本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第8回は、両親が離婚したあと、別離した父のもとに生まれた異母姉弟の相続権と、将来起こりうるトラブルを回避する方法について見ていきます。
会ったことがない異母姉弟にも相続権がある
俗に「腹違い」「種違い」などという言葉を使ったりもしますが、「異母兄弟(姉妹)」「異父兄弟(姉妹)」という関係性は、歴史を紐解いてみても至るところで見られます。たとえば、骨肉の争いをした源頼朝と源義経は異母兄弟にあたり、彼らの実父は源義朝です。政治が結婚を左右していた時代ではさほど珍しいことではなかったようです。
しかし、現代では結婚観も多様化しました。歌手のジャスティン・ビーバーには実は4人の兄弟がいますが、全員が異母兄弟。しかしジャスティンは父親との関係性も良く、兄弟たちとも仲良し。義経の時代と違って、憎しみや悲しみを前提としないフラットな関係性の「異母兄弟(姉妹)」「異父兄弟(姉妹)」が増えているようです。
とはいえ、現代においても「会ったことがない異父・異母兄弟姉妹」をめぐって、相続でいざこざが起こることもあります。
Q.
両親が離婚をして、その後父は再婚し弟が生まれました。私には夫はおりますが、子どもはいません。両親は昨年相次いで亡くなりました。その弟とは会ったこともありませんが、私の相続人になるのでしょうか?
A.
弟さんは異母姉弟ということになり、あなたが弟さんよりも先に亡くなった場合、相続権はあなたの配偶者と弟さんにあります。
今回の相談者は配偶者がいるので、完全な「おひとりさま」ではありませんが、両親が離婚して母親にひとりっ子として育てられ、現在もお子さんがいないということなので、両親が亡くなった今は、夫が唯一の身寄りということになるでしょう。
両親が離婚したあとに父が別の女性と再婚し、その女性との間に生まれた子は、異母兄弟姉妹(今回の例では異母姉弟)ということで相続権が発生します。自身が先に亡くなった場合、相続権は配偶者と、異母姉弟となる弟にあります。たとえ本人が異母・異父兄弟姉妹と面識がなかったとしても、血縁関係がある以上、法律上は法定相続人となるのです。
生前に同意を得にくい半血兄弟姉妹のために遺言書を作る
異母・異父兄弟姉妹の相続権について、さらに詳しく見てみましょう。
父母双方が同じである兄弟姉妹(全血兄弟姉妹という)と、父母どちらか片方のみが同じ異母・異父兄弟姉妹(半血兄弟姉妹という)は、相続の順位は同じですが、法定相続割合(※)は異なります。半血兄弟姉妹の法定相続割合は、全血兄弟姉妹の1/2となります。
そして、もし将来、弟さんが亡くなり、弟さんに子どもがいる場合には、その子どもの代までは相続人となり得ます。
※法定相続割合……相続分の指定がない時に、財産権を主張できる割合
このように法定相続割合は法律で定められているのですが、実際に「土地や家などの財産をどのように分けるか」は難しいものです。普段から交流がある親戚であれば、生前に話し合い、全員の合意のもとで、財産の分け方を「遺産分割協議書」に記録として残すこともできますが、会ったことがない異母姉弟に対しては、なかなかそうもいきません。まずは夫婦だけで話し合って遺産分割協議書を作って、弟さんにはあとで合意を得るような形になってしまいます。
この場合、もし遺言書を書かずに他界したならば、遺産分割協議書に弟さんが押印してくれなければ遺産分割が成立しないことになります。
異母・異父兄弟姉妹の相続は、特にトラブルが起きやすいものです。将来のトラブルを回避するためにも、税理士などの専門家に相談して、遺言書を作成しておくことが大切です。