに平均年収まで載っています。
表は、ヤフーファイナンスの「平均年齢ランキング」のページから、順位と設立年月日と共に抜粋してみたものです。
「順位」の高い企業10社と、低い企業10社を挙げましたが、順位の最も高い企業が、平均年齢の最も高い企業ということです。逆に、順位が低いということは、従業員の平均年齢が低い、つまり、若手従業員ばかりの企業という可能性があります。
順位 | 平均年齢 | 設立年月日 |
---|---|---|
1 | 62.0 | 2019/10/01 |
2 | 59.8 | 1946/04/13 |
3 | 58.3 | 2008/09/01 |
4 | 58.2 | 1920/04/22 |
5 | 58.0 | 1947/02/26 |
6 | 57.5 | 1946/11/14 |
7 | 57.0 | 1968/05/30 |
8 | 56.9 | 1939/09/13 |
9 | 56.6 | 1991/04/23 |
10 | 56.1 | 1967/08/01 |
…… | …… | …… |
3659 | 28.0 | 1997/05/00 |
3660 | 28.0 | 2013/04/22 |
3661 | 27.8 | 2007/08/00 |
3662 | 27.4 | 2009/10/09 |
3663 | 27.4 | 1979/03/01 |
3664 | 27.3 | 1993/02/15 |
3665 | 27.2 | 2004/03/00 |
3666 | 27.2 | 2013/07/10 |
3667 | 26.5 | 2007/03/06 |
3668 | 26.4 | 2000/01/12 |
出所:Yahoo!ファイナンス(2021年8月6日時点)
若手従業員ばかりの企業というと、将来の可能性を秘めていると期待してしまいそうですが、設立年と併せて考える必要があります。
設立間もない企業で、若手従業員ばかりなら、「若い力を結集」した企業と言えそうです。しかし、設立年からそれなりの年数が経っているのに、若手従業員ばかりという企業ですと、若い従業員を採用するものの、従業員が定着していない可能性も否めません。採用コストなどの使い方を考え直していただいた方が良いかもしれません。
では、従業員の平均年齢が高い企業は、従業員の熟練に期待できそうですが、長期投資という視点では不安が付きまといます。もっとも、この従業員の平均年齢ですが、「○○ホールディングス」の場合は留意する必要があります。
従業員の平均年齢は「連結」ではなく、「単独」で載っています。通常、持ち株会社である「○○ホールディングス」には事業部門がなく(事業部門はその子会社が受け持ちます)、IRや広報などを担当している従業員がいるだけですから、その平均年齢は、どうしても高くなりがちです。
一例を挙げれば、表の3位はあるドラッグストアチェーンですが、従業員数(単独)は26人。従業員数(連結)、つまり子会社を含む従業員数は11,708人です。表の従業員の平均年齢は、26人の平均年齢なのです。
「○○ホールディングス」ではない企業の平均年齢なら、参考にしやすいと思います。もっとも、従業員の平均年齢だけで投資の是非を判断することはないと思いますが、長期投資という視点では大切な情報かもしれません。
まとめに代えて
少子高齢社会の只中にある日本です。従業員の平均年齢の高齢化も、もちろん避けて通ることはできないでしょう。上場の有無に関わらず、若い従業員の採用に力を入れながらも、また苦しんでいるようにも感じます。
多様化が叫ばれる時代にあっては、年齢の高い従業員であっても人材として活用することが、企業の経営者に求められているのかも知れません。
従業員の平均年齢の若さだけにこだわる企業に将来性があると言い切ることは難しいでしょう。さりとて、高齢の従業員ばかりでも、心許なさを感じてしまいます。
オリンピックの中で、「僕らの時代は終わりました」と世代交代を指摘していた選手がいました。若手は若手として、ベテランはベテランとして、それぞれが能力と経験を活かすことができる企業、そして社会であることを願ってやみません。投資の判断の対象にすることは少ないと思いますが「企業は人なり」です。