家を借りるのは面倒くさいことだらけ

前回は、LGBTの就職を支援する民間サービスを紹介しました(みんなが生きやすい世の中へ。ライフステージ別・LGBT向け民間サービス【就職編】)。
今回のテーマは「賃貸住宅」です。

大学入学や就職、結婚など、実家を離れて家を借りるタイミングはたくさんありますよね。
ちなみに私の引っ越し経験は、大学入学と就職の2回。
怠惰な私は、大学入学時、家選びから何からすべて親任せだったのですが、就職時には何とか自分を奮い立たせ、家選びや内見、不動産との交渉までをすべて自力でこなすことができました!

しかし、当時を振り返ってみると、本当に面倒くさいことだらけ……。
まずは住宅情報サイトで、“駅から徒歩○分”や“家賃○万円以内”、“エアコン・室内洗濯機置場付き”などの譲れない条件を絞り、その中で気に入った物件を内見するために不動産会社に連絡……。
そして、「いざ内見!」と意気込み、いそいそと不動産会社に乗り込んだものの、おとり物件だと判明……。
「代わりにこちらはいかがですか?」と怪しい物件を紹介されそうになり、「考えておきますね」と言葉を濁して逃げるように立ち去ったこともありました。
その時から「ぼーっとしてたらカモにされるぞ!」と自分に言い聞かせるようになったものです。
私はきっとこのとき社会の厳しさを思い知ったのでしょう。

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賃貸物件を探したり契約したりするのって、もっと楽にならないものですかね……

本題に戻ります。
気に入った物件の内見をすませ、「ここに住もう!」と決めた後の基本的な流れは以下こんな感じです。
大家さんや不動産・管理会社などさまざまな人と交渉して、さらには入居審査を経て保証人を見つけて……。
そしてようやく契約まで漕ぎつけることができます。
もう一度言いますが、家を借りるのって本当に面倒くさい!
スムーズに契約を結ぶためには、住宅情報サイトや不動産・管理会社との相性が最も重要なのかもしれません。

セクシュアリティをオープンにすると入居を断られることも

さて、セクシュアリティをオープンにしているLGBTの人が家を借りる場合はどうでしょうか。
残念ながら、いまだに差別や偏見を持つ大家さんや不動産・管理会社は存在するようです……。
例えば、カミングアウトをしている同性同士のカップルが家を借りるとき、“収入や保証人等の要件を満たしているのにも関わらず、性的志向を理由に交渉が難航し、あげくの果てには断られてしまった”なんてケースも。

こういうときは、例えば東京都の場合だと、都条例で「LGBTの差別禁止」が明文化され、性自認や性的志向を理由とした差別が法的に禁じられているので、この都条例を切り札に相手と徹底的に戦うことも可能です。
しかし、こちらの時間や体力、精神力などをかなり消耗してしまうことでしょう……。
ただでさえ家を借りるには、“引っ越し業者依頼”や“荷造り”、“電気・水道などの契約変更手続き”など入居が決まった後もやることが山積みなのに、入居審査のたびに自分たちに偏見を持つ人たちと戦わなければいけないという状況はあまりにも過酷すぎます……。

中には、泣く泣くセクシュアリティを隠し、表向きには友人同士として入居する体をとるという人もいるようです。
(友人同士の場合は、異性愛者でも、入居審査が厳しくなることもあります。“突然不仲になり、片方が出ていった場合の家賃問題”などが勃発し、長く住んでもらえる保証が乏しいためだそう。複数人で住む場合、結婚前提のカップルや結婚している夫婦のほうが審査が通りやすい現状です)

また、1人暮らしの場合でも、トランスジェンダーやXジェンダーの人が家を借りるとき、入居に必要な書類で、性別欄のどちらに丸をすればいいのかわからない! など、あらゆる問題が生じることでしょう。

そこで、最近では、LGBTの人たちがセクシュアリティに関わるトラブルに見舞われることなく、スムーズに入居まで進めるためのLGBT向けの住宅情報サイトや不動産会社が続々と誕生しているのです。
以下、選りすぐりで紹介していきます!

