お金はバーチャルで、株式がリアル
少し前には仮想通貨が話題になりました。仮想通貨は通常のお金と違って実体がなく、それなのに活発に取引されているのを見て、少し不思議に思っていました。
藤野 仮想通貨は暗号であって実体がないと言われますが、じゃあ紙のお金が実体があるかというと、お金もしょせんバーチャルなんです。1万円札は原価でいうと、紙ですから1円もしないんです。そう考えると、仮想通貨と1万円札の差はよくわからないものですよね。むしろ仮想通貨は暗号で守られているぶんだけお札より堅牢かもしれません。1万円札は盗まれたら終わりだし、燃やしたら消えてしまうので。
実は僕たちが「リアルなお金」だと思っているのは、案外バーチャルなものだということです。そのバーチャルなお金に振り回されすぎていませんか、というのがこの『お金を話そう。』で伝えたいメッセージのひとつです。お金がどんどん貯まって1000万円の貯金ができたからといって、その人が幸せになれるとは限らない。それどころか、「もっとお金を稼がなければ、もっと貯めなければ」という不安に縛られた「お金の奴隷」になっているかもしれません。
よく考えたら、お札って決して清潔なものではありませんよね。誰が触ったかわからないから、もしかしたら電車のつり革より汚いかもしれない。でもそんな「汚い紙」がお札になった瞬間に、触ったり握ったりしても平気になってしまう。「1万円」と印刷することで魔法がかかって、ただの紙がとてもありがたい存在に見えてしまうのです。
藤野英人さん
レオス・キャピタルワークス
代表取締役社長 最高投資責任者
一方で株式はどうでしょうか。昔はお札と同じように「株券」という紙を発行していましたが、完全に電子化されて、株券という目に見えるものはなくなりました。じゃあ株式の価値とは何かというと、それは会社そのものの価値です。たとえばトヨタという会社であれば、トヨタの株が100万枚あった場合、それを全部集めればトヨタをコントロールできるわけです。1枚の株を持つということは、トヨタの100万分の1の価値を持つということです。
株式を発行する会社には工場があり、機械があり、働く人がいて、製品がつくられ、そこに集まるお金がある。そう考えると、株式はお金以上に肉体性がある、生々しい存在に見えてきますよね。
でもたいていの人はお金の方がリアルで、株式はバーチャルだと思っています。本当は株式の方がよりリアルな資産だと知れば、株式投資のイメージもずいぶん変わってくるのではないでしょうか。
いまだに株式投資は「悪」だといわれることがあります。株式に肉体性を感じることができたら、株を保有することへの後ろめたさどころか、がんばっている企業や、そこで働く人に投資することを誇らしいと思えるのではないでしょうか。
インデックス投資はアクティブ投資のたまもの
投資することを「お金を働かせる」ということがありますが、今のお話を聞いて、「お金が働く」ということがよりリアルに感じられました。一方で近年の株式投資の状況を見ていると、市場平均に連動する「インデックス投資」が必要以上にもてはやされているようにも見えます。
藤野 インデックス投資は、株式マーケットに対する信頼が強い場合にのみ成り立つものです。マーケットはあらゆる人たちが真剣に勝負をして、真理の発見をしている場です。そういうマーケットの試みを信頼している人にとっては、ETFのようなインデックス型の金融商品に投資するのも良いと思います。
ところが実際のインデックス派は、そうした試み自体が良くないという人が多いように見えます。投資する会社を自分で選ぶ「アクティブ投資」は悪だという人すらいます。でも、アクティブを否定することは結局、インデックスの価値を否定することにもなります。アクティブ投資家たちが株の買い手と売り手として真剣に向き合い、その結果として株価が決まるからこそ、インデックス投資が成り立っているわけです。
「投資」と「投機」という言葉があります。株式の短期売買を繰り返すことを投機と呼びますが、よく投資は善で、投機は悪だといわれます。これも僕に言わせればナンセンスな話です。
投機とはもともと禅の言葉で、師匠と弟子のかけ合いのことです。生きることとは何か、死ぬこととは何かを問う無限のやり取りが、もともとの「投機」の意味です。その言葉がなぜ株式投資や先物取引で使われているかといえば、マーケットで日々行われていることがまさに、売り手と買い手の無限の問いかけだからです。
このように、投機とは実はとても深い言葉なのです。投機がなければ株価はなく、株価がなければ投資家は株を買えません。この「無限のかけ合いによって真理を発見する」という試みがマーケットを支えているのです。