社会や環境に悪影響をおよぼし得る企業を除外

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

2019年5月30日、日本経済新聞が「ノルウェーの年金基金がアルコールやギャンブル関連の企業を投資対象外とする決定をした」というファイナンシャルタイムズの記事を掲載していました。記事によれば、この年金基金においてタバコ会社は1999年から投資対象外であり、ポルノ関連・大麻関連の企業もすでに投資対象外となっているそうです。

このように投資対象の選択において、環境(Environment)・社会活動(Social)・企業統治(Governance)といった業績や財務情報以外の課題(ESG)を重視する投資手法を「社会的責任投資」と表現します。

「社会的責任投資」といっても、実際にはいくつかのカテゴリーに分かれます。今回ノルウェーの年金が行ったような投資手法は「ネガティブスクリーニング」と呼ばれ、社会や環境に悪影響をおよぼす可能性がある業界やそうした製品に関わった企業について、投資対象から除外する、という厳しいものです。具体的には今回の対象となった業界のほか、武器・原子力・動物実験などが対象となっているケースが見られます。

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どういったサービスを対象外とするかは、投資家それぞれが独自のルールに基づいて決定しますが、最近はクラスター爆弾などの特定の武器や、CO2排出量などの環境問題がクローズアップされるケースが増えているようです。


アルコールやギャンブル関連で売上を得る企業の株式が売却される

また、似たようなカテゴリーに「国際規範スクリーニング」というものがあります。これは国際労働機関などの国際機関等が決める規範などを基準とし、規範への準拠度合の低い企業を投資対象外とするというものです。このような特定企業を環境やモラル基準で排除する投資概念は、欧州や北欧を中心に広まっています。北欧の公的資金の運用においては、こうした投資手法の方が主流です。

一方で米国においては、資産運用者の役割は委託者から預かった資金の運用収益を最大化することである、という「受託者責任」の概念が先行したことで、収益の最大化よりモラルを優先する欧州型の社会的責任投資はあまり広がりを見せませんでした。しかし、2000年代初頭の大規模な企業会計不正やリーマン危機など、経営者のモラルに端を発した株式暴落を契機とし、企業統治を重視した社会的責任投資が発展していきました。

また日本においては企業経営において株主還元が軽視されてきたという反省から、株主重視の経営を即する議決権行使や企業と株主との対話を重視するタイプの社会的責任投資が進められています。

投資家の選択がよりよい社会につながる

このようにそれぞれの国によって、重視する視点が少しずつ異なってはいるものの、共通していることは、株式や債券投資を通じて、年金や個人の資金を預かるファンドなどが社会構造や企業統治に対し、能動的に関わる意志を持ち始めてきているということでしょう。

足元で起きている技術革新により、労働環境、エネルギー、そしてバイオや遺伝子レベルでの新製品開発など、従来のルールやモラルを覆すような構造変化がそこかしこで起きてきます。兵器の形も変わり、家電と自動車と武器を区別することすら難しくなってくるかもしれません。そうした社会変化において、株式や債券を通じて企業に資金提供をする投資家の役割は、従来とは比較にならないほど高まっていくことになります。


子どもたちに明るい未来を残すことに役立つ企業へ投資する

社会的責任投資の本来の役割は、「社会の持続的な発展」に寄与することです。利益の追求も大切ではありますが、我々の投資行動が、回りまわって子供たちの未来を左右する可能性があるということを意識することも、投資の視点としては忘れてはいけないものであるのではないでしょうか。

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