テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第57回は、放送脚本を収集・公開する「脚本アーカイブ活動」を手掛ける放送作家の石橋映里さん。

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脚本アーカイブズはお宝がいっぱい

石橋映里さんの写真石橋映里
放送作家
日本放送作家協会常務理事

現場で使われた脚本を手に取って読んだことがありますか?
実際に現場で使われた脚本は様々な書き込みがあり、とても貴重なお宝です。例えば、女優・三田佳子さんが使った台本には、たくさんの書き込みがあります。衣装やカツラ、小道具などの絵が描かれていたり、時にはセリフの脇に「女の顔で……」などと書き込まれていたりします。監督さんの脚本には、びっしりとカット割りが描かれています。カメラ位置以外に様々な演出指示があり、演出家を目指す人にはお宝といえるでしょう。

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ドラマだけでなく、バラエティや情報番組にも脚本(構成台本)があります。テレビ草創期の情報番組からは当時の物価がわかります。国語学の研究では、言葉がどのように変遷してきたのか、語尾の研究は重要な情報になるそうです。
これらの脚本・台本を収集し公開するのが「脚本アーカイブ活動」です。テレビ放送開始50周年の2003年、脚本家・市川森一さん(当時の日本放送作家協会理事長)が衆議院の総務委員会で、「放送台本の資料館が欲しい。放送現場は一過性のものだが、その質の向上のために、台本を系統だてて研究できる資料館を」と要望し活動が始まりました。

現在は一般社団法人 日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム(代表理事・池端俊策氏)に引き継がれ、今までに集まった脚本資料は11万点を超えました。脚本は国立国会図書館などで公開されています。

どんな脚本がどこで閲覧できるのかは、脚本データベースで検索できます。

8時だよ全員集合の台本
『8時だヨ!全員集合』(TBS)の台本

アニメ分野に特化した「アニメ脚本と脚本家のデータベースでは、脚本家のインタビューが視聴できます。人気のアニメシリーズがどのように出来上がったかなど、これまたお宝話が満載です。あらすじの英訳も少しずつ増やし、国際発信しています。

トラリピインタビュー

脚本は単に読んで楽しむだけでなく、小・中学生向け映像制作ワークショップとしても活用できます。さらにシニア向けの活動として、懐かしい番組を語りあうことで認知症予防につながる「回想法」での活用にも展開できます。

一休さんの台本
連続テレビまんが『一休さん』の台本

まさにアーカイブズは「文化のSDGs」です。

「文化のSDGs」のリアル体験

もう一つ、85歳を迎えた父の作品群です。

20代の頃に渡米した父は、ネイティブアメリカンの文化に魅了され、独学でシルバー彫金を会得。親交のあったカイオワ族のインディアンから授けられたインディアンネームは“REDMAN”でした。それから半世紀以上もインディアンジュエリーを作り続けてきました。

インディアン愛はジュエリーにとどまらず、ダンスチームを結成し、CMやTVにも出演してきました。酋長姿で羽根のボンネット(帽子)をなびかせて馬に乗り、列車を襲撃するショーやイベントも大人気でした。

しかし思春期の娘にとっては微妙です。ウエスタンブーツにフリンジの革ジャン、そしてまだ当時は認知されていなかったロン毛。絶対デートしたくない父親でした。

アトリエに入るとバッファローや熊のはく製が恨めしそうにこちらを見ています。斧や槍も本物なのでかなり不気味です。一番驚いたのは、装飾品につかう羽根を調達するために、ワシを飼うと言い出したことでした。ペットとして飼ったワシの羽根をむしり取るということか――?! この無謀な計画はもちろん叶いませんでしたが、父の提案はいつも唐突で規格外です。

宅配便で届いたのは、インディアンたちが移動住居に使うティーピー。5メートル以上ある太い木の棒をいくつも組み合わせ、厚い布製のテントを張ります。折り畳みとはいえ押し入れに収まるはずもなく、苦戦してアトリエの屋根裏に収めました。屋外イベントでは大いに役立ったテントは、ソロキャンプの走りかも知れません。

インディアンのティーピーのイメージ
インディアンが移動住居に使うティーピィーが、父のもとに宅配便で届いた

さて本題の「文化のSDGs」。インディアンは卒業し、これからは愛するコレクションをモチーフとして絵を描いて静かに暮らす、と宣言した父。ところが、予定していた展覧会は緊急事態宣言で美術館が休館のため中止。コロナという見えない敵を前に途方に暮れていた時、知人の紹介で訪ねてきてくれたのが専門誌の編集者さんでした。

REDMAN.さんの作品にはパワーがあります。引退するのはもったいない! 一緒に世界に打って出ましょう!! そんな夢のような話はないと思っていたのですが……。Instagramのフォローは1万2千超。父がガツンとハンマーで刻印を打つ動画は18.5万再生、インディアンの文化を熱く語ると海外からもコメントが入ります。神宮前に路面店が展開され、半世紀以上作り続けてきた作品が、再び息を吹き返しています。

SNSなど使わない父は、そんな状況を気にも留めず、今日もまた彫金台に向かっています。そして二人で出かけるのを拒否していた娘が、今はマネージャーとして父を支えています。そして物書きとしても──。このインディアンの言い伝えは物語が作れそうだな──などと、ひそかにストーリーを紡いでいます。

文化こそ、SDGsになじむものなのです。

次回は放送作家の荒木美子さんへ、バトンタッチ!

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■路面店 REDMAN. JINGUMAE
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-20-1
TEL 03-6804-1613
Instagram @redman.jingumae

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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