【LGBT向け】家を借りるための支援サイト

① SUUMO for LGBT

SUUMO for LGBT
SUUMO for LGBTのホームページはこちら

日本最大級の大手住宅情報サイトSUUMO(スーモ)が全国に網羅する物件の中から、“LGBTフレンドリー”な物件を絞り込んで検索することができます。

SUUMOが規定する“LGBTフレンドリー”な物件とは、大家さんや不動産・管理会社が「LGBTであることを理由として、入居の相談や入居自体をお断りすることはない」と積極的に意思表示している物件のこと。
これは2017年から始まったサービスであり、“LGBTフレンドリー”はすべての賃貸物件に対する条件の一つとして、新たにカテゴリーに追加されています。

<運営者情報>

運営会社は、株式会社リクルート住まいカンパニー。

代表的事業は、もちろん住宅情報サイトSUUMO。
メディアで大々的にCMを打っているため、一般的な認知度は高いことでしょう。
CM中に流れる「♪スモスモス~モ」という耳に残るメロディや、あの緑のモフモフの球体の形をした謎のキャラクターは、みなさんにとってもおなじみではないでしょうか?

ここで豆知識です!
ちなみに、あの謎のキャラクターの名前は『スーモくん』。
年齢は10030歳とありえないレベルの長寿!
趣味は「宇宙植物を育てること!」というトンデモ設定です。
そして、さらにありえない設定が……。
実は、スーモくんは片思いの相手である『スモミちゃん』と妄想の中で結婚しているのです!
さらに妄想はエスカレートしていき、何とスーモくんの脳内には、架空の存在である『スモルくん』という子どもがいるという始末。
スーモくん、けっこうぶっ飛んでますね!

『スーモくん』をもっと掘り下げたい気持ちはありますが、話を戻します。
同社はSUUMOの運営以外にも、こんなこともしています!

住まいの動向や変化を把握・予測するために、例えばちまたでよく聞く「SUUMO住みたい街ランキング」や、「LGBTの住まい・暮らし実態調査」「注文住宅動向・トレンド調査」などの幅広い住宅情報調査を行い、毎年公開しているのです。

ちなみに、同社は、2017年、2018年と連続で、日本最大級のLGBT関連イベント「東京レインボープライド」に参加しています。
イベントには、あの『スーモくん』も登場し大盛況だったそうです。

<特色>

●物件数の多さ

さて、果たしてどのくらい“LGBTフレンドリー”な賃貸物件が見つかるか、実際に検索してみました。

例として、地域は東京都内に限定します。
地域以外とくに細かい条件を指定せず、そのまま検索してみると……。

1060件、見つかりました!

場所の内訳を多い順に紹介します。トップ5はコチラ!(2019年3月15日時点)

世田谷区:238件
江東区:100件
大田区:69件
港区:61件
板橋区:60件

世田谷区が圧倒的に多いようです。
さて、なぜこのような結果になったのでしょうか?

実は、世田谷区には、「パートナーシップ制度」を導入した渋谷区と並び、2015年にいち早く「パートナーシップ宣誓」を取り入れた経緯があります。
そのため、「かなり早いときからLGBTへの取り組みを進めていている地域だから、住民の理解も浸透しているのかな~」なんて思っていたのですが、一方、渋谷区はなんと30件というあまり芳しくない結果。
同じく早くからLGBTへの施策を整備した地域同士、どうしてこんなに物件数に開きが出るのか気になったので、以下、理由を勝手に考察してみました。

実は、世田谷区の「パートナーシップ宣誓」と渋谷区の「パートナーシップ制度」では、若干内容に違いがあるのです。
簡潔に大きな違いのみを挙げると、「パートナーシップ宣誓」は、

① 条例ではなく要綱のため法的効力が薄い
② 申請するのに公正証書が必要なく、無料で宣誓受領証がもらえる
(渋谷区等いくつかの自治体は公正証書が必要で、一般的に費用は数万円かかる)

という2点です。

このへんの仕組みの違いは非常に難しいところです。
実は各自治体によって、法律上の位置づけや制度の名称、申請等の手続き、有料か無料かなど、さまざまな領域で微妙な違いが生じているようです。
自治体主導の取り組みのため仕方がないことではありますが、制度が共通化されていないと、当事者を含め一般市民にはいまいちわかりづらいですよね。

この違いを踏まえて考えると、やはりLGBT当事者にとっては、世田谷区の「無料で申請できる」という点はかなり魅力的ではないでしょうか。

公正証書作成には時間がかかります。
一般的には、作成の際、行政書士などの専門家に頼むことになるので、公正証書の申請費用以外にもコンサルタント費用など、最終的にかかる金額はかなりのもの……。
渋谷区はお金や時間をかけた分、法的拘束力は強いですが、誰しもが生活にゆとりがあるわけではありません。
若い人などは、とくにまだお金に余裕がある人は少ないはず。
それに、渋谷区は住むとなると、家賃がけっこう高いです。
(もちろん世田谷区も高めですが、賃貸だと意外と安い物件があるという説も?)

