世界的な課題として、地球温暖化対策が注目されています。2021年夏の終わりに実施された自民党総裁選挙でも、エネルギー政策が争点のひとつとなりました。今回取り上げるテーマは「核融合炉」。株式アナリストの鈴木一之さんに詳しく解説していただきました。

  • 総裁選の争点ともなったエネルギー政策「核融合炉」は、太陽の原理を再現
  • 核融合炉の燃料となる重水素は、地球上に無尽蔵に存在する
  • 核融合炉の関連企業は三菱重工業、東芝、三菱電機、日本製鉄、キヤノンなど

太陽の原理を再現する「核融合炉」

新型コロナウイルスを迎え入れて二度目の夏が過ぎてゆきました。感染拡大を防止するための外出自粛の要請がかかったため、出かけることがためらわれる夏休みでした。思い出が少ない分だけ、季節があっという間に過ぎていった感があります。

2021年夏の終わり、降って沸いたように自民党総裁を選ぶ選挙が実施されました。事実上、日本のリーダーを決める総裁選。4人の総裁候補が名乗りを挙げて争われました。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

誰が勝利を収めても早急に実施する政策上の課題は決まっています。新型コロナ対策と地球温暖化対策(あるいはエネルギー対策)を避けて通ることはできません。総裁選の争点はやはりこの点に絞られました。

この稿で取り上げたいのは「核融合炉」です。エネルギー対策の目玉として、総裁候補のひとりである高市早苗・前総務相が長年の持論として打ち出しました。首相に就任した際には国家プロジェクトに格上げして取り組むと明言しました。

核融合の構想が持ち上がって50年。地上に太陽を創り出す究極のエネルギーとして人類共通の夢となっています。今回はこのプロジェクトを取り上げます。

核融合は燃えさかる太陽の原理をそのまま再現するものです。太陽は誕生から46億年が経過しましたが、その間ずっと燃え続けています。中心部の温度は1600万度にも達します。太陽の内部はほとんどが水素でできていて、酸素はありません。水素同士が合体してエネルギーを作り出しています。これが「核融合」です。

太陽は直径が地球の100倍もある超巨大な恒星です。巨大なだけでなく重力によって圧縮されて、内部は超高密度になっています。1600万度の高温と超高密度によって、太陽の中心部では水素の原子核が合体してヘリウムに変わり、その際に核融合の膨大なエネルギーが生まれます。

核融合が秘めている計り知れないポテンシャルは、他のエネルギー源と比較してみるとよくわかります。地球上の人類全体が年間で使用するエネルギー消費量は0.5ゼタジュール(ZJ)と試算されています。

「ゼタ」は10の21乗を表す単位です。「キロ」(10の3乗)、「メガ」(10の6乗)、「ギガ」(10の9乗)、「テラ」(10の12乗)、「ペタ」(10の15乗)、「エクサ」(10の18乗)、と来て、その次が「ゼタ」です。

石炭の確認埋蔵量は26ZJ、ウランの確認埋蔵量は4ZJに満たないとされています。地上に降り注ぐ太陽の光は1年間のエネルギー量を計算すると800ZJになりますが、そのうち太陽光パネルでとらえられる量は1%程度の6~8ZJです。

それに対して核融合炉の燃料となる水素(より正確には重水素)は、海水中に500万ZJ以上も存在します。石炭の20万倍、地上でとらえられる太陽光の50万倍にもなります。核融合が夢の、無限のエネルギー源とみなされる所以でもあります。

海
海水中に500万ZJ以上も存在する水素が核融合炉の燃料となる

燃料となるのは、無尽蔵にある重水素

核融合の燃料となるのは水素です。宇宙に最も多く存在する元素が水素で、地球上に「水」(H2O)という形になってどこにでも豊富に存在します。

核融合を起こすには、水素よりも少し重い重水素を使う必要があります。水素やヘリウムのような元素は、中心にある原子核とそのまわりを周回する電子で構成されています。原子核をさらに詳細に見てゆくと、プラスの電荷を帯びた陽子と、電気的には中立な中性子の集合体となっています。

水素原子は陽子がひとつで、中性子はゼロです。中性子がゼロという元素は水素のほかにはありません。しかし中には中性子が1個、または2個、加わった水素も天然には存在しており、このような中性子を持った水素を重水素(中性子が1個)、三重水素(中性子が2個)と呼びます。核融合はこのような水素の同位体を使って反応を起こすのです。

重水素は、水素原子が7000個あればその中にひとつくらい存在します。地球上に豊富にある海水のうち、ほとんどが普通の水素で、7000分の1の確率で重水素が含まれています。したがって地球上には核融合の燃料としての重水素がほぼ無尽蔵にあると言ってもよい状態です。

人類の将来において、海水中の重水素を燃料に核融合発電を行った場合、1億年くらいは掘り出しが可能とされるくらい埋蔵量は豊富です。

原子核と電子が分離された「プラズマ」

さて、高温・高重力の太陽ではごく普通に水素の原子同士が合体して、ヘリウムの原子核になるという核融合反応が起きていますが、太陽と同じことを地球上で実現しようとするといくつもの技術的な問題があります

水素原子をふたつ、普通に近づけただけでは水素分子(H2)になるだけで、太陽のようにヘリウムができることはありません。核融合の反応を導き出すにはプラズマの状態を作り出さなくてはなりません

水素原子を数千度を超える高温にすると、水素の原子核と電子が結合している力を超えるエネルギーでぶつかりあうようになります。その衝突の力を利用して電子を弾き飛ばし、原子核を電子との結合状態から自由にする必要があります。原子核と電子が切り離された状態が「プラズマ」です。

水素に限らずどのような物質でも、温度を非常に高温にまで上げるとプラズマの状態になります。原子核と電子は分離され、原子核同士が衝突し合うようになります。

ただし原子核はプラスの電荷を帯びているので、通常であれば原子核同士は反発し合う関係です。その反発力を超える力で衝突させると、原子核がぶつかって合体する可能性が出てきます。これが核融合です。水素の原子核が合体する際に質量がほんのわずか減少して、その分だけ膨大なエネルギーが発生します。このエネルギーを取り出して発電に利用するのが核融合炉です。

メルマガ会員募集中

ESG特集