物価の上昇に備える方法の一つとして物価連動債があります。物価連動債は株式や通常の社債とは異なる値動きをしやすいため、投資先を分散して資産全体の値動きを抑えたいと考えている方には有効な手段です。本記事では物価連動債について解説していきます。
- 物価連動債は物価の変動に合わせて債券の元本が変動する
- 日本では「物価連動国債」が発行されており、個人でも投資信託で投資できる
- 物価連動国債の投資信託は3本。選ぶポイントは残存年数と信託報酬
物価が上がると元本が増える債券
国債や社債など、物価連動債ではない通常の債券は、100万円で発行されたら100万円で償還されます。発行されたときに債券を買った場合は、保有期間中の利息のみが収入となります。
これに対して、物価連動債は物価の変動に合わせて債券の元本が変動することが特徴です。100万円で発行された物価連動債は、発行後にインフレが起きると、たとえば元本が110万円になることもあります。逆にデフレの場合は、元本が90万円に減ってしまうこともありえます。
そのため、物価連動債はインフレ時には利益をあげられますが、逆にデフレになった際には損失が出てしまうことになります。
インフレが起きるとお金の価値が目減りしてしまうため、たとえ物価連動債の元本が10%値上がりしても、実質的な値上がりはほぼゼロになるかもしれませんが、通常の債券と同じように利息を受け取れるので、利息分が実質的な利益になります。インフレに備えるための守りの投資としては、物価連動債への投資は有効な手段の一つといえるでしょう。
ただし、物価連動債は企業の株式のように大幅な成長が期待できるわけではありません。企業の成長や経済全体の成長を享受して大きなリターンを得たい場合は、株式に投資するといいでしょう。
日本でも「物価連動国債」が発行されている
日本では2004年の3月から物価連動国債が発行されています。物価連動国債とは物価に連動する債券を国が発行しているものです。
2008年10月にはリーマン・ショックの影響で一時発行が停止されていましたが、2013年に10月に販売が再開されました。現在発行されている物価連動国債は金融機関向けに発売されており、個人が直接購入することはできませんが、投資信託などを通じて、個人も物価連動国債に投資することが可能です。
日本の物価連動国債は「フロア」と呼ばれる仕組みがあります。フロアとは物価が下がっても償還時の元本が保証される仕組みです。
物価連動国債の投資信託は3本
物価連動債に投資できる投資信託を購入する際、注目すべきポイントが2つあります。
一つは平均残存年数です。債券は残存年数(償還までの期間)が長ければ長いほど、金利変動の影響を大きく受けます。債券は金利が低下する局面で価格が上昇しますので、今後の金利上昇が予想される局面では、平均残存年数が短い投資信託を選定するとよいでしょう。
もう一つの注目すべきポイントは、保有期間中の手数料である信託報酬です。信託報酬は保有期間に応じて手数料として基準価額から差し引かれますので、できるだけ信託報酬が低いファンドを選ぶ方が良好なパフォーマンスにつながりやすくなります。短い期間での差はわずかですが、長期間投資をすることで大きな差が生まれるでしょう。
2022年1月現在、金融機関で買える物価連動国債の投資信託は以下の3本です(確定拠出年金専用ファンドを除く)。
MHAM物価連動国債ファンド(愛称:未来予想)
みずほフィナンシャルグループのアセットマネジメントONEが運用する物価連動債のファンドです。『未来予想』は今回紹介する3つのファンドの中で、もっとも平均残存年数が短いという特徴があります。金利上昇が予想される局面では選択肢としてもよいでしょう。
MHAM物価連動国債ファンド(愛称:未来予想)
資産運用会社:アセットマネジメントOne
純資産総額:181億円
設定日:2004年6月1日
過去1年の騰落率:3.3%
平均残存年数:4.7年
信託報酬(税込み):年0.66%
※データは2021年12月時点
eMAXIS 国内物価連動国債インデックス
三菱UFJフィナンシャルグループの三菱UFJ国際投信が運用する『eMAXIS 国内物価連動国債インデックス』は、今回紹介する3つのファンドの中で最も信託報酬が低いファンドです。金利情勢について中立な見方をしている場合や、長期間保有したい場合におすすめのファンドだといえるでしょう。
eMAXIS 国内物価連動国債インデックス
資産運用会社:三菱UFJ国際投信
純資産総額:18.7億円
設定日:2014年11月6日
過去1年の騰落率:3.4%
平均残存年数:4.9年
信託報酬(税込み):年0.44%
※データは2021年12月時点
日本物価連動国債ファンド
大和証券系の大和アセットマネジメントが運用している『日本物価連動国債ファンド』は、平均残存年数が長いファンドなので、金利低下が予想される場面では選択肢のひとつとして検討してみてもよいでしょう。
日本物価連動国債ファンド
資産運用会社:大和アセットマネジメント
純資産総額:59億円
設定日:2013年9月5日
過去1年の騰落率:3.8%
平均残存年数:7.0年
信託報酬(税込み):年0.649%
※データは2021年12月時点
まとめ
物価連動債はインフレに備える守りの投資の手段として有効です。株式もインフレに強い資産といわれ、経済拡大の恩恵を受けることができる資産ですが、「悪いインフレ」によって経済が停滞するような局面では、資産が株式に偏っていると大きなダメージを受けてしまいます。
投資の世界では分散投資が重要といわれています。一つの資産に集中的に投資をするのではなく、あらゆる資産に投資をすることでリスクを回避できます。物価連動債は株式や社債とは異なる値動きをしやすいため、分散投資の一環として組み入れを検討してみてもよいでしょう。