そのため、世田谷区はコストや諸手続きの面を含めて、LGBTの人の需要が高い地域なのではないかと感じた次第です。

② IRIS (アイリス)

IRIS (アイリス)
IRISのホームページはこちら

<運営者情報>

スタッフ全員がLGBTs当事者という不動産会社。

(※LGBTsとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーに含まれない性的マイノリティーの人も含む言葉。例えば、一度に複数のパートナーを持つ“ポリアモリー”なども該当します。LGBTという言葉よりもさらに広範な多様性を示す言葉です)

ファイナンシャルプランナーの肩書を持つ社長が中心となり、2016年に設立されました。

主な事業は以下の2点です。
1つ目は、不動産業。
主に東京23区を中心に、賃貸のお部屋探しや住まいの購入の相談に乗っています。
同社は、LGBTsの同棲や一人暮らしなどにフォーカスしたサポートが特徴的。
スタッフ全員がLGBTs当事者のため、より顧客のニーズを汲み取りやすいためでしょう。
また、LGBTsフレンドリーなシェアハウスも紹介しています。

2つ目は、ライフプランの相談。
「誰もが自分らしく暮らせる社会」を実現するため、LGBTsの将来設計もサポートしています。
ファイナンシャルプランナーとしての視点で、「資産運用」「住宅ローン」「保険選び」「老後支援」などの人生における幅広い相談を承っています。

社会に多様性の理解が浸透するようになってからまだ間もないことから、LGBTsの人たちには、将来のロールモデルといえる存在がまだまだ少ない現状にあります。
国による公的支援や社会保障も十分でないため、「カップルとして、または一人で生涯を過ごし、人生の最期を迎えるまでのライフプラン」が一人ではなかなか立てられない、もしくは想像しづらいのかもしれません。
とくに、介護や終活、遺産問題などは、おそらくLGBTsの人たちにとって、初めて立ち向かう問題といえるでしょう。
そんな時に、一緒に考えてくれるファイナンシャルプランナーは、心強い存在といえるでしょう。

<特色>

●ブログ
コラムのような形式で、部屋探しをするときのLGBTsの人の疑問や不安、お役立ちアドバイスなどを紹介していくコーナー。

例えば、“ゲイの一人暮らしにおすすめのエリア紹介”や“LGBTsカップルが部屋探しをする際に苦労したエピソード特集”、“LGBTs向けの新着おすすめ物件紹介”など、まさにLGBTsの人たちにフォーカスした記事ばかり。

とはいえ、LGBTsではない私が見ても非常に勉強になります。
堅苦しくない読みやすい語り口で、LGBTsが向き合うリアルを感じました。

私が興味を持った記事は「賃貸契約の際の連帯保証人問題について」です。
連帯保証人は、いざという時に支払い義務を負うなど責任が重くなるため、一般的には親族に頼むことが多いものです。

一方、LGBTsの人たちは、“カミングアウトしたところ親に受け入れてもらえなかったケース”や、“なかなかカミングアウトできず親と疎遠になっているケース”など、とくに親族間でセクシュアリティにまつわる複雑な事情があることも少なくありません。

そこで、連帯保証人を立てられなかった場合に、代替策として利用することになるのが、保証会社です。
当記事では、「そもそも保証会社とは?」という疑問や、一般的な保証料・更新料の目安、保証会社による審査基準の内情など、細かなところまで詳しく解説してくれます!

LGBTsの人たちが直面し得るさまざまな問題が想定されており、まさにかゆい所に手が届くような記事だと感じました。

たとえLGBTs当事者でなくとも、「何に困っているのか」「何に不便を感じているのか」「必要なサポートは何か」を知ることで、「異性愛者に人が当たり前にこなすライフイベントが、LGBTsの人たちにとっては、いまだに障壁が多い」という問題意識が少しでも芽生えればいいなと、私は願ってやみません。